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1994/01/10 朝日新聞朝刊
防衛大綱見直しは広い視野で(社説)
このうえ、新しい課題に手を広げて大丈夫なのか。そんな思いもしないではない。しかし、防衛計画大綱の見直しは冷戦終結以来の懸案だ。細川護煕首相が新年の記者会見で示した意欲を歓迎したい。
首相は、防衛庁が予定していたよりも一年繰り上げ、来年度中に見直しをすませる考えを表明した。そのための諮問機関も、従来想定されていた防衛庁長官のもとではなく、首相直属のものにするという。
日本のこれからの防衛力整備のあり方を新しい理念に沿って定めるのは、大きな政治課題である。首相自らが取り組む姿勢を示したことは、その重みを正しく受け止めたといえよう。
現在の防衛計画大綱は、東西冷戦が緊張緩和に向かっていた一九七六年、三木内閣のもとで防衛力整備の指針として定められた。「限定的、小規模な侵略に独力で有効に対処する」ことを目標とし、「基盤的防衛力の整備」という考え方に立った。
それは、脅威対応型ではないとされているが、八〇年代の米ソ対立の激化で、「ソ連の潜在的脅威」への対抗を軸に実質的には脅威対応の防衛力増強となった。
八九年の米ソ冷戦の終結宣言に続いて、九一年にはソ連が崩壊し、東西対立という構造そのものが消滅した。最近になって、ロシアの右翼の登場という新たな不安が生じてはいるが、それは多分に政治的なものだ。ロシアは、かつてのソ連のような強大な軍事力の再建に動き出したわけではないし、そうしようにもにわかにはできないほどロシア経済は余力を失っている。
とすれば、軍事的な脅威は、激減したといってよかろう。にもかかわらず、これまで政府は、大綱の見直しを先延ばししてきた。そこには、新たな脅威の材料をどこかに求めようとする姿勢がうかがえる。
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核疑惑や、日本に届く労働1号ミサイルの開発は、たしかに不安を誘う。中国の海軍力の近代化もこの先、注意を要しよう。地域紛争の多発傾向もなお続きそうだ。とはいえ、これらを大きな脅威と騒ぎ立てるのは感心できない。
むしろ、脅威の質が変わったと考えるべきだろう。冷戦構造にかわる新しい秩序がいまなお不透明であり、不安定感、不確実感が増している。それらにどう取り組むかが、新しい大綱の根幹に据えられなければなるまい。
それには、軍事合理性を追求するだけでは対処できない。日本はやはり、首相がいうように、「率先して軍縮を主導する」ことが必要だ。そうすることによって初めて、軍事大国を志向せず、軍事力を外交の後ろ盾としないことをアジア諸国にはっきりと示すことができる。
防衛当局は、大綱別表に定めた十八万人の陸上自衛隊の定員を、十五万人以下に改めることで「率先軍縮」への答えとする考えを固めている。しかし、十八万の定員は、かつて満たされたことがない。現状は十五万三千人である。
外敵による直接侵略はまずありえない。内乱が予想される時代でもない。陸自を思い切って減らし、その中で国連協力の別組織をつくることを真剣に考えたい。
新しい大綱は防衛力整備の指針であると同時に、二十一世紀に向かう世界に対して、日本が自らの生き方として放つメッセージでもあるべきだ。その意味で、新防衛理念は、専門家の知識に頼るだけでなく、国民の常識をかみ合わせた広い視野に立つものでなければならない。
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