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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1986/07/15 朝日新聞朝刊
海上自衛隊がめざす洋上防空 その構想と疑問点
 
 水平線のはるかかなた約3000キロを見張れる巨大なOTH(超水平線)レーダー、同時に飛来する18発の対艦ミサイルを次々にたたき落とせる「エイジス」対空ミサイル艦、そして12発もの空対空ミサイルを積み10時間も洋上を飛行するP3C改造の“空中巡洋艦”――海上自衛隊がいま目指している洋上防空の構想には、ハイ・テクノロジーの粋を集めた大プロジェクトが続々と登場してきた。将来、その費用がほぼ1兆円に達することは確実。だが、それは日本の防衛のために、本当に合理的な投資なのか。海上自衛隊の洋上防空の構想と、その疑問点を整理してみたい。
(田岡俊次編集委員)
◆構想 “空中巡洋艦”は実用性も
 ソ連太平洋艦隊の航空部隊には現在、旧式(1950年代登場)の双発ジェット爆撃機「バジャー」や同時期に出現した4発ターボプロップのTU95「ベア」が百数十機、超音速の新型双発ジェット爆撃機「バックファイア」が約40機ある、と見られている。これらはウラジオストク周辺や、サハリンの対岸アレクセイエフカ、およびカムチャツカのペトロパブロフスクの3カ所に配備され、また一部はベトナムのカムラン湾付近に駐留している。
 有事の場合、これらがサハリン―千島上空や北朝鮮上空を経て日本列島南方の海上交通路上に出現、護衛艦や商船に対艦ミサイルを発射する可能性があるとし、対策として洋上での防空能力を強化する必要がある、というのが海上自衛隊の主張だ。
 九州南方の喜界島、馬毛島に設置する検討が進んでいるOTHレーダーは、ソ連沿海州からサハリンや千島列島を視程におさめて移動目標を探知、その概略の位置と針路をつかむ。「何か来るらしい」と分かれば、厚木、那覇の2基地で待機、あるいは硫黄島にも一部進出している空対空ミサイル装備のP3Cが発進する。これはP3Cの対潜探知機材をおろし、代わりに早期警戒機E2Cと同じ皿型アンテナ付きの「APS138」を搭載、さらに機首には米海軍の戦闘機F14と同じAWG9レーダー・火器管制装置をつけ、AIM54「フィニックス」空対空ミサイル12発を装備する。
 大型の捜索レーダーは相手が超低空でも約450キロで目標を探知、また相手がレーダー電波を出せばより遠方から方位をつかむ。AWG9火器管制装置は同時に6目標に対し6発のミサイルを誘導できる。「フィニックス」ミサイルは現在射程130キロ、開発中の新型は180キロになるはずだ。
 ソ連のバックファイアが積むAS4対艦ミサイルは射程約400キロといわれ、これから艦隊や船団を守るためにP3改造の“空中巡洋艦”は艦隊などの前方3、400キロ付近に進出して、向かって来る爆撃機を待ち構えることになる。また、10時間もの航続時間を利して、艦隊や船団の前方上空に常時待機することも考えられる。
 P3が撃ちもらした爆撃機が対艦ミサイルを発射した場合、「エイジス艦」が対空ミサイル「SM2MR」(射程150キロ)で対艦ミサイルを落とす構え。海上自衛隊が造ろうとするエイジス艦は、基準排水量6500トン(満載約8500トン)、ミサイル90発を搭載、目標探知から数秒で発射可能で、同時に14ないし18目標にミサイルを誘導する能力を持つ。
 さらになお突っ込んで来るミサイルに対しては、個艦防御用の短射程ミサイル「シースパロー」や、自動的に目標をつかみ、1分間3000発を発射する「ファランクス」20ミリ機銃で射撃、またアルミはくの細片を空中に射出して、対艦ミサイルのレーダーを妨害する、などの方法もとられる。
 これらの洋上防空の手段のうち、OTHレーダーは精度不良、信頼性不足(電離層の状態により探知確率50%―90%)などの弱点があるが、P3に「フィニックス」を搭載したものは十分実用性がありそうだ。また、エイジス艦は現在5隻(他に1隻建造中)の「SM1」対空ミサイル(射程約30キロ)搭載の護衛艦が同時に2目標しか狙えないのと比べ、当然段違いの能力を持つ。
◆問題 総計1兆円ものコスト、何を守るのかあいまい
 第1の問題はそのコスト。P3改造の“空中巡洋艦”は1機200億円はしそうだ。海上自衛隊の1個航空隊は11機だから、厚木と那覇に置けば22機で4400億円。エイジス艦は1隻1500億円とみられ、海上自衛隊は63、65年度に各1隻の発注を希望するだけでなく、将来は現在4つある護衛隊群(各8隻)に対し、エイジス艦を1隻ずつ付けたい意向だから、4隻で6000億円。OTHレーダーも500−600億円はかかりそうで、総計1兆1000億円。OTHレーダーが実用になれば“空中巡洋艦”の機数は約半分でよいとも考えられるが、それでも計9000億円はかかる。
 さらに疑問なのは何を守るか、という点。ソ連海軍の爆撃機の主目標は沿岸に接近しようとする米空母、次いで海兵隊用の揚陸艦船や給油艦などと考えられ、はるばる2500キロ(北朝鮮上空経由)か3000キロ(千島上空経由)も飛んで沖縄東方海域へ出て、日本の商船を狙うだろうか――という疑問を表明する人は、防衛庁内にも多い。
 ソ連の対艦ミサイルは技術の遅れを反映してか、小型戦闘機並みの大きさ。バックファイアが搭載するAS4は全長11.3メートル、1機に1発しか積まないのが普通だ。また、ソ連の長距離爆撃機TU95(ベア)改造の情報収集機が、ごくたまに日本1周飛行をすることはあったが、バックファイアが日本南方海上まで出てきたことは一度もなく、平時に訓練していない長距離洋上攻撃を有事にやるのは困難、というのが常識である。
 また、海上自衛隊は最近まで「船団の直接護衛はもはや無理」とほぼあきらめていた。その理由として(1)有事の際、最小限必要とされる1億9000万トン余の輸入量を、船団護衛で守るには数百隻の護衛艦が必要(2)商船の巨大化、高速化で船団を組むのは困難となった、としていた。その代案として生まれたのが本州―硫黄島への小笠原列島線、九州―沖縄への南西列島線沿いにパトロールし、その間の扇状の海域を商船にほぼ自由に走らせる、シーレーン防衛構想だった。
 ところが、エイジス艦による防空は半径150キロを守るものだから艦隊や船団は守れても、広大な海域を自由に走る商船を守るにはほとんど役立たない。また、空対空ミサイルを積むP3も、船団や艦隊の前方に待機して守るのに適している。このため、海上自衛隊は「時と場合によっては船団を組ませて守ることもある」との側面を強調し始めた。洋上防空の兵器体系の取得の都合上、突然「船団護衛」が再浮上したわけだ。
 航空自衛隊などには「もしソ連機が日本商船を襲う事態になれば、沖縄近海に航路を取り、那覇、新田原(宮崎)の戦闘機の行動圏内を走れば大丈夫ではないか」という説もある。海上自衛隊も「それは一応もっとも」としながら「航路が決まっていると潜水艦に狙われやすい」という理屈を立てる。
 とはいえ「横浜や神戸、横須賀や佐世保が爆撃されるようでは、シーレーン防衛は無意味。本土防空が洋上防空より先決」という点だけは、海上自衛隊のだれもが否定しえないのだ。
 
 
 
 
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