1987/05/08 朝日新聞朝刊
防衛費すでに世界3位? NATO方式で試算(断面・国会87)
「日本の軍事費はすでに米ソに次ぐ世界第3位グループではないか」――7日の参院予算委員会で上田耕一郎氏(共産)は、日本の防衛費を北大西洋条約機構(NATO)方式で算定し直し、さらに現在の円・ドルレートで換算した数字を使って、日本の軍事大国ぶりを追及した。政府側は、このNATO方式がマル秘となっているところから、防衛費の範囲を極力狭く見積もった数字で応戦したが、その計算でも防衛予算額は現在の1.2倍に。防衛費は今年度予算案で初めて国民総生産(GNP)比1%の枠を突破したわけだが、その実態は見かけよりもずっと大きいことが改めて証明された形だ。
各国の軍事費を比較した最新資料であるミリタリー・バランス(1986―1987)によると、1984年の世界の軍事費でトップクラスは米国で2370億ドル、対抗するソ連は不明。このあとに英、サウジアラビア、仏、イラン、西独が200億ドル台の第3位グループとして続き、日本は120億ドルで第9位となっている。
上田氏は「NATO方式で算定すれば、旧軍の恩給、海上保安庁の費用も入るから、日本の軍事費は1.5倍になる」と主張。これに加えて円・ドルのレートを84年の1ドル244円から、昨年12月の1ドル163円に替えると「日本の順位は英以下を抜いて第3位になる」と指摘した。さらに上田氏は、87年の英、西独、仏の軍事費について、各国の大使館で独自に調査した数字を、1ドル約163円で換算。日本の今年度防衛費を1.5倍して得られた数字が、この3国のいずれも上回ることを示した。
これに対して政府側は、池田防衛庁経理局長が「NATO方式の定義がどういうものかはマル秘となっており、詳細は不明」としつつも、防衛庁が調査した結果を説明。(1)わが国の防衛費に旧軍人恩給費が含まれてないが、NATO方式でもこのすべてが含まれるわけではなく、徴兵された人への恩給や戦争被害の補償は計上されていない(2)海上保安庁は海上保安庁法で軍事組織でもなければ軍事訓練もしないことになっているから、こういうものはNATOでは含まれない――とし、この算定結果による日本の防衛費は「GNP1.5%でなく、1.2%」と述べた。
つまりマル秘のベールが覆われている「NATO」方式の中身をめぐって、意見が対立したわけだ。が、軍人恩給費のどこまでが実際にNATO方式に含まれるかについては、専門家の間でも諸説がある。また、NATOでは沿岸警備隊が「戦時に軍の下で任務につく」など各種の条件を満たせばその経費を軍事費に入れているが、日本の海上保安庁も自衛隊法80条によると、戦時に防衛庁長官の指揮下に入ることが規定されている。NATO方式で軍事費に含まれるかどうかは微妙なところだ。
マンスフィールド駐日米大使も米国人に対して日本の防衛費の実情を説明する時は「NATOと同じ算定基準に基づいて防衛予算を計算し、年金や遺族手当も含めると、GNP1%ではなく1.6%近くになる」(85年10月)と述べており、日本政府側のいう「NATO定義」はやや厳密に過ぎるよう。
もっとも、その政府側の主張する1.2倍で計算しても、円・ドル換算を1ドル約163円とすれば、日本の今年度防衛費はやはり西独、仏、英並みの第3位グループに入る。一昨年来の円高ドル安は、金額的には日本を一気に軍事大国に押し上げたともいえる。
◆1987年の軍事費(上田氏調べ)
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金額
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ドル(円)に換算
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日本 |
3兆5174億円 |
(×1.5=)324億ドル
(5兆2761億円) |
西独 |
621億ドイツマルク
(NATO方式で計算) |
320億ドル
(5兆2164億円) |
フランス |
2067億フラン
(恩給・年金込み) |
317億ドル
(5兆1700億円) |
イギリス |
186億ポンド
(恩給・年金不明) |
269億ドル
(4兆3896億円) |
(注)
(1)1986年12月の為替水準で換算
(1ドル=162円65銭、1ポンド=236円10銭、1フラン=25円48銭、1ドイツマルク=82円86銭)
(2)日本以外は各国の在日大使館の回答 |
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