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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1988/10/19 朝日新聞朝刊
日本の防衛費、いったい何位? NATO方式に従い計算すれば
政府見解でも5位だが恩給すべて含むと3位
 最新刊の『ミリタリー・バランス 1988―89』(英国際戦略研究所編)によると、わが国の88年度防衛費は米ドル換算で296億3000万ドル。同年度比較で、西独との差はわずか7億ドルとなった。ただし、国際比較によく使われる北大西洋条約機構(NATO)方式によって、政府が認めている「国民総生産(GNP)の1.2%」で算定すると、総額で英国より10億ドル多く、フランス、西独に次いで世界第5位。また、米議会での報告にみられるGNPの1・5%説をとると、444億5000万ドルとなり、世界第3位になる。
 (中馬清福・編集委員兼論説委員)
 
 18日発表された『ミリタリー・バランス』最新版によると、88年度の各国の防衛費は別表の通り。わが国の防衛費は西欧3国より少なく、一部で言われている「世界3位」ではない。ただ、3国に肉薄していることは確かで、「世界3位国グループ」の一員とはいえる。
○はかる物差し違う
 では、なぜ日本は「3位国」といわれるのか。防衛費をはかる物差しが違うからである。
 別掲の要人発言や諸機関の発表・報告のように、マンスフィールド駐日米国大使も、英国際戦略研究所の『戦略概観』も、前提なしに「日本は3位」と言っていない。「NATOの軍事費の定義に従えば」といったまくら言葉を、必ずかぶせている。国際的な基準で計量すれば、というわけだ。
 厄介なことに、なにを軍事費というか、世界共通の定義はない。だから、実は厳密な意味での国際的な防衛費の比較など、最初から成り立ちえないのだ。
 これで弱ったのが、共同防衛をめざすNATOだった。どの国がどれほど共同防衛に貢献しているかを知るためには、どうしても共通の物差しがいる。そこで生まれたのが「軍事費に関するNATOの定義」である。
○6つの経費で定義
 この定義は秘密だが、専門家によると、NATOのいう軍事費は次の6つから成る。
 (1)軍隊の維持管理に必要な人件費・物件費
 (2)軍事研究開発費
 (3)軍事援助費(返済しなくてもいいもの)
 (4)準軍隊・警察隊費(沿岸警備隊、国境警備隊、憲兵警察など)
 (5)国防省以外の省庁の支出のうち軍事目的に使われるもの
 (6)退職金・退職年金
 NATO諸国はそれぞれ各自の防衛予算を組んでいるが、それとは別に、NATOの定義に従った防衛費も算定される。別表で明らかなように、NATO方式ではじきだされた防衛費のほうが、一般的に多くなる。これは、NATO方式のほうが軍事費の範囲を広くとっているからだといわれている。
 日本の場合、戦争放棄をうたった憲法との兼ね合いもあり、防衛費の定義はかなり限定されたものになっている。だから、英、仏、西独と正確に比べるつもりなら、わが国もNATO方式で計算し直す必要がある。
 NATOが軍事費と定義づけた6つの経費のうち、(1)軍隊の維持管理費と(2)軍事研究開発費が、わが国の防衛費に入っていることは確かだ。(6)の退職金・退職年金も自衛隊発足後に限るなら、これも入っている。
 (3)の軍事援助費はない。一部で期待されている戦略的援助が本格化すれば、灰色領域に入る心配はあるが、今はまずゼロとみてよいだろう。
 (4)の準軍隊・警察隊の経費で微妙なのは海上保安庁だ。同庁法は「軍隊としての訓練」を禁止しており、政府は同庁の経費を防衛費と見ていない。ただし自衛隊法は、有事の際、防衛庁長官に海上保安庁を指揮する権限を与えている。
 (5)の「防衛庁以外の省庁」が軍事目的に支出している例はない、と政府は言う。ただ、かつて国会で、道路、港湾、空港、鉄道などにかかる国の費用の一部がこれに相当するのではないか、という論議はあった。
 いろいろ論議はあろうが、この際、NATOの定義のうち、(3)(4)(5)は日本では該当なし、としよう。すると、残りは(6)の退職金・退職年金の中の「旧軍」分だ。米両院合同経済委員会が「NATO方式に従って軍人年金も軍事費に含めれば・・・」といっているのがこれである。
 軍人年金を防衛費に入れるのは、国際的常識なのだろうか。日本政府もその点は否定できないようだ。しかし、それでも、軍人年金のすべてが防衛費に入るわけではない、との見解を堅持している。
 昨年5月、参院予算委員会で表明された政府見解によれば、(1)旧軍人の恩給のうち「普通恩給」と「普通扶助料」は、NATO定義の軍事費に入る、(2)その額は、恩給費の45%程度、(3)従って、NATO方式による日本の防衛費はGNPの1.2%程度になる――という。
