1990/06/20 朝日新聞朝刊
次期防策定に望む(社説)
1991年度以降の防衛力整備計画(次期防)の策定作業が、19日の安全保障会議で本格的にスタートした。
いまの防衛力整備5カ年計画(中期防)は今年度が最終年度で、予定通りいくと、これによって日本の防衛力は「防衛計画の大綱」が定めた基盤的防衛力の水準に、ほぼ到達することになる。
いわば1つの山頂に達した日本の防衛力をこれからどうするか。国際的な関心を集めつつ、いまわれわれは重要な選択をしようとしている。
政府は1988年12月の安全保障会議で「国際情勢や諸外国の技術的水準の動向等を考慮すれば、現在の中期防のような中期的な防衛力整備計画を策定する必要がある」として、次期防策定の方向を打ち出した。今回の安全保障会議はそれを受けて開かれたもので、今後10回程度の会議を開いたあと今年末には次期防決定の意向だという。
次期防については、すでに防衛庁内で具体的な素案作りが進められており、計画の期間は中期防と同じく5年、経費は約23兆4000億円(中期防は85年度価格で約18兆4000億円)といわれている。
防衛庁の方針によれば、これだけの資金を投じて、(1)防衛力の質の向上(2)情報・指揮・通信など支援機能の充実(3)自衛官の待遇改善と省力化、を進めるということだ。
安全保障会議はこうした防衛庁の素案をもとに次期防の策定にあたることになるのだろうが、同会議は海部首相を議長とし、防衛庁長官のみならず外相、蔵相、内閣官房長官らを議員とする国家の重要機関である。ひとり防衛庁のみの判断に寄りかかることなく、さまざまな角度から意見を述べあい、90年代の安全保障のあるべき姿が探求されるよう、要望したい。
次期防策定にあたって、われわれがまず知りたいのは、計画策定の前提になる国際情勢認識とそれへの対応である。19日の安全保障会議で示された政府の分析によると、今日の国際情勢は依然として不安定、不確実で、「その帰趨(きすう)はさらに慎重に見極める必要がある」という。
激動期に不確実性はつきものだ。他国の軍事力の動向も単純ではありえない。それだけに、長期にわたる防衛力整備計画の策定は、よほど慎重におこなわなければならない。今後の5年間を固定化するような計画で、果たして柔軟な安全保障政策がたてられるかどうか、大いに疑問である。「その帰趨を見極める」というなら、せめて1―2年の短期的整備計画にとどめるのが筋であろう。
第2は次期防の経費である。とくに80年代、日本の防衛費の伸びは世界中から驚きと警戒の目で見られてきた。円高要因はあったにせよ、日本の防衛費は世界で第3位、との評価はすっかり定着した感じがある。
基盤的防衛力の整備がほぼ終わったというのに、単純計算では中期防当時より年間1兆円も多い防衛費を支出することになる次期防とはなにか。日本を見る周辺国の視線はますます厳しくなるはずである。
第3は防衛費の使途の問題だ。後方支援部門の重視といいながら、空中警戒管制システム(AWACS)、空中給油機、多連装ロケットシステム(MLRS)など、高価な装備の導入が当然のように言われている。ソ連脅威論が強調されたころ、すでに自衛隊がほしがっていたものばかりである。
脅威の対象に変化の兆しがある以上、導入する装備品も再検討が必要だ。冷静な論議が望まれている。
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