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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/09/24 朝日新聞朝刊
ぬぐえぬ疑念と不安 日米防衛協力の新指針(社説)
 
 あのときが転機だったと後になってわかることが、歴史にはよくある。十九年前につくられた日米防衛協力のための旧指針もそうだった。
 ベトナム戦争が終わり、米軍がアジアから撤収していく時期を背景としたこの指針は、日米安保体制の役割を、日本防衛からソ連をにらんだ軍事協力へ転換させた。
 その後の共同作戦計画の整備やシーレーン防衛、防衛費と在日米軍経費負担の急膨張など、今日にいたる防衛政策の軌道を決定づけたのが旧指針だった。
 しかし、当時この大転換をはっきり認識したうえで、受け入れた人は決して多くなかったはずだ。
 歴史の歯車が冷戦後からさらに次の時代へと回ろうとするなかで、いままた日米防衛協力のための新しい指針が決まった。
○問われる政治の力量
 この新指針を、米国の戦争に日本が自動的に参戦する仕組みとしてはならない。それを保障するのは、確かな安全保障観をもった政治による真の文民統制しかない。
 新指針は、三カ月前に公表された中間とりまとめに対する国内の議論や批判に十分こたえたものとなっただろうか。残念だが骨格にはほとんど変更のあとがない。
 対象となる「周辺事態」とは何か。
 指針には「事態の概念は地理的なものではなく、事態の性質に着目したものだ」という一節が加えられた。対象とする紛争や地理的な範囲をあらかじめ定めないことを、むしろより鮮明にしたのだ。
 この問題の焦点は、台湾海峡が含まれるかどうかにあった。中国の李鵬首相は「中国の内政が日米防衛協力の範囲に入るなら、日中関係の基礎を動揺させる」と語った。一方、米国は、抑止という観点からも、台湾政策からいっても、台湾海峡は排除されるべきでないと主張する。
 橋本龍太郎首相は「ひとつの中国」政策の維持をうたいつつ、指針には米国の主張をいれた。日中国交正常化後も、台湾を安保条約の「極東の範囲」に残した矛盾が、なお温存される。日中の信頼関係を損なう危うさを感じざるをえない。
 米軍への協力分野として例示した四十項目には、公海上での掃海や米艦船への武器弾薬輸送など、基地の提供に伴う便宜供与をはるかに超えた分野が列挙されている。
 船舶の臨検は国連安保理決議に基づくことが明記され、運用にあたっては、政府は実弾を使わない方針だ。だが、そうしたことだけで、新指針がはらむ問題はおおいかくせない。
 たとえば、自衛隊による後方支援は「戦闘地域とは一線を画される地域で」という制約が設けられているが、一歩間違えば、集団的自衛権の行使や海外での武力行使を禁じた憲法に違反しかねない。広い視野から個々に吟味すべき、邦人救出や国連平和維持活動での協力までを一括して盛り込んだことも、妥当とはいえまい。
 日本周辺で紛争が起きたとき、日本はどこまで米軍を支援するのか。あらかじめそれを定め、国際社会に明らかにすることは、意味はあるだろう。問題は内容だ。
 日本周辺の有事に備えた相互協力計画の検討、自衛隊法をはじめとする国内法制の整備や政府内の機構づくりが始まる。
 指針はあくまで指針である。両国の官僚が想定しうる最大限の内容を盛った協力の献立表にすぎない。憲法と安保条約上の本来の義務に照らして、新指針の行き過ぎを制し、具体化と運用に厳密を期すのは、政治の役割である。
○あるべき同盟の姿とは
 だが、日米安保共同宣言から新指針へとつながる安保体制の再定義の流れのなかで、政治はどれだけ機能しただろうか。
 新指針は、米軍に対して自衛隊が作戦面でも協力する枠組みだ。限られた分野とはいえ、日本がはじめて一定の軍事的な役割を担う。協力するか否か、どういう協力をするのかというひとつひとつの決断が、日本と周辺諸国との外交関係、ひいては日本自身の利害に直結する。
 朝鮮半島はどうなるのか。中国の発展は安全保障環境をどう変えるのか。米中関係はどう動くのか。政治家一人ひとりがそうしたことを展望し、日本の安全保障政策を論じ合わなければならない時代だ。
 しかし、国会をはじめ政治の舞台での論議は著しく低調である。新指針の中間とりまとめに対する国会での質疑は、与野党議員の多くが政府側の見解をたずねるだけに終わった。
 台湾海峡有事をめぐる梶山静六氏と加藤紘一自民党幹事長の対立も、党内抗争の色彩が濃かった。沖縄の駐留軍用地特別措置法の改正が、首相と小沢一郎新進党首の妥協によって、安保体制をめぐる討議を深めないまま成立したことも記憶に新しい。
 安保体制の解消を掲げる共産党のほか、安保論議で目立つのは民主党の「常時駐留なき安保」論ぐらいだ。
 指摘しなければならないのは、同盟関係を米国主導で進めていさえすれば、日本の安全や利益は守られるはずだ、という冷戦時代そのままの意識から、多くの政治家が抜け切れていないことである。
 歩調を合わせるだけでなく、必要に応じて、米国に厳しく注文もつける。それが同盟関係のあるべき姿だろう。
 冷戦の末期、西独は米国による短距離核兵器の近代化に激しく抵抗し、両国関係が緊張した。ソ連の脅威の正面に立つがゆえの国益の主張だった。今回、米国と対立しつつ対人地雷の禁止条約を推し進めたのは隣国のカナダだ。北大西洋条約機構には、こうした事例はいくらもある。
○なぜ信頼されないのか
 いかなる対米協力が、日本の安全と国民の権利の保護、周辺国との信頼や地域の平和という総体としての国益に沿うか、という根本からの判断を貫くことが大事だ。
 有事法制の整備は、憲法に基づく国民の基本的権利や経済活動の自由を束縛する。この機に乗じて治安法制の強化を図ろうとしてはならない。
 新指針に対し、中国は警戒し、韓国や東南アジア諸国は懸念まじりの複雑な視線を注ぐ。ロシアは肯定的な反応を示しつつ、中国との関係を強めようとしている。
 共通しているのは、日米安保体制が日本の軍事的な独り歩きを抑える瓶のふたとして機能している、という認識だ。米国を含め、それがある種の常識になっていること、平和憲法をもつ日本がそれだけの国際信頼しか得ていないのはなぜなのかを、日本の政治家たちは自問すべきである。
 朝鮮半島の平和、軍備の近代化が続く東アジアの軍縮や信頼の醸成、この地域の多角的な安全保障の枠組みづくりに十分に力を尽くしているだろうか。
 
 
 
 
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