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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1991/09/10 朝日新聞朝刊
自衛隊、平和維持軍に参加したら・・・(潮流・政治・底流)
 
 「危なくなったら引き返せばいい」「いや、現実には逃げられまい」「逃げ帰るなど恥だ」――国連平和維持活動(PKO)協力法案づくりでは、平和維持軍が攻撃を受けた場合、これに参加した自衛隊の「撤収」が大きな焦点になっている。9日の自公民3党の幹事長・書記長会談では、「撤収」の条件を法案に書き込むことで合意したが、自衛隊はうまく逃げられるのだろうか。
 いざとなったら撤収する――政府が法制化を約束した5条件の中心だ。平和維持軍参加に消極的だった内閣法制局も含めて、政府が「維持軍参加は合憲」の結論を導くには、この条件が必要だった。
 自民党からは反発も出た。「ドンパチの最中に、日本だけ帰ることができるか」(自民党の加藤六月政調会長)「田植えに出る前に『雨が降ったらオラは帰る』と宣言するようでは、ムラで生きていけない」(自民党国防関係議員)というのだ。
 「撤収」は大ざっぱにいって(1)停戦協定が完全に崩れたため、部隊を本国に戻す(2)停戦協定が崩れそうな危険な状態に陥ったので、一時的に退避する――の2つに分かれる。(1)はいいとして、(2)の場合に「応戦するか引き揚げるか」が問題になった。
 維持軍参加に積極的な官邸・外務省と、慎重な内閣法制局との間で、こんな論争があった。
 法制局 「離婚」(停戦協定の完全な崩壊)以外に、「別居」や「浮気」もある。その場合はどうするのか。隊員が攻撃を受けた時、「正当防衛」なら発砲もやむを得ないが、「PKO任務の遂行を妨害する行為」に発砲するのは、憲法で禁じた武力行使に当たる。
 官邸・外務省 検問所の隊員が「命を狙われたら撃ち返していいが、検問の仕事を邪魔しに撃ってきたら逃げなければ」なんて判断できない。合憲か違憲か迷っているうちに犠牲者が出ることも考えられる。
 結局、「過去の維持軍で実際に発砲したのは、ほとんどが命を危険にさらされた場合の正当防衛だった」という分析から、武器使用は「生命等の防護」の場合に限定することにした。
 もっとも、法制局は「国または国に準じる組織との交戦は、憲法で禁じられた武力行使にあたる」と定義している。そうした組織かどうかはっきりしない部隊から攻撃を受けた場合や、同僚の他国部隊が「武力行使」せざるを得ない事態になった場合の「撤収」については、まだ行動基準ができていない。
 これまで8回ある平和維持軍のうち、コンゴ国連軍(1960年代)は、国連安全保障理事会の決議で武力行使を認められた。これは例外だが、外にも紛争当事国から攻撃を受けたことがある。キプロス平和維持軍(1974年、参加9カ国)はトルコ軍から、レバノン暫定軍(1982年、参加14カ国)はイスラエル軍から、侵攻を受けた。それぞれ参加国はどう対応したか。外務省が把握している例は下表の通りだ。
●寝そべって阻止行動の例も
 <キプロス平和維持軍>
 イギリス   持ち場にとどまる。トルコ 軍には何らの行動せず。
 オーストリア 持ち場にとどまる。口頭でトルコ軍に移動停止申し入れ。
 デンマーク  ニコシアの本部に撤収。何も措置行動せず。
 <レバノン暫定軍>
 フィジー   基地内に戻る。抵抗せず。
 アイルランド
 ノルウェー  路上に車両など障害物を置き、阻止を試みる。
 オランダ
 ネパール   侵入経路の橋の上に寝そべり、阻止行動をとった後、撤退。
●「制服組」の本音は
 自衛隊の佐久間一(まこと)統幕議長は「自衛隊を世界に出す以上は、評価される形で」という。制服組は「撤収」論議をどう見ているのか。陸上自衛隊幕僚監部の作戦幹部に、匿名を条件に本音を聞いた。
 「例えば、維持軍が検問を突破された時、他国の部隊なら威嚇射撃ぐらいはする。日本の部隊は、停戦が崩れたかもしれないからと、撤収の伺いを立てなければならない。相手は常に弱い所を狙うから、すぐ撤収する日本は、狙われやすい」
 「武器を使うのは切羽詰まった状況だ。法律好きが『生命等防護のため』を頭の中で区別しようとしても無理。正当防衛でも、武器を使えば仕返しされる。できるだけ使いたくないが、現場に行った以上、危険な場面では、すべて生命等防護のためと割り切るしかない。一緒に任務に就いている他国の部隊が攻撃された時、自衛隊が逃げ出したら笑いものだ」
 「首相は、弾が飛んで来るような所には出さないと言うが、それなら維持軍はいらない。過去に多数の犠牲者が出ている事実は重い。自衛官は命がけで行く。本当に安全なら外務省の職員が行けばいい」
 「初陣になるかもしれないカンボジアは、危険度A級。ゲリラばかりか、野犬もヘビも盗賊もいる。トイレに立つにも、地雷を気にしなければ。しかも過去に日本が侵略したところだ。任務と言われれば行くしかないが、がんじがらめにされたのでは・・・」
●「ミスターPKO」に聞く
 「日本だけ撤収できるか」とよく聞かれるが、大きな誤解がある。PKOで撤収は日常茶飯事だ。平和維持軍は自主的な参加が本質で、義務ではない。撤収しても、だれも後ろ指をささない。撤収の理由は「新たな事態にコミットしたくない」「維持軍がもはや問題の解決に貢献できない」という場合もあれば、財政負担に耐えられない、本国で内乱が起きた、といった例もある。
 PKO参加に細心の注意を払っているのは、日本人だけではない。どこの国も希望にそぐわなければ派遣しない。私自身、この問題で各国の大使や外相らと何千時間も議論してきた。
 各国とも維持軍参加に反対の人は、武器使用を強調する。だが、あくまでも自衛のための最後の手段。これはレバノンの検問所の兵士にとって、東京の机で考えるより、はるかに難しい。しかし、警官だって自分の命が本当に脅威にさらされているか、ここで発砲していいか、毎日決断を迫られている。検問所突破の動きに遭遇した兵士も同じ。よく状況を把握し、訓練された兵士なら、やっかいすぎる問題ではない。
 維持軍は非暴力、非強制の「敵なき兵士」だからこそ、偉大な力を発揮する。戦闘状態で武器を使えば、紛争に巻き込まれ、当事者のひとりになってしまう。戦う平和維持軍は、決して役に立たない。
◇ブライアン・アークハート氏
1919年英国生まれ。
国連本部で74年から86年までPKO担当事務次長をし、「ミスターPKO」と呼ばれる。コンゴ国連軍勤務当時は誘拐されたことも。現在、フォード財団専任研究員。国連大学シンポジウムのため来日中の4日にインタビューした。
 
 
 
 
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