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私はこう考える【自衛隊について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1985/07/26 朝日新聞朝刊
シーレーン洋上防空構想−−何から何を守るのか
 
 防衛庁は、61年度から5カ年の防衛力整備計画である59中期業務見積もりを作成中だが、その中心課題の1つが、1000カイリシーレーン洋上防空体制の整備だ。しかし、これを本格的にやるとなると、超地平線(OTH)レーダーという「防衛計画の大綱」が想定していないものを装備したり、航空機、護衛艦をこれまでの計画以上に増強しなければならなくなってくる。防衛庁はこの構想で何を、何から守ろうとしているのか。
(鐘ケ江健児記者)
◆構想 北の脅威に早期対応 “仮想敵”バックファイアー
 わが国の周辺海域を守る洋上防空構想そのものは、特に目新しいものではない。しかしシーレーン防衛の対象が「帯」ではなく「面」になった今、その一環としての洋上防空となると、話は変わってくる。
 防衛庁によれば、洋上防空体制の整備が必要になった理由はこうだ。1970年代後半からソ連は極東基地に長距離爆撃機バックファイアーを配備、なお増強しつつある。同機は最高マッハ1.9、行動半径約5000キロ。シベリアの基地から太平洋の1000カイリシーレーンまで楽に進出できる。しかも、射程300キロの空対艦ミサイルを積載、遠方からわが国艦船を攻撃できる。
 こうした空からの脅威にはどう対抗するのか。米海軍の場合、距離によって3段階の防御体制を取る縦深防御システムの整備を進めている。第1段階は、相手方の爆撃機の接近をいち早く探知し、それが対艦ミサイルの射程に到達する前の区域(アウター・ディフェンス・ゾーン)で要撃機が阻止。これは空母艦載の早期警戒機、戦闘機が受け持つ。次に、この内側(エリア・ディフェンス・ゾーン)では、要撃機をくぐり抜けた相手方の爆撃機やミサイルを、艦対空ミサイル(SAM)で防ぐ。これはミサイル搭載艦(CG、DDG)の役目だ。最後は各艦がそれぞれ自艦を守るための区域(ポイント・ディフェンス・ゾーン)で、短距離SAMや対空砲の出番となる。
 海上自衛隊もこういう体制をとりたい。しかし海幕にいわせれば、ミサイル搭載護衛艦4隻と短距離SAM装備護衛艦9隻はあるが、第1段階の航空機による要撃体制は不十分。OTHレーダー、早期警戒機、要撃戦闘機の動員を組み合わせた洋上防空体制の整備が浮上した理由はここにある、とする。
 その構想によれば、硫黄島か南西諸島に監視距離約3000キロのOTHレーダーを設置、極東ソ連基地から太平洋方面に出てくるバックファイアーなどの動向をキャッチする。ただ同レーダーは精度が低いため、早期警戒機E2Cを飛ばし、機種、機数、飛行の方向などを確認、要撃戦闘機部隊に連絡する。これを受けてF15やF4などが洋上に出動、警戒にあたる――こういう体制をつくるという。
 また、護衛艦自体の防空能力を高めるため、米国が開発した最新ミサイル護衛艦(エイジス艦)を2隻導入することも検討している。従来のミサイル護衛艦が同時に2目標(飛行機やミサイル)しか攻撃できないのに比べ、エイジス艦は最新型のレーダーとコンピューターの組み合わせで同時に十数目標への攻撃ができ、とくにミサイルから艦艇を守る能力は飛躍的に向上する、と米海軍ではいう。
◆背景
 バックファイアーは70年代末から極東に配備されていたし、その後増強されたといっても現在80機程度だ。それなのになぜ、59中業で急に洋上防空体制が浮上してきたのか。ひとつには、これまで海上自衛隊の防衛力整備の中心となってきた対潜水艦作戦能力が、すでにかなりのレベルに到達していることが挙げられる。
 対潜哨戒機は、従来のP2Jから1機でわが国の四国に匹敵する海域が哨戒できるP3Cに切り替えが進み、59中業では100機体制に増強される。約60隻の護衛艦の対潜能力と合わせ、海上自衛隊の対潜作戦能力は、米国につづいて自由世界で2位になるといわれる。
