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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/06/25 朝日新聞朝刊
新旧ガイドラインを比較検証 「抑止」から「米支援」へ
 
 今年秋に最終報告が出る予定の「日米防衛協力のための指針」の見直し(以下、新ガイドライン)とは何か――。それを見きわめるための有力な方法の一つは、一九七八年に作られた現在の指針(以下、旧ガイドライン)の検証だろう。それをもとに、新旧の内容、思惑、背景を比較すると、新ガイドラインに込められた意味と、そのはらむ問題点が鮮明に浮かび上がってくる。
(本田優・政治部)
○現指針 日本有事に備え
 七五年三月八日の参院予算委員会。上田哲氏(社会党=当時)は「海上自衛隊と米海軍がシーレーン防衛、海域分担の日米軍事秘密協定を持っている。シビリアンコントロールの根底を揺るがす」という趣旨の追及をした。「調査」を約束する坂田道太防衛庁長官。この場面は、上田氏が一本とったかに見えた。
 だが、慎重な答弁を繰り返してきた防衛庁が「豹変(ひょうへん)」する。
 四月一日の同委員会。坂田長官は、「秘密協定」を否定しつつも、日米制服間で研究が行われていることを認め、丸山昂防衛局長が「米国と作戦の打ち合わせをしなければならないが、取り決めがなく、制服レベルの研究に終わっている。根本的に解決しなければならない」と、踏み込んだ答弁をしたのだ。
 これが旧ガイドラインの源流である。
 その年の八月、シュレジンジャー米国防長官が来日し、坂田長官との会談で、(1)日米防衛首脳の定期協議(2)有事の作戦協力を話し合う連絡調整機関を設置――などの点で合意した。
 丸山氏が述懐する。
 「当時、米韓も米比も防衛首脳協議をしていた。日米間は安保協議委員会(SCC)の構成員が日本側は外相、防衛庁長官で、米側は駐日米大使や太平洋軍司令官だった。何とか対等の協議にしたかった」
 「日本有事の際、米軍がいつどう支援してくれるのかも分かっていなかった。日本の作戦計画として防衛庁が毎年作る年度防衛警備計画は、制服トップの統幕議長が在日米軍司令官に報告していたが、『了承』の一言で終わっていた。一方的で、米側の作戦計画を聞くことができなかった。これはおかしい、両方の調整が必要だと考えていた。上田さんの質問をチャンスとみて、坂田長官に相談して二人で決めた」
 日本の提案を受けた米国は、すぐに了解した。「防衛問題で日本側から提案するなどというのは珍しいこと。積極的に出てくるなら芽を摘み取るべきではないと考えたのだろう」と丸山氏は見る。
 七五年は米国にとって、ベトナム戦争敗北の年でもあった。米国の受け身の姿勢には、その沈痛な空気も影響していた。
 旧ガイドラインは約三年後に完成する。その大きな特徴は、日米安保条約五条の事態である日本有事については詳しく書かれているが、六条に示された日本以外の極東の事態については、申し訳程度にしか触れてないことだ。
 丸山氏は言う。「米軍への便宜供与で各省庁が関係する六条は、防衛庁から声をかけてもできない。ノータッチだった。後回し。さもないと、せっかく作ったものをなくしてしまう恐れもあった」
 それでも、米ソ対立の冷戦下では、事実上問題なかった。それは「抑止」の世界だったからだ。
 ソ連の極東の出入り口をちょうどふさぐような格好にある日本列島の位置が、七九年のソ連によるアフガニスタン侵攻以降顕著になった新冷戦で、大きな効果をもたらした。
 自衛隊の増強や日米防衛協力強化が、日本防衛と同時に「対ソ封じ込め」の意味を持ったからだ。八〇年代のレーガン政権に入って、米国は、シーレーン防衛などの役割分担や対潜哨戒機P3Cの大量配備など、日本の防衛政策が対ソ戦略に沿ったものとなるよう強い圧力をかけた。
 日本側はそれを「抑止=日本防衛」という論理で受けとめた。「有事になっても米軍や自衛隊が合法的に対応できるよう、有事法制を整備すべきではないか」。八七年ごろ、部下にそう議論を仕掛けられた西広整輝防衛局長(故人)は「考えてもみろ。抑止が破れて有事になったときは、日本はおしまいなんだぞ」と反論したという。
○新指針 迫られる自主判断
 新ガイドラインの際立つ特徴は「日本周辺の事態」の日米協力に重点を置こうとしていることだ。
