1986/12/31 朝日新聞朝刊
自衛隊、次々超一流装備 売り手市場で高値 62年度防衛予算
10年間続いたGNP1%枠の歯止めが解かれた、62年度予算政府案の防衛費。自衛隊は、100億円もする戦闘機、対潜哨戒機をはじめ、新鋭兵器を次々と調達し、すでに「主力装備は世界で超一流」の評価がある。しかも、兵器は売り手市場だけに、値引きの余地はほとんどない、という。政治の、目に見える温かさが次々と細る中で、定かには見えぬ「防衛費」。このうえ、歯止めを逃れて、どこへ行こうというのか。
1%枠突破の来年度予算で、F15戦闘機が12機、P3C対潜哨戒機が9機調達されることになった。両機種とも、それぞれの分野で世界一の高性能機。「85―86年版ミリタリーバランス」などによると、F15は米国以外では日本が80機、サウジアラビアが60機、イスラエル50機とわずか3カ国だけが調達している。
P3Cは、同様に日本30機、オーストラリア20機、ニュージーランド、オランダ、ノルウェー、スペイン各10機、イランが数機。
いずれも、米国を除いて日本はトップで、中期防衛力整備計画が完成する65年度までには、総計でF15が87機、P3Cが100機にもふくらむことになる。「シーレーン(海上交通)を守れ」と叫び続けた日米当局の「戦果」だ。
この計画だけでも、今後の予算を圧迫するのは確実だが、防衛庁は、これでも満足せず今年4月には、「シーレーンの防空が心配」と、洋上防空体制研究会を発足させた。超水平線(OTH)レーダー、早期空中警戒機(AWACS)E3A、空中給油機KC10やKC135の「新手」を検討するなど、際限がない。
海軍年鑑で有名な「ジェーン」の通信員江畑謙介さんは「F15は、乗用車でいえばロールスロイス。英国や西独でさえ、F4ファントムでがまんしているのに。海上自衛隊の護衛艦も含め、新しさと性能の高さで、一部の装備は超一流」という。
軍艦などを求めて世界を飛びまわる写真家柴田三雄さんも、「日本の一部装備品は、交戦中のイラン、イラク以上です」と断言する。
性能に負けずに高いのが価格だ。F15は、62年度概算で1機88億4000万円、P3Cは100億700万円もする。
米国での価格を、担当の防衛庁装備局員に聞いたら「ここには資料がない。米国での調達価格はいえない」とあっさり。「値引き交渉にも、米国の価格は必要なはず」と重ねて聞くと、「冗談でしょう。値引き交渉など出来るはずないでしょう」。米国側と開発費負担などを交渉するが、実態は売り手市場という。
後に当局から得た資料によると、F15は昭和55年度の場合、米国で35億円のものが、日本で77億円と2倍以上。同年度のP3Cも、米国で43億円なのに、日本では80億円で調達している。日本ではライセンス生産だが、「仕様の違い」などというのが価格差に対する防衛庁の説明だ。
今後、さらに最大の買い物になりそうなのが、65年度までに2隻の調達を検討している対空能力にすぐれたエイジス艦だ。1隻が1500億円以上といわれている。本決まりになれば、海上自衛隊横須賀基地などに配備されそうだが、人口43万人の横須賀市の本年度一般会計当初予算が1055億円。1隻の値段が、同市民の社会福祉や教育費など1年分の財政よりはるかに大きい。
防衛施設庁も、「思いやり予算」と呼ぶ駐留米軍関係のうち提供施設整備費は、ほぼ満額の724億円が認められた。内訳は家族住宅623戸分が半額近い310億円を占め、ほかは隊舎、図書館、体育館などの建設費。家族住宅だけでも54年度から61年までの「思いやり」1440億円で4300戸も建てた。下士官クラスでも平均面積が130平方メートルもある。
ところが、横須賀市のバー街で米兵に尋ねても「日本が米軍の住宅に金を出しているとは知らなかった」という。「思いやり予算」は英語では「ファシリテーズ・インプルーブメント・プログラム」(施設整備計画)で、「思い入れ」たっぷりの日本側表現とは違い、まったく素っ気ない。
「日本にいい印象を持ってもらおう」とのPR作戦も徹底しておらず、肝心の米兵たちは「物価の高い日本よりオーストラリアに住みたい。遊ぶならフィリピンかタイだな」。
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