 また、米国が北半球の海底に張りめぐらした水中固定の音波探知機「ソーサス」の存在や、ソナーの探知技術の向上で、ソ連原潜の存在がつかみやすくなったこともあって、海上自衛隊の対潜能力強化に、これまでのような強い口調の注文を付けることが少なくなってきた。
 防衛庁の新たな整備目標として「洋上防空」が出てきた背景には、こういうことがある。これは米国の軍需産業にとって、新たな市場分野が開けることも意味し、米側も望むところだ。
◆問題点 米戦略の補完役 防衛大綱から踏み出す
 しかし、この洋上防空体制構想には問題も多い。第1に同構想が、わが国の防衛力整備の基本指針とされている「防衛計画の大綱」の趣旨に沿っているかどうかだ。昭和51年に閣議決定された大綱では、海上自衛隊の守備範囲は、わが国の「周辺海域」と明確でなく、護衛艦は「対潜水上艦艇」と規定されていた。それが56年の鈴木首相(当時)の米国での「1000カイリは日本の庭先」発言を契機に守備範囲が大きく広がり、今度はその「防空」までエスカレートしている。
 また、大綱が基盤的防衛力として「別表」に示した防衛力の枠内で、防衛庁の考える洋上防空体制をつくれるかどうかも問題だ。例えば、レーダー基地について、「別表」は28個警戒群と定めており、OTHレーダーを導入するとその枠をはみ出してしまう。航空自衛隊の作戦用航空機についても「別表」は約430機と定めているが、航空自衛隊はこの機数では本土防空だけでも不足だとしており、洋上防空のための機数増が要求されることになろう。
 さらに、世界でもトップ級のF15、F4戦闘機をもってしても、戦闘行動半径の関係から1000カイリシーレーン全域をカバーするのは無理。次の課題として「別表」に規定のない空中給油機や軽空母の導入が浮上してくる。このように、洋上防空構想を進めていけば、防衛庁が「防衛力整備についての国民合意の基本」と位置づけている大綱そのものの見直し、改定に行きつくのは確実だ。
 第2に、洋上防空体制の整備で何を守ろうとしているのか、という問題がある。海幕幹部は「バックファイアーの極東への配備増を考えれば、有事の際に太平洋上の艦船攻撃作戦を考えているのは間違いない。それに備えるのだ」という。しかしソ連機が太平洋に出てきても主目標は米空母のはず。日本の船を狙うかどうか。
 一方、エイジス艦は1隻1400億円程度といわれ、従来のミサイル護衛艦の2倍以上。米軍は空母の直接護衛用にエイジス艦を開発しており、高価格艦もそれなりに意味を持っているが、日本には空母に匹敵する護衛対象はない。
 こうしたことから、OTHレーダーやエイジス艦の導入は、米国の前方展開戦略の一環を担う、との見方が出てくる。オホーツク海には、8000キロ以上の長射程戦略ミサイルを持ち米本土を狙うソ連原潜が多数潜んでいると米国は見ており、米ソ有事の際には米海軍が同海域の制圧に出動するといわれている。ところが、ここはソ連極東基地に近く、バックファイアーだけでなく、ミグ23などソ連戦闘機の作戦行動圏内に入っているため、米軍に対する空からの脅威は飛躍的に増大する、と米国は警戒している。その際、OTHレーダーによる監視、エイジス艦による防空という2つの能力が日本によって完備されれば、米軍に対する補完的役割は飛躍的に向上する。
 例えばOTHレーダーの場合、米国には北・西太平洋に3カ所のOTHレーダー基地建設の計画があるといわれ、日本のOTHレーダーは、ちょうどそのレーダー網のすき間を埋める形になっている。両方合わせて、極東ソ連軍の監視網が完備することになる。日本にはOTHレーダーの技術がないため、導入するとすれば米国の技術提供に頼らざるを得ず、代わりにレーダー情報の提供が求められるのは確実。近年、米軍と自衛隊の間で装備などの相互運用性(インタオペラビリティー)が着々と進められていることなどと合わせ、憲法が禁じている集団的自衛権に踏み込む可能性もあり、論議となりそうだ。
 
 
 
 
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