1986/07/21 朝日新聞夕刊
6年連続「防衛突出」6.3%増 62年度予算案要求基準決定
政府は21日の臨時閣議で62年度予算案の概算要求基準を正式に決定した。5年連続の「原則マイナス基準」(一般歳出の経常部門は今年度予算比10%減、投資部門は同5%減)となったが、焦点の防衛費は今年度予算の要求基準の伸び率を0.7%下回る6.3%増で決着した。他の経費の伸びがきびしく抑制されている中で、6年連続して突出した伸びとなった。年金、政府開発援助(ODA)など4項目も今年度予算より増額して要求を認めた。エネルギー対策は引き続き例外項目として扱っているが、石油価格の下落を踏まえ、今年度比390億円減に抑えた。この結果、国債費と地方交付税交付金を除いた一般歳出の概算要求基準の総額は32兆6000億円となり、今年度予算より3300億円、1.0%の伸びとなった。
この日の閣議では、予算を編成する際は「財政改革を推進しつつも、流動的な経済情勢に即応した中身にする」という趣旨のただし書きをつけることで了承した。景気後退が深刻化した場合、財政面からテコ入れすることを示唆したものだ。
要求基準の増加額は61年度に比べ1500億円減っており、大蔵省が今年度より大幅に膨らむ当然増経費を厳しく抑制したことを示している。この決定を受けて各省は概算要求の具体案づくりに取りかかり、8月末までに大蔵省に提出、年末に向けて予算編成作業が本格化する。来年度の一般会計予算は、この一般歳出のほかに国債費、地方交付税交付金が加わり、50数兆円規模となる。
基準額の設定をめぐり21日未明までもつれ込んだ防衛費は、竹下蔵相と加藤防衛庁長官との2度にわたる閣僚折衝でも話し合いがつかず、後藤田官房長官が両大臣を呼んで調整を行った結果、21日午前2時半、61年度予算より6.3%、2106億円の増加を認めることで決着した。
当初、防衛庁は(1)昨年9月に決まった中期防衛力整備計画の2年目にふさわしい水準にする(2)戦闘機など正面装備の着実な充実に比べ立ち遅れが目立つ自衛隊員の宿舎など生活環境の整備といった後方部門の強化が迫られている、などを理由に、7.2%、2400億円を要求した。これに対し、大蔵省は円高や原油価格下落で武器輸入費や燃料費が大幅に節減できるとの理由から、3%、1000億円増を提示。最終的には5%台にとどめようとする大蔵省と、6%台後半を目指す防衛庁が引き合う形となり、大蔵省が押し切られる形で6.3%増が決まった。
閣僚折衝に持ち込まれたその他の事項では、まず社会保障関係は、人口高齢化による年金受給対象者の増加などに伴う増加額について、今年度より850億円多い5200億円が認められた。内訳は年金関係3150億円と、老人の医療費の一部として2050億円。しかし、これだけでは当然増費をまかない切れないため、今後、厚生、大蔵両省で各種の制度改革による歳出削減策が検討される。今井厚相と竹下蔵相との20日夜の折衝で4000億円程度増やすことで大筋決着していた厚生省関係の社会保障費は、その後の事務折衝で4188億円増が正式に決まった。
公共事業費は、建設省の要求したマイナス5%基準の緩和は認められなかったが、財政投融資資金などの活用で総事業費は今年度並みに確保することで一致した。また、61年度に国際協調の立場から10%増となったODAは、来年度は円高の効果が出てドル換算の援助額が増えるため、7.5%増とすることが決まった。
例外項目6項目を合わせた増加額は1兆400億円。一方、「経常部門マイナス10%、投資部門マイナス5%」の対象となる予算額は10兆5000億円で、マイナス額は前年度より400億円少ない7000億円になる。しかし、実際にマイナスとなる官庁にはマイナス幅の2分の1を加算する「激変緩和措置」をとるので、正味の歳出削減額は前年度と同じ5300億円にとどまり、例外項目の増加額を差し引きした原則要求基準の増加額は今年度を400億円上回り、5100億円になった。
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