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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999/07/19 朝日新聞朝刊
学習にもアセス必要だ(対談「学力低下」を考える:下)
苅谷剛彦(東京大学助教授)
寺脇 研 (文部省政策課長)
 
 「子どもの学力が低下している」という声をどうとらえるのか。文部省政策課長の寺脇研さんと東大助教授の苅谷剛彦さんの対談は、子どもの意欲重視の改革の是非をめぐる五日付の論議に続き、「では、これからどうするか」という各論に迫る。「つり橋は揺れるが、前に進まなければ」と語る寺脇さんに、苅谷さんは、皆で検証するための情報公開の必要を訴える。
 
 寺脇 「新指導要領で中学卒業までには皆が分かるようにする」と言いましたが、学校の先生たちがそんな指導をしてくれるのが前提です。二〇〇二年になったら、わかんない子は一人もいないって状態を見せなきゃいけない。国民が文部省の教育改革を信じてついてったけれど、子どもが分かるようにならなかった瞬間に反乱でも起こして文部省を焼き打ちするというくらいの話でしょう。それを先生方に認識していただきたい。
 「生きる力」や「心の教育」は文学的な言葉に過ぎない。今度はリアルな数字で成果を示すことを約束していかなきゃいけない。
 
 苅谷 でも、どうしたら教員の意識が変わるか具体的な方法まで考えないと。教員の勤務時間、教材研究のやり方、教員研修や養成・・・。
 もうちょっと準備期間があって、文部省が洗いざらい現状や制約条件を示せれば、やりましょうと声が上がるでしょう。そこが見えないから、危機感が学力問題として象徴的な形で出てきたのでは。
 
 寺脇 ただ、これまでと今が劇的に違うのは情報公開という大きな流れができてきたことです。私がいまPTAでお話ししているのは、あなたの学校に「二〇〇二年へ向けての準備ができていますか」と毎日聞きにいってください、学校側には答える義務がある、ということです。文部省が先生の考え方を変えるだけではなくて、住民みんなで考えて変えるしか道はない。
 さらに言いたいのは、一律に減らすのは小中学校だけということです。高校は選択幅を広げるし、大学は安易に卒業させず厳しく教育する。
 
 苅谷 しかし、大学の実情は、教育力が相当低いです。ツケが大学に回ったときに、非常に危ない。
 
 寺脇 ただ、きちんと教育しない大学はもう生き残れない状況がでてきている。
 
 苅谷 これもどこまで変われるか実態把握が必要という話になるわけです。残念ながら、いままでの中教審や大学審の議論はかみ合ってない。
 
 寺脇 確かに心配はあります。私だって、能天気にうまくいく、なんて思ってないですよ。心配だからこそ声を大にして、「皆さん信じてください」と言わなきゃいけない。信じなきゃ実現しない。
 
 苅谷 でも、実態の分析を含め前提を詰める議論の方が皆は信じてくれると思うんですよね。学力問題はゆくゆくは産業政策、つまり通産省の問題でもあり、税収、つまり大蔵省の問題でもあり、労働力の質としては労働省の問題でもある。なのに、今までの議論は条件整備の手前でとどまってしまっている。
 
 寺脇 しかし、どんな教育をするかまず提示しない限り、国民は金なんか出してくれない。まず、これまでのシステムを崩す必要があると認識してもらわなきゃいけない。
 
 苅谷 ただ、個性を大切にする新しい学力に比べると、今までの基礎学力の方が、先生たちは比較的教えることができた。普通の教師に出来ることを標準に、まず発想する方がいいんじゃないか。
 問題は、五分で出来る子と三時間かかる子がいる。五分の子にとっては、その後やることがなくなっちゃう、ってことがあり得ませんか。
 
 寺脇 出来ちゃった子が次をやろうとしたって問題ない。学年の幅を持たせた指導要領にしているし。中学校の選択科目は、学習指導要領より上のことを教えることが可能ですよね。指導要領は全員に共通して教えるミニマム(最低線)だってことですよ。
 
 苅谷 ミニマムですか。そこまで明言されてはいませんでしたよね、今まで。
 
 寺脇 ろくすっぽ教え切れていないのに、上のことまでやっていいなんて言えた義理じゃないわけですよ。
 
 苅谷 そうなったときに、学習指導要領に準拠してきた教科書はどうなるんですか。
 
 寺脇 上のレベルのものを先生が用意しないといけない。検定制度が出来て以来、日本の小、中学校では検定教科書が机の上に置かれない時間はあり得ないという考え方でやって来たのに、今度の総合的学習はそれが「ある」。
 
