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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/12/14 朝日新聞朝刊
円の面積、小5正解半数 基礎、目立つ低下 文科省の学力調査
 
 子どもたちの算数の力は大丈夫か。文部科学省が発表した学力調査で、円の面積を正しく答えられた小学5年生は2人に1人だった。「学力低下」で論議になることの多い算数・数学では、基礎的な問題につまずく子どもが増えたことが浮かんだ。どう対応すればいいのか。一方で国語の成績は上がった。子どもの学力は、単純には測りきれない側面ものぞく。(1面参照)
 半径10センチの円の図。「円周率3・14」を使うとの指示もある。面積の公式「半径×半径×円周率」を使えば、計算自体は複雑ではない。
 だが正答率は、前回より15・8ポイント低い53・3%(公立校の児童で比較)。文科省側が想定した正答率とは20ポイント以上の開きがある。何も答えを書いていない子どもも1割ほどいた。
 「7割はできると思ったが……」。現場教師らでつくる数学教育協議会常任幹事の銀林浩・明治大名誉教授は戸惑う。
 兵庫県朝来町立山口小学校の陰山英男先生(44)は「予想範囲内の結果だ」。読み書き計算の繰り返し学習を徹底することで知られる。「計算のつまずきに加え、公式を覚えきれていない子が増えたのだろう」
 背景に、授業時間減少があるとみる。今春から本格実施された総合的な学習の時間を先取り実施した学校は多い。そのため算数などの授業はすでに減っていた。「反復学習をする時間が減り、学んだことを定着させられなくなった恐れがある」
 正答率が下がったのは円の面積だけではない。三角形の面積や1次方程式の計算など、基礎的な問題が目立つ=別掲の問題参照。
 千葉県柏市立柏第二小の神戸安行先生(41)は10年近く、算数の教科書執筆に携わってきた。教科書は、公式などを暗記させるだけでなく考えさせる内容に変わってきたという。
 「正解かどうかしか測れない調査結果だけで、『学力が落ちた』とは言えないだろう」。そのうえで、基本的な力が、なぜ定着しにくいのかについては次のようにみる。
 「公式を覚えることは必要だが、それだけでは考える力がつかないと思っている先生が大半だ。授業が減るなか、しっかり考えさせることと、覚えさせることの両方に、どう時間を配分するかを考える必要がある」
 
○漢字の正答率、上昇
 国語の出来が総じて良かったことには、国語教育に携わる関係者から驚きの声があがっている。子どもの「活字離れ」や「言葉の乱れ」を嘆くのは大人の常だが、結果はその「常識」とは逆になった。
 小学校で目立つのは、漢字の読み書きの問題の正答率が高いことだ。前回も7、8割ほどの高い正答率を誇っていたが、今回は9割を超える問題も出てきた。テープを聴いてからその内容を把握できているかどうかの質問に答える問題では、ほぼ100%の正答率に至っているものもある。
 中学校では、国語への関心や意欲があるかどうかを確認する記述問題の正答率は必ずしも高くない。ただ、文章を読んで感想をまとめる記述問題で9割を超える正答率を上げているケースもあり、興味がないまま解答を投げ出しているという形跡はない。
 なぜ国語は伸びたのか。教科書の執筆や教育実践の研究に携わってきた横浜国立大の府川源一郎教授(国語教育学)は、次のように話す。
 「子どもたちはテレビやゲームなどを通じて、伝統的な読み書きとは質の違う新しい言語文化に対応する能力を身につけてきているのではないか。学習意欲のアンケートなどと併せて分析した結果に注目したい」
 
 《学力調査》正式には「教育課程実施状況調査」。国立教育政策研究所が実施主体となって、1月から2月に行った。
 対象は無作為に選んだ国公私立の小学校3532校の約20万8千人(全国の5、6年生の8%)、中学校2539校の約24万3千人(全国の中学生の6%)。小学校は4教科、中学校では英語を加えた。「競争を誘発しかねない」との判断から、学校や地域ごとの分析はしない。
 学力に加え、学習意欲なども併せて調査。アンケート方式で児童生徒と、その指導をする教師が答えた。
 
