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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1991/07/26 朝日新聞夕刊
軍備の必要性、説明に腐心 海外派遣の意欲にじむ 91年版防衛白書
 
 ゴルバチョフ大統領がサミットで西側首脳と笑みを交わしている。だれが見てもソ連が今、日本に攻めてくるとは考えにくい。そういう中で、軍備の必要性を国民に説く防衛白書は、かなり弁解めいた内容に映る。91年版防衛白書のひとつの読み方を紹介したい。
 (政治部・斉藤悦也)
<冷たいそぶり>
 白書の第1筆者である三井防衛審議官が5月、草稿をまとめた当時は米ソ戦略兵器削減条約(START)交渉が大詰めで難航し、ソ連の態度も硬かった。緊張緩和には、常に用心深い姿勢をとってきた防衛庁には好都合な状況ともいえた。
 ところが、白書発行が近づくにつれ、STARTも最終合意に動き出した。三井審議官は「最近では交渉進展の機運が生まれている」と最後に加筆。防衛力整備の根拠にしてきた極東ソ連軍の存在についても、「潜在的脅威」は復活させず、「周辺国に圧力を与える」との記述も消した。
 ただし、極東ソ連軍が「日本周辺の軍事情勢を厳しくしている」との認識は昨年に続いて残し、その理由をどう伝えるかに腐心。まず、ソ連軍の装備の近代化を事細かに記述。さらに池田防衛庁長官は「為政者の意図は変わりやすいもの」と言い出し、保守派と改革派の間で揺れ続けたゴルバチョフ政権の不確実さを指摘した。
 今年度から始まった中期防衛力整備計画は年平均実質3%の防衛費の伸びを確保し、装備の近代化を図ることにしている。防衛庁としては「計画の大幅な見直しにつながるような認識は到底示せない」(幹部)。
 ゴルバチョフ大統領の初来日という歴史的な出来事についても「北方領土駐留ソ連軍の削減措置を近い将来とる旨の提案をしたが、詳細は明らかでない」と素っ気ない記述。サミットへのゴルバチョフ大統領招待も「時間切れ」を理由に全く触れず、ソ連との対話の進展にはあえて目をそらしているかに見える。
<緩むから危険>
 「東西対立の構図が緩むと、かえって地域紛争は起きやすくなる。湾岸戦争はそのいい教訓だ」
 防衛庁幹部はそろって、そう主張し始めるようになった。「ソ連の脅威対抗型」から「地域紛争への用心型」へ。防衛力整備の軸足を徐々に移しつつあることが、今回の白書にはうかがえる。
 中東など第三世界の状況では初めて「今後の課題」にまで踏み込み、地域紛争の発生に備えて各国が対応を強化する必要性を提唱。米国が財政難などから国防政策を見直す中で、地域紛争への即応力の維持はなお重視していることも手厚く説明している。
 白書の作成と並行して、米国防総省から防衛庁には、米軍の有事展開に対し、日本も受け入れ態勢や後方支援を強めるよう重ねて要請してきていた事実が明らかになっている。
 白書は、中国や朝鮮半島情勢、カンボジア紛争にもページをさき、「アジア・太平洋地域は欧州より複雑で、不透明」とも指摘。冷戦後の「気の緩みは禁物」と訴えようとしている。しかし、「専守防衛」を基本とする日本が、海外での紛争突発を「追い風」に軍備を進めるのは矛盾しないかどうか。関連づける明確な説明はない。
<思いを忍ばせ>
 白書の焦点と見られてきた自衛隊の海外派遣は、一番最後に回された。自民党国防関係議員には「わが国の防衛政策の項目にきちんと位置づけよ」との声もあったが、結局、南極観測や火山観測などと同様、国防以外の分野への社会貢献の流れの中に収めた。
 自衛隊制服組には「我々の任務はあくまで国土防衛であり、その他は副業のようなもの」という意識が根強い。山崎拓・元防衛庁長官も「ペルシャ湾の掃海作業で自衛隊への内外の評価が高いことは知らせるべきだが、あまり図に乗ってもいけない」と進言した。
 それでも、自衛隊は組織として活動して初めて機能を発揮し、日本では他にない能力集団であると強調。海外災害派遣や国連平和維持活動(PKO)に自衛隊が参加する場合、「姿、形を変えたら意味がない」(防衛庁幹部)という気持ちは色濃くにじませた。
 PKOなどへの自衛隊活用は国民の判断にゆだねた形。依田事務次官は「自衛隊参加は与野党合意の範囲にとどめるのが望ましいから」といい、野党側の出方を待つ姿勢がのぞく。国際貢献の順番で、災害派遣をPKOより先に書いたことも、防衛庁としての優先順位をしのばせており、日吉官房長は「事実を淡々と書いたが、行間は読み取ってもらいたい」。
○ソ連軍やはり心配
 《ソ連の動向》ソ連経済は一段と悪化し、民族問題も先鋭化するなど国内改革の行方は予断を許さない。改革派、保守派のあつれきの中でゴルバチョフ政権の姿勢には振幅がみられる。現段階では将来展望は依然不透明。
 《極東ソ連軍》この2年間で量的には縮小したが、近代的な装備の配備は高いペース。最近のソ連の国内情勢、国際環境にかんがみれば、従来より他国に侵略的行動をとることが困難な状況にあるとみられるものの、極東ソ連軍の動向が、わが国周辺地域の軍事情勢を厳しいものとしている状況に依然変わりはない。
○「多国籍軍」を評価
 《米国の軍事態勢》ブッシュ政権は軍事力の削減・再編を表明している。欧州から発生する世界戦争の可能性が最低レベルに低下したが、湾岸危機のように第三世界での地域的脅威はむしろ増大の傾向にあるとの認識の下、国防政策を見直そうとするものだ。
 《地域紛争への対処強化》東西関係の大幅な緊張緩和はかえって第三世界に内在する紛争要因を表面化させやすい状況を生む。紛争が発生した場合、国際社会が結束して、早期終結と再発防止を図ることが必要。多国籍軍は国連の歴史上画期的なものだった。
○国民にゲタ預ける
 《掃海部隊のペルシャ湾派遣》今回の措置は船舶の航行の安全確保、被災国の復興という平和的、人道的な目的の人的な国際貢献策の1つとして意義を有する。国内的にも国際的にも理解と評価を得ている。
 《むすび》海外での災害救援やPKOへの協力など、国際的視野に立った貢献を一層行っていくことが国民的課題となっており、世界の注目も集まっている。このような状況下、自衛隊がどのような役割を果たしていくべきかは今後、国民全体で考えていかねばならない問題だ。
◆首相の関心は?
 ○・・・「あれ、演説が入ってないなあ」。海部首相が今年の防衛白書で防衛庁につけた注文はただ1つ。大量破壊兵器の拡散防止について、原案ではなかった今年5月の国連軍縮京都会議のくだりが急きょ、挿入された。しかも開会式で演説する首相の写真付き。
 昨年の白書では、ソ連の「潜在的脅威」を外すよう求めた首相だが、今年は「防衛政策をめぐる指示は特になかった」(防衛庁幹部)。自衛隊の国際貢献など政治判断が必要な項目も数多くあった。が、自衛隊の最高指揮官である首相の関心は主に、自分の存在感をどう盛り込むかに向けられたようだ。
 
 
 
 
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