 苅谷 すると、ますますもって個人の意欲とか置かれた環境とかが重要になってくる。今までは学校が学力をある程度保障してたけれど、子どもがもっと勉強したいとき、塾があるのはだいたい都市部。地域間格差とか階層差とか家庭の影響が露骨に出てくる。
 
 寺脇 ここで、死語になりかかっていた社会教育の復権を考えていかなきゃいけない。地域間格差をなくすのは社会教育が果たすべき役割ですね。「東京には塾があるけど、うちはない」なら、塾を誘致する自治体も出てきていい。
 
 苅谷 バリエーションを提供しようとすると、教員がさらに必要になってくる。
 
 寺脇 ただ、無制限には増やせない。教師がいろんな人の教育力をコーディネートしていくことが大切になる。三十人学級ですべてが解決するように言うのは文学的な美辞麗句になりかねない。
 
 苅谷 不安に思うのは、改革のタイミングの悪さです。社会が高齢化して財政的に非常に厳しくなり、国際競争も激化する。リストラで企業でも再教育ができにくくなる。そんな流れの中で大丈夫か。
 
 寺脇 だが、こんな時代だから、何か変えなくちゃまずいんじゃないか、と思うようになるともいえる。金融制度改革だってバブルの時に金融制度改革してりゃよかったわけだけど、やはり出来なかったから、今やってる。
 つり橋を渡っているようなもんですよ。つり橋は揺れます。揺れると後ろに戻りたくなっちゃうけど、前へ進むことが必要なんじゃないのか。
 
 苅谷 もうひとつこわい問題というのは、改革のメッセージが単純化して伝わって、父母の側で、どうも公立学校に入れると危ないよ、と言って私立に流れ、公立が地盤沈下する危険性がある。
 
 寺脇 しかし、それは公立学校側の情報公開とアカウンタビリティ(説明責任)が十分じゃないからです。
 
 苅谷 ただ、アカウンタビリティというのは、こういうことをやりますから理解して下さい、というのと同時に、やった結果ここまで到達できました、というのもありますよね。だから、教育改革アセスメントセンターがほしい。文部省が自ら説明責任を果たそうとするなら、情報公開して研究者を総動員してやればいいんですよ。成果を評価しながら、問題があればとことん直していく仕組みにしないといけない。
 
 寺脇 確かに今までそれができてなかった。ただ、では何で急ぐのかと言われたとき、とにかく変えられるんなら早く変えようとやっている。
 
 苅谷 でも、アセスメントは現状でもできる。手法は、外国に学べば、たくさんある。全米で最悪の学校区といわれたシカゴで大改革をした。十年後に第三者機関が、シンクタンクを使ってアセスメントをして「あまりうまくいってない」という調査結果を発表した。それに対し、教育委員会が「うちはうちでやっている、データは来年出るから、それで議論しましょうよ」と。きちんとデータがあるから、議論がかみあうんですね。
 
 寺脇 将来的にカリキュラムの基準を大幅にゆるめて地域の特色が生かすには、なおさらアセスが必要だと思います。日本の市民社会も大きく変わりつつあるわけだから。
 
 苅谷 今いる人を残しながら変わるのは大変ですね。すると、研修の時間が必要です。学校の先生が受け持ちの時間は減っているのに、忙しさは変わらないのは不思議な話ですよ。聞いてみると、会議が多くなって資料をつくんなきゃいけないとかね。
 
 寺脇 会議がべらぼうに長いことをどう考えていくか。何でも合議制で決めようとする仕組みはどうか。これからそういう学校の「常識」を変えなきゃいけない。
 
 苅谷 最後にぜひ確認したいのですが、今日のお話は、寺脇さん個人のご意見なのか、文部省の考えなのか。
 
 寺脇 文部省全体と私が違うことを言っていたら大変な問題になる。政策課長は文部省の教育改革政策に説明責任を持っていなきゃいけない。
 
 苅谷 やはり、アセスメントをきちんとするかどうかにかかっていますよね。
 
 寺脇 おっしゃるようなリアルな議論をしていかなきゃいかん。「昔の子どもがこうだった」みたいなノスタルジックな言説がまかり通るのは、非常に危ない。私たちが、いかにリアルな議論ができるかということです。
◇苅谷 剛彦(かりや たけひこ)
1955年生まれ。
東京大学教育学部卒業。米ノースウェスタン大学大学院修了。
東京大学教育学部助教授を経て現在、東京大学大学院教育学研究科教授。
◇寺脇研(てらわき けん)
1952年生まれ。
東京大学法学部卒業。
文部省入省。生涯学習振興課長、大臣官房政策課長、文部科学省大臣官房審議官を経て、現在、文化庁文化部長。


 
 
 
 
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