2002/03/24 朝日新聞朝刊
指示待ち先生増えないか 学校主幹制(社説)
学校の校長、教頭の下に「主幹」という職を設けることを東京都教育委員会が決めた。
管理職の下で先生が横並びの「なべぶた型」の組織をやめ、役所のような「ピラミッド型」に近づける全国初の制度である。
主幹は教員の受験者から勤務実績や面接をもとに教委が選ぶ。教頭の補佐役として教務、生活指導など担当別に一般教員の報告や相談を受け、指導・監督に当たる。
学校には既に連絡調整役として教務、保健、学年などの主任制がある。都教委は主任に監督権限を持たせる方向で文部科学省に見直しを求めていたが、独自に主幹制をつくり主な主任を兼ねさせることにした。
計画では来春から都立高校と区市町村立小中学校に導入する。小学校には2人、中学校に3人、全日制高校は6人ずつ、計6千人を超える先生を充てるという。
これで課題に迅速に対応でき、「いじめや不登校、中途退学、荒れる学級などの問題を大幅に改善」し、「学力向上につながる」と都教育庁の検討委員会は最終報告で述べている。
管理職と教職員組合が対立し、全員参加の職員会議で決まらない限り動かない高校もあると聞く。そんな高校が学校運営全体を見直すことは必要だと思う。
しかし、だからといって、小中学校も含めすべての学校に主幹制を導入することが問題の解決につながるのだろうか。
教員は日々子どもに接し、一瞬一瞬の判断を求められる自律性の高い仕事だ。それを主幹に監督される立場に置けば、「報告、連絡、相談をしていれば責任はない」と、指示待ち組を増やすことになりはしないか。主幹がいちいち報告を求めたりすれば、迅速どころかかえって時間がかかる。
東京都は既に、管理職による評価を給与に反映させる人事考課制度を全国に先駆けて実施している。そのうえ主幹制が始まるとなると、ドラマの金八先生のような個性派は一層生まれにくくなりそうだ。
一部の学校を改めるために、全体にかかわる制度を変えてしまう。それでは、うまくいっている学校まで混乱しかねない。
いじめや学級崩壊などの課題は学校ごとに多様である。それに取り組む態勢はさまざまであってよいはずだ。
ベテラン教師が、異動したての主幹よりもまとめ役にふさわしい場合も考えられる。学校が必要に応じてテーマ別にグループをつくって柔軟に対応した方が教員の力を合わせやすいこともあるだろう。
一人ひとりの先生の持ち味を生かし、学校としての力を結集するのは、校長の腕の見せどころだ。どの学校にも一律に主幹を選んで送り込むようなことでは特色ある学校は育つまい。
教員のやる気や先生同士の風通しのよさこそが学校改革の出発点だ。制度を運用する都教委はよくよくそこを考えてほしい。
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