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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/09/06 朝日新聞朝刊
美文の中の奉仕義務化 山岡義典(時流・自論)
 
 七月末に発表された答申を今さらながらとも思ったのだが、教育改革国民会議の第一分科会(人間性)の全文とその執筆に当たった曽野綾子さんの解説が出ているというので、最新号の『諸君!』を買って読んでみた。「奉仕活動の義務化」のことばかり報道されているが、もっと別の提言もなされているはずだと思ったからだ。
 読んでみると、具体的な提言はほとんどそれだけ。他はいわば精神論、抽象的なお説教を美しい文章で書きあげたに過ぎない。その文中に、木に竹を接いだように、この具体的提言が突如として現れる。
 美文というものは数字や固有名詞に弱い。「小学校と中学校で二週間、高校では一カ月間を奉仕活動の期間として適用する」「青年海外協力隊のOB、青少年活動指導者の参加を求める」「満一年間の奉仕期間」とくるとさすがの文体も台無し。この部分は曽野さんが進んで書いたとはとても思えない。いや、どう見ても、最初からちゃんとここに存在したとも思えないのだ。
 この提言の直前には「個人の発見と自立は、自然に自分の周囲にいる他者への献身や奉仕を可能にし、さらにはまだ会ったことのないもっと大勢の人々の幸福を願う公的な視野にまで広がる方向性を持つ」とある。何と美しい思想。それがなぜ「奉仕活動の義務化」につながるのか? どう考えても分からない。
 しかも、この提言のちょっと後には「誰(だれ)があなた達に冷えたビールを飲める体制を作ってくれたか」と来るから、「えっ、中学や高校で奉仕活動の後にビールでも飲むの?」と思ったりする。曽野さんの解説を読むと、「冷えたビール」はその直前の「炊き立てのご飯」とともに最も心血を注いだところのようにうかがえる。
 つい筆が滑ったというものでもあるまい。よく読むと「奉仕活動の義務化」と「冷えたビール」の間には「大人の自分を発見する」という一文がある。中・高生はいつのまにか大人に育ったというわけかもしれないが、何となく釈然としない。そこでこの接いだ「竹」の部分をきっぱり切り落としてみると、「木」は見事に美しい体制感謝の教育論として完結する。
 「竹」の部分の議論はたしかに重要だ。この是非については九月二十二日(金)の夜に日本ボランティア学会有志が東京で緊急フォーラムをもつ。来年は国際ボランティア年だから、世界の人々も交えて本気で議論するのもよい。
 しかし「炊き立てのご飯」や「冷えたビール」を可能にした体制に感謝せよという「木」の部分についても、精神論とはいえ本気で考えないといけない。
 それらを可能にしてくれなかった時代も、実際にあったということを忘れた教育論ほど怖いものはないからだ。
◇山岡義典(やまおか よしのり)
1941年生まれ。
東京大学大学院修了。
日本NPOセンター会長。


 
 
 
 
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