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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1992/06/16 朝日新聞朝刊
PKO協力の不幸な出発(社説)
 
 なんともやりきれない、異常な衆院本会議であった。多くの国民が、そう感じたのではないか。社会、社民連両党の全議員が欠席した中で、国連平和維持活動(PKO)協力法は可決され、成立した。
 国の針路変更にかかわる重要な法律が、土壇場で野党第1党を欠いたまま議決されたことを、私たちはまず、はっきりと心にとどめよう。
 議員辞職願提出や最終段階の本会議ボイコットは、本来あってはならないことだ。しかし、抗議・抵抗手段としての牛歩戦術を含めて、少数派のとった行為の一つひとつをそれだけ切り離して考えるのではなく、ことの始まりからそこに至った全体の流れのなかで、問題の是非を包括的な視点からしっかり考えることが、いま一番大切なのだと思う。
 この法律は本来、次の3点から考えて、きわめて慎重に取り扱われるべきものであった。
 第1に、自衛隊の部隊の組織的な海外派遣を初めて可能にする内容から考えて、戦後の大きな方向転換をもたらすものであること。
 第2に、冷戦後の日本の安全保障のあり方に重大な意味を持つこと。
 第3に、冷戦後に日本が果たす「国際貢献」の方向が、これによって世界に示されること。
○何が国論を二分したか
 こうした重要な問題を含んでいるだけに、そこには熟慮された将来への展望と、過去の歴史への十分な反省に立った国民的な論議が必要である。私たちが、湾岸危機以来、繰り返し主張してきたのも、まさにそのことであった。
 しかし、この間の論議は、到底、十分と言えるものではなかった。最後の異常事態にしても、これまでの自民党では、採決に自制の声が上がったものだ。今回は、それもなかった。
 ふりかえってみると、PKO協力法の前身の国連平和協力法案は、「湾岸」への対応ばかりに目が向いていた。そして今度は事実上「カンボジア」への対処である。過去と将来にわたった深みのある議論に乏しく、拙速に終わった。
 いずれの場合も変わらなかったのは、自衛隊派遣の制度化である。湾岸危機の際の、「金だけではなく、人を」という米国内などの声が発端であった。「人的貢献」は、すなわち自衛隊、という短絡的な発想が、論議の広がりを妨げた。
 「非軍事」路線からの転換は、国民が十分に納得したとはいえないままに押し切られた。異常な国会の姿は、今度の立法の根幹であるPKOへの自衛隊の派遣について、国論が分裂していることを示した。
 しかし忘れてならないのは、「国際貢献の推進」という点では、国論は決して二分されてはいなかったという事実である。
 大方の世論調査に表れた国民の意思は、日本は非軍事の民生協力に力を尽くすべきだ、というものだった。私たちが「自衛隊とは別の組織を新設し、文民主体の民生分野の協力から始めよう」と主張してきたのは、そこにこそ国民的な合意があると考えたからである。
 残念ながら、それは国会の多数意思とはならず、PKO協力法が成立した。これによって日本は、国連の平和維持活動という枠の中ながら、自衛隊の部隊による「人的貢献」に踏み出す選択をしたのである。
 法律は尊重されなければならない。しかし、国会の論議や各方面からの指摘で明らかなように、この法律には多くの問題点や欠陥がある。
 国会審議で政府原案は2度、修正された。軍事色の濃い平和維持軍(PKF)の本体への参加の凍結はその1つだが、それも含めて法律にはあいまいなところが多い。運用の段階で、さらに新たな問題が出てくることもあるだろう。
 だから、法律ができても、すべてが終わったのではない。むしろ大事なのはこれからである。実際の運用に照らして、問題点や欠陥を最小限のものにしていくのが、国会と有権者の責務である。
○国際貢献の視野を広く
 そのために、いま一度、できあがった法律の問題点を、点検しておこう。
 1、派遣する部隊の「指揮権」は日本にあるが、現場では国連事務総長が定める司令官の「指図」に従う、という二重の指揮構造。両者が異なる事態は生じないか。
 1、万一、攻撃を受けた場合に、隊員個人の護身のための「武器の使用」と、部隊としての「武力行使」の区分けは、実際に現場でどのように判断できるのか。
 1、再修正に際し、自公民3党の「補足見解」でPKFの後方支援に当たる輸送、通信、建設などの業務について「本体業務と車の両輪の関係にあるような場合」は凍結の対象になる、としたが、その線引きはなお不明確なままになっている。
 なによりも、憲法9条をどう考えるのか、という根本的な問題がある。
 私たちは国際貢献の視野を一段と広げたいと思う。それは「自衛隊を送る」という狭い考え方だけではできない。地域紛争の事後処理への参加だけでなく、紛争の原因を少しでも取り除くために日本として何ができるかを考えることだ。
 軍縮の推進、貧困の克服、地球環境の保全は、その中心的な課題であろう。単に「軍事大国にはならない」という決意を繰り返すだけでなく、世界の平和と安全の増進に具体的な構想をもって努めるなら、日本の平和意図はより明白に理解されよう。
 この法律の成立が危ぶまれていた昨年の前国会のころ、外務省のある幹部が、こんな感慨を漏らすのを聞いた。
 「やるべきことをやってこなかったために、PKO協力に対する内外の理解が得にくいということが分かった」
 やるべきこと、とは、アジアの周辺諸国に対するきちんとした戦後処理と、日本なりの軍縮構想への取り組みである。
 アジア諸国も、自衛隊のPKO参加で直ちに日本が軍事大国化すると考えているわけではあるまい。ただ、国連活動の枠内ではあっても、歴史への反省なしに自衛隊の海外派遣に転じた日本が、国際政治の中で発言力を増すことに不気味さを感じているのだろう。日本がその発言力を、どのように用いようとするのかが不鮮明なために、さまざまな疑いを持たれるのだ。
○真剣に考えつづけよう
 それだけに、PKOへの自衛隊派遣がアジアにおける日本の覇権志向と受け取られるようなことがあってはならない。誤解を招かないためには、信頼関係が不可欠だ。戦後処理のけじめをきちんとつける努力を払おうではないか。国民的な課題として取り組みを急がねばならない。
 また、日本のPKO協力は冷戦後の新秩序づくりの一環であることを、より明確に示す必要がある。自衛隊の縮小・改組に思い切って手を着けるべきである。
 多くの疑問をはらんだままの自衛隊の海外派遣の制度化とともに、国会の異常事態は、PKO協力の不幸な出発をもたらした。同時に、国会は民意を真に反映しているのか、という別の大きな問題も、国民の前にさらけ出した。その意味で、政治のあり方全体を真剣に考える契機としたい。
 
 
 
 
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