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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1997/06/09 朝日新聞朝刊
有事への指針とは何か 「日米安保を考える」(社説)
 
 日米両政府がめざす新たな防衛協力態勢の全体像が浮かび上がった。
 昨春の安保共同宣言に基づいて、両政府が進めてきた防衛協力の指針見直しについての「中間とりまとめ」がそれである。
 一九九五年の新防衛計画の大綱の決定から安保共同宣言をへて、さきの駐留軍用地特別措置法の改正へと続いた安保再定義は、秋に予定されるこの新指針の決定でひとまず完結することになる。
○安保政策の歴史的な転換
 現指針は、十九年前につくられたとき、日本防衛のための日米協力という安保体制を、ソ連に対する共同防衛態勢へと変貌(へんぼう)させた。今回の見直しも、冷戦後の情勢変化を受けた米戦略の転換に伴う日本の安全保障政策の歴史的な転換を意味する。
 憲法とのかかわり、文民統制のあり方、国内法制の整備の適否、アジアに対する中長期的な影響など、あらゆる角度から徹底的な検討を加えなければならない。
 この地域は、緊張が続く朝鮮半島、台湾問題や多くの領土対立をかかえる。紛争の予防や早期終結のために、日本は米軍への基地の提供や財政支援にとどまらず、その戦闘行動を直接支える協力を惜しむべきではない、というのが「とりまとめ」の考え方である。
 ここに盛り込まれたいわゆる日本周辺有事の際の協力はきわめて包括的だ。
 米軍の戦闘行動を効果的に助けるには、民間空港や港湾施設の提供、日本国内の道路輸送、海空域の調整、基地の警備、物資の提供など、幅広い協力が必要となる。いわば日本政府あげての支援態勢がとられることになるといっていい。
 自衛隊による後方支援としては、憲法が禁じている集団的自衛権の行使をめぐる政府見解を、実質的に変更する可能性のある行動が具体的に列挙された。
 たとえば機雷の掃海である。武力行使の手段として機雷を敷設したのであれば、その除去は、敷設した相手国に対する武力行使にあたるというのが、いまの政府の立場である。
○憲法の歯止めを守れ
 集団的自衛権の行使にあたるか否かは、米軍の戦闘行動との「一体性」があるかないかによるという政府見解からすれば、「日本領海および周辺公海上で」という制約はあっても、米軍の行動を助けるための掃海は憲法上の疑いをぬぐいきれない。
 戦闘行動中の米軍に対する情報提供、公海上の米艦艇への武器や弾薬の輸送、船舶の臨検もそうだ。補給や輸送を中心とする後方支援は、戦闘地域とは「一線」を画した場所で行うとしているが、実際には、その「一線」をあらかじめ決めておくことはきわめて難しいだろう。
 こうした政策転換が、十分な国民的合意なしに進められてはならない。
 安保条約の第六条が想定する極東有事にあたっての「便宜供与」のあり方は、検討課題とされながら、放置されてきた。日本として米国の軍事行動をどこまで支援すべきかを考えぬくことは大事だ。それを明確にし、内外に明らかにすることは、各国の疑念を解くのにも役立つだろう。
 具体的な対象として想定されるのは、まず朝鮮半島での武力紛争である。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の動向が国際社会や日本に与える影響を考えれば、そのとき日本が何もしないという選択は考えにくい。その場合でも、あくまで集団的自衛権の行使についての政府見解の枠内の支援にとどまるべきことは言うまでもない。
 北朝鮮の核疑惑で朝鮮半島の緊張が高まった九三年から九四年春にかけ、経済制裁への協力、米軍支援などが政府、自衛隊内で極秘に検討された。だが、やれること、やれないことは、密室でではなく、国民の目にさらして振り分けるべきなのだ。
 集団的自衛権の行使と海外での武力行使の禁止は、憲法九条そのものである。それが東アジア諸国の日本に対する信頼をつなぎとめ、地域の安定に寄与していることを見落としてはならない。
 そうした原則に立てば、公海上の米艦艇への武器・弾薬の輸送をはじめ、米軍との一体性の強い行動は、当然新指針から除かれるべきである。情報提供や機雷掃海から日本国内での補給や武器の修理に至るまで、想定される作戦計画や運用を前提に、具体的な論議を重ねて、その是非や支援の程度を厳格に判断する必要がある。
 「日本周辺地域」とはどこをさすかを、政府が説明することも欠かせない。
○事前協議制を再生させよ
 指針見直しは日米だけの問題ではない。中国は繰り返し、中国封じ込めにつながることへの警戒感を表明している。指針の見直しには、日中関係を傷つけ、地域の安定を損なう危うさが同居している。
 中国封じ込めのための新指針ではないことを明確にする必要がある。その姿勢は、対米協議でも貫かれるべきだろう。
 日本が防衛政策で抑制的な姿勢を貫くことは、憲法の制約とともに、国益判断からする外交上のフリーハンドを確保しておく意味もあるはずだ。いまこそ事前協議制度に命を吹き込まなければならない。
 中間とりまとめには、新指針を実効あるものとするため「具体的な政策や措置」に反映させることがうたわれている。
 超法規的な事態を生まないようにするのは、法治国家として当然の建前ではある。しかし、有事法制は憲法が保障する基本的な自由を侵害せざるを得ない。可能な限り現行法で対処するのが大原則である。
 自民、新進両党内からは有事法制をめぐる勇ましい主張が、政界再編への思惑もこめて語られている。
 しかし、いま政治に求められているのは指針見直しの課題をめぐって、国民の立場に立った真の文民統制を確立することではなかろうか。有事対処にからんでは、六〇年代の「三矢研究」など、文民統制を疑わせる出来事が起きた歴史がある。そうした過去を繰り返すわけにはいかない。
 いざというときに備えて、平素から何を準備すべきかという議論を避けるべきではない。だが、「非常時」の備えとして国民を動員し、経済活動や民主主義を抑圧したあげく、国際的に孤立し、みずから墓穴を掘ったのが、かつての日本だった。
 安全保障とは、いざというときのための最低限の備えをしつつ、同時に、平和な環境をつくりだすために、それ以上の力を外交に注ぐことでなければならない。米国の世界戦略の一翼を担ってさえいれば安全保障がまっとうされるわけではない。
 秋に向けた防衛協力指針の策定と有事法制論議は、日本の政治が、長年慣れ親しんできた冷戦型の思考から抜け出せるかどうかを問いかけている。
 
 
 
 
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