 旧ガイドラインで事実上先送りにされた六条事態の「宿題」(首相周辺)という部分もあるが、中間とりまとめには、機雷掃海、輸送協力、海上封鎖など「便宜供与」の範囲を超えた対米支援が多い。
 米国は「ヤリ」、日本は「盾」というのが、冷戦時代からの防衛庁の一貫した説明だが、新たに「ヤリ」の補給役まで果たそうとしているかのようでもある。
 ソ連の崩壊で、冷戦は終わり、かえって地域紛争の数は増えた。「試練の日々」(栗山尚一前駐米大使)だった九一年の湾岸戦争、九四年の朝鮮半島核疑惑での水面下の危機管理対策のつまずきという「二つの挫折」が見直しの主たる動機だ。
 日米同盟がアジア太平洋の安定要因として各国から受け入れられるのであれば、日本も可能な限り地域の平和維持に協力すべきだろうし、危機管理の法整備が必要な面もあるだろう。
 問題は、同盟が逆に地域の分裂や対立を呼び起こす危険性もあることだ。特に、新たな大国である中国に対して、米国政府は関与政策を打ち出しているものの、昨年来の米国内の中国脅威論の高まりを反映して、その政策は大きく揺れている。
 六月上旬にクアラルンプールで開かれた安全保障問題のシンポジウムでも、米中関係の緊迫化が焦点の一つになった。マレーシア戦略国際問題研究所のノルディン・ソピー所長が「我々は対応を誤ると、今世紀中に第二の冷戦を迎えることになるだろう。米中ともに相手を悪魔のようにみなすことはやめるべきだ」と語ると、場内がしーんとなり、やがて大きな拍手に包まれた。
 日本にとって米中が衝突したら「存在すらできなくなる」(松永信雄元駐米大使)という事態に追い込まれる。そうならないように日米同盟をコントロールしていくには、「日米安保至上主義」といった批判が外務省の有力OBからすら出る現在の外交防衛政策を均衡のとれたものにし、米国と日本、さらに周辺諸国の国益を総合的に調和させていく努力が必要だろう。
 冷戦時代は「日米同盟」というよりも「西側同盟」の一員だったことも、踏まえておくべき事実だろう。従来、グローバルな外交・防衛政策は、米国と欧州諸国の動きを見ていれば判断しやすかった。だが、これからのアジア太平洋では、日本の自主的な判断がより必要な場面も少なからず出てくるのではないか。ガイドラインの見直しには、そうした要素も考慮して、自由裁量の余地を確保しておく必要があるように思われる。
 旧ガイドラインでは、その発端の日米防衛首脳合意から完成時まで、ロッキード事件、三木おろしなど、大スキャンダルと政争の陰に隠れて、ほとんど国会での論議は行われなかった。新ガイドラインは政局の焦点だが、国民が真に必要としているのは、政党の数合わせではない、本質的な議論だ。ことは二十一世紀に向けた日本の針路の選択である。前車の轍(てつ)を踏んではならない。
<新旧ガイドラインをめぐる動き>
●旧ガイドライン
1974 12 三木武夫内閣成立
1975 4 フォード米大統領がベトナム戦争終結を宣言。南ベトナムのサイゴン陥落
8 坂田道太防衛庁長官とシュレジンジャー米国防長官が東京で会談、有事の日米防衛協力強化などで合意
12 フォード米大統領が新太平洋ドクトリン発表
1976 2 米上院多国籍企業小委員会でロッキード事件表面化
7 ロッキード事件で田中角栄前首相を逮捕
10 防衛計画の大綱を閣議決定
12 福田赳夫内閣成立
1978 11 「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を閣議で報告、了承
12 大平正芳内閣成立
1979 12 ソ連がアフガニスタンへ侵攻
●新ガイドライン
1991 2〜4 湾岸戦争
12 ソ連崩壊
1993 8 細川護煕内閣成立
1994 4 羽田孜内閣成立
6 米国が国連安保理常任理事国などに北朝鮮の制裁決議案を提示
6 カーター元米大統領が訪朝。金日成主席が核開発凍結などの意向を伝える
6 村山富市内閣成立
1995 2 米国が東アジア戦略報告(ナイ・リポート)を発表
11 新防衛計画の大綱を閣議決定
1996 1 橋本龍太郎内閣成立
4 橋本首相とクリントン米大統領が、ガイドライン見直しなどを盛り込んだ日米安保共同宣言に署名
5 橋本首相が在外邦人救出、大量難民対策、沿岸・重要施設警備、対米支援の具体的検討を指示
5 ガイドライン見直し作業開始
1997 6
中間とりまとめを発表
最終報告決定(予定)
 
 
 
 
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