1993/10/07 朝日新聞朝刊
在日米軍の駐留経費 日本の負担5000億円(みんなのQ&A)
Q 在日米軍の駐留経費のうち、「軍隊の行動そのものにかかわるため負担できない」とされてきた軍維持費の一部を、日本が受け持つことになるそうだね。
A 政府は、米軍の人員や装備を自衛隊が無償で運搬する方法を、新たな負担として考え出した。人件費とともに、これまでは米軍が全額支払ってきた経費だ。人件費を日本が支払えば、米軍は雇い兵になる。さすがに米側もそこまでは要求しないだろう。
Q 日本が運搬を引き受けようとする背景は何だろう。
A 大きな理由は、神奈川・厚木基地の騒音軽減のために、日本が硫黄島移転を働きかけている空母艦載機夜間発着訓練(NLP)だ。一回あたりの人員や資機材の運搬に、約一億円が米側の支出になっている。日本政府は米軍がこの負担を嫌って「移転しない」と言い出さないか、気掛かりで仕方ないんだ。
Q で、どうやれば新たな拠出が可能になるのだろうか。
A 政府は、日米地位協定の具体的な中身を取り決める両国政府間の特別協定に盛り込むことで、この問題をクリアしようとしている。具体的には九五年に期限が切れる現在の協定後に、自衛隊による「役務の提供」を盛り込んだ協定を結び直す方針だ。
Q 海外で、自衛隊が米軍の軍事行動に加担する可能性はないのだろうか。連立与党内から、強い反発が出ないだろうか。
A 地位協定は、日本国内での米軍のあり方を規定したものだから、海外で援用される恐れはないだろう。ただ、歯止めのない駐留経費負担への批判は噴出するだろう。とはいえ、地域住民が苦しんでいる騒音軽減は国の責務でもある。政府部内での反発はしにくいのではないか。反論に対しては、「NLPが硫黄島に移らなくてもいいのか」という殺し文句も用意されているようだ。
Q ところで、現在、日本は在日米軍の駐留経費をどれくらい負担しているの?
A 今年度の主なものは、防衛費から拠出される二千二百八十五億円。これに基地周辺の自治体に対して「迷惑料」として支払われる周辺対策費などを加えると、関係費は五千億円を超す。それが税金で賄われている。国民一人が年間四千円近くを払っている計算だ。
Q 支払っている項目には、どんなものがあるのだろう。
A まず日本人の基地従業員約二万二千人の労務費。負担が始まった一九七八年には手当の一部だけだったが、九五年には本給を含む全額を支払うことになる。それに一昨年からは米軍人家庭の光熱水料まで引き受けた。また隊舎や家族住宅のほか、今では米軍機の格納庫や艦船の桟橋なども建設している。
Q おんぶにだっこだね。米軍経費総額の何%にあたるの?
A 九五年にはちょうど五〇%になる予定だ。こんな国は世界にない。しかも自衛隊による「役務の提供」は、これまでのように明確な金額で出ることはなく、自衛隊の経費の中に織り込まれてしまう。駐留費の負担問題は、いよいよ国民の目からわかりにくくなってしまいそうだね。
(谷田邦一=東京・社会部)
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