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1989/05/04 朝日新聞朝刊
FSXの教訓(社説)
登山の途中で霧に巻かれたら、まず止まって考える。場合によっては引き返す。これは山登りの常識である。
交渉もそうだ。もつれたら頭を冷やす。それでもだめなら、いちど出発点に戻って、じっくり考え直す。そうしないと、カミカゼ登山の二の舞いになる心配がある。
航空自衛隊の次期支援戦闘機(FSX)を共同開発するための日米政府間交渉が、やっと最終決着をみた。しかし、この結末には、日本側として見過ごすことのできない重要な問題が、いくつか含まれている。
まず、この決着では不平等にすぎよう。
例えば、米側はFSXの飛行制御用コンピューターソフトなど、最新の高度技術情報の対日供与を制限できるのに、日本側は独自に開発した技術を無条件で米国に供与することになっている。これで、互恵的な共同開発といえるのだろうか。
共同開発で生まれた新しい技術の転用・輸出について、依然として不透明さが残るところも心配な点のひとつだ。
最終決着によれば、日本側は米国の承認なしには、こうした新技術を第三国へ輸出できないのはもちろんのこと、わが国での民用・軍用航空機の生産にも転用できない。一方、米国が新技術をどう使うかは明らかにされていない。最悪の場合、全額が私たちの税金で進められる共同開発の成果が、武器や武器技術の形で米国から他国へ流れていくこともありうるだろう。
どうしてこうなったか。
第1には、やはり米側の強引さをあげざるをえない。技術をめぐる米国の停滞と日本の躍進が米国民を不安にし、感情まるだしの対日圧力となっている。理不尽としか映らぬ米側の一部の言動は、日米友好を阻害するだけであって、遺憾である。
第2は、日本側の対応のまずさだ。
FSX交渉での米国の姿勢には、確かに問題がある。だからといって、だれが見ても日本の一方的譲歩に終わった今回の決着の責任を、米国だけに負わすわけにはいかない。こうした事態を招いた原因の大半は、日本政府の不手際にあったといってよい。以下、そのいくつかを列挙する。
1、FSX共同開発のための、日米交換公文、実施のための細目とりきめが、いずれもあいまいだった。「口頭で」あるいは「以心伝心で」という政治的かけひきが、もはや米国には通じなくなっていることを、日本側はよく理解していなかった。
1、日米安保体制下でFSXを開発することの意味が、最初から不明確だった。それによって日米関係はどうなるのか、とくに技術面、貿易面での配慮に欠けていたから、米国の攻勢にあうと屈服も早かった。
1、予算執行という国内事情のため、見切り発車的行動に出た。冬山登山途中で引き返す勇気に欠けていたのと同じだ。おかげで米側に足元を見られた面がある。
日米の友好を強固なものにするためには、両国の技術交流は互恵・公開・平和を基本にしたものでなければならない。民生、軍事の両技術の境界がぼやけてくればくるほど、この原則はますます大事なものになる。
日本はFSXを手始めに主要装備の全面国産化に乗りだすだろうとか、武器禁輸3原則も今に崩れるだろうという予測が、このところ欧米でふえている。
FSX問題は、この角度からの見直しも必要だ。日本の技術の軍事利用の拡大は、国内だけでなく、国際的にも強い不安を招く恐れのあることを銘記したい。
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