 この見解で明らかなように、GNPの1.2%説は、軍人年金をもっとも狭く解釈して出てきたものだ。85年4月の衆院安保特別委員会で示された政府見解では、軍人恩給全部を含めるとGNPの1.5%ぐらい、厳密に定義したものに限るならば「1.2%台」といったところだ、となっている。
 しかし、別掲でも紹介したように、国際的には1.5%説が大勢のようだ。ここでは、1.5%、1.2%の両説をもとにその総額を試算した(別表)。最初に述べたように、わが国の防衛費(NATO方式)は、GNP1.5%で世界3位。1.2%なら世界5位だが、1.2%台でも後半の数字なら、やはり世界3位になる。
○実質年5%も増加
 日本の防衛費ランキングが急上昇した背景に、ドルに対して円が強くなったことがある。円建ての防衛費の伸びは小さくても、ドルに換算すると大きくなる。単純なドル換算では正確な姿はつかめない。
 だが、それだけではない。米国防総省が言うように「81年以来、実質で毎年約5%、あるいはそれ以上のペースで(日本の防衛費は)増加、71―86年の実質増加率は139%にのぼった」ことが、やはり最大の理由である。
 英国際戦略研究所の『戦略概観』は「日本のGNPは巨額でしかも成長を続けている。1%といえども非常に大きいのだ」と指摘している。この調子でいくと、いったい日本の防衛力はどこまでいくのだろうか、という不安のつぶやきを聞かされているように思える。
●1988年度の各国の防衛費
「ミリタリー・バランス1988〜89」による。ただし、日本のNATO方式換算は本社試算
防衛費
NATO方式換算
英国
192.2億ポンド
337.6億ドル
 (1ドル=0.5693ポンド)
344.9億ドル
フランス
1829.0億フラン
318.8億ドル
 (1ドル=5.7369フラン)
370.9億ドル
西独
514.6億マルク
303.1億ドル
 (1ドル=1.6976マルク)
368.5億ドル
日本
3兆7000億円
296.3億ドル
 (1ドル=124.9円)
*GNPの1.5%の場合444.5億ドル
*GNPの1.2%の場合355.6億ドル
<外国の見方>
 日本を上回るのは米ソだけ/81年以降急速に増えた
◇マンスフィールド駐日米国大使(今年8月、東京で講演)
 「現行の中期防衛力整備計画のもとで、日本は年間、約300億ドルの防衛費を費やしている。それはいかなる北大西洋条約機構(NATO)主要国とも肩を並べるものである。米国はじめNATO諸国が防衛予算に通常とり入れている予算項目をすべて含めるなら、日本の防衛費は米国のいかなるNATO同盟国のそれをも上回ることになる。さらに、過去20年間、日本の防衛費は年間で実質5%以上伸びてきた。これは米国やNATO諸国を大幅にしのぐ実績である。実際、米国とNATO諸国の方式で計算すれば、日本は今や世界第3位の防衛予算をもっていることになる」
◇米議会の上下両院合同経済委員会(今年7月発表の『国際均衡の回復―日本の貿易と投資の形態』)
 「GNPに占める比率だけを念頭において(防衛力を)比較すると間違う。日本のGNPは米国を除く全NATO諸国よりずっと大きい。NATO方式に従って軍人年金も軍事費に含めると、日本の防衛費はGNPの1.5%近くなる。その支出は少なくとも世界で第6位だが、米ソに次いで世界第3位と見積もる向きもある。そのうえ、日本のGNPはNATO諸国を上回るスピードで成長を続けてきたため、81年以降の日本の防衛費は、米国を除くどのNATO諸国よりも急速にふえた」
◇英国際戦略研究所(今年5月刊の『戦略概観 87―88』)
 「GNPに占める比率は小さいにもかかわらず、強くなった円はドルに換算した場合の日本の防衛予算を激増させた。いまや、日本の防衛費は西欧のNATO大国群のそれと肩を並べている(NATOの“軍事費”の定義に従えば、日本の防衛予算は世界第3位。それを上回るのは米国とソ連だけである)。日本のGNPは巨額で、成長を続けており、1%といえども非常に大きな額になる」
◇米国防総省(今年4月発表の『共同防衛への同盟国の貢献度 88年度』)
 「日本の防衛支出は81年以来、実質で毎年約5%あるいはそれ以上のペースで増えてきている。・・・71年と86年を比べた防衛予算の実質増加率を見ると、米国以外のNATO諸国がグループとして31%、日本が139%、米国が25%となっている」
◇アーミテージ米国防次官補(今年3月、米下院軍事委負担分担専門部会で証言)
 「日本の88年度防衛予算は英、仏、西独のそれを上回るすれすれのところまで来ている。遅くとも1990年までには、日本の防衛費は(米ソに次ぐ)世界第3位に達するのではないかと見られている」
 
 
 
 
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