○教育現場の声 学んだこと活用の場を、少人数制で意欲高めて
 小中学校などの現場では、今回の結果をどうみるのか。
 東京都台東区立根岸小学校は、国語などの教科と、総合的な学習の時間(総合学習)の連携に力を入れる。小島宏校長には、算数の基礎問題が弱いという実感はない。
 「今回のような調査結果を受けて、ドリル学習を強化すべきだと言う人がいるだろうが、それがいいとは思わない。それより総合学習などを使って、学んだことを活用できる場面を増やし、定着を図ることが重要だ」
 京都市立新林小学校は3年前から、100題の計算問題を解く「百ます計算」で基礎の充実をはかっている。
 久保齋先生は「ゆとり論議の影響で、『出来るのも出来ないのも個性』と考える先生が増えた。教え切ることができていないから、積み上げが最も必要な算数の学力低下が顕著なのだろう」と言う。この結果で、低学年からの習熟度別学習が進むと、学力の二極化が小さいうちから定着してしまうのが心配だという。
 算数・数学の習熟度別学習などを進めている福岡県芦屋町。中島幸男教育長は「調査結果と本町の状況を比較すると納得する結果だ」。
 少人数授業など教育施策で知られる愛知県犬山市の瀬見井久教育長は「重要なのは、子どもの理解度の違いに目を配り、少人数授業や少人数学級などの教育環境を早急に整備し、学力や学習意欲を高めることだ」と話す。
 
○分析急ぎ方策示せ
 《解説》今回の学力調査は、学習内容を3割減らして「学力低下を招く」との批判を浴びた今春からの学習指導要領の影響をみるのが目的ではない。昨年度までの旧学習指導要領下での学力の推移をはかるものだ。
 ただ、文部科学省は来年度以降も毎年調査を行うとしており、今回の結果は新指導要領下の学力をみるための土台とも言える重要なデータとなる。その結果は、指導要領の改訂や指導方法の見直しに反映される。
 今回公表されたデータは正答、誤答の集計程度にとどまる。文科省はこれから詳細な分析をするとしているが、心配なのは、結果を「全体としてみればおおむね良好」と総括していることだ。
 学力低下批判に背を押され、文科省はゆとり路線を堅持しつつ学力向上策を講じた。それが教育現場には「軸足のぶれ」として映り、困惑や混乱を生んだ。
 いまは、低下の目立った算数・数学をはじめとする問題点について具体的に解明し、説得力のある分析結果を教育現場に打ち返すことが求められる段階だ。それなのに、全体をみて「おおむね良好」と繰り返すだけでは、さらなる混乱を招く原因になりかねない。
 学習意欲などの調査結果は、分析結果と併せ、現場での大きな手がかりになろう。「勉強は大切」と思っていても勉強が好きになれないという実態は、教える量や時間を増やし、再び「詰め込み」に走っても十分な効果が得られないことを示唆する。学習に関心を持てる方策をいかに立てられるかが問われる。(長谷川玲)
 
●文科省は、現実直視を
 学力低下問題を訴えてきた苅谷剛彦・東大教授(教育社会学)
 この結果を文科省が「おおむね良好」と言うのに驚いた。自ら想定した正答率と比べたというが、基準設定の根拠があいまいだ。
 前回と同じ問題で正答率が下がったのは266問。上がったのは148問。低下傾向は明白だ。それを直視しない文科省は教育現場の信頼を失うだろう。
 前回も今回も同じ指導要領下の調査だが、文科省がこの10年強調してきた新学力観が浸透した影響ではないか。「関心・意欲・態度」に力点を置く指導を求め、「知識・理解」の軽視を招いた。
 現指導要領はその路線を強めたもので、週5日制も含め、改革全体の再検討は避けられまい。そのためにも生データを公開し、再分析すべきだ。
 
●「ゆとり」路線に原因
 「分数ができない大学生」(共著)などの著書で学力低下問題を訴えてきた西村和雄・京大教授(数理経済学)
 算数・数学の正答率が全学年で低下していることをみると、学力低下は明らかだ。算数・数学は他教科より単なる暗記だけでは得点しにくいため、最も全体の学力をみる指標になる。ほかの学力低下を示す調査結果を、文科省の大規模調査が裏付けたことになる。
 原因は、90年代から加速した「ゆとり教育」路線で、単純な反復学習などを軽視する傾向が強まったことだろう。今春からの新学習指導要領では学習内容が減ったが、学力を高めるには早く変える必要がある。学習内容を増やし、詳しく解説をした教科書に改めることが望まれる。このままでは低下に歯止めをかけられない恐れがある。
 
●思考力、育っていない
 「学力低下」論を批判してきた加藤幸次・上智大教授(教育学)
 国語、理科は、必ずしも深刻に心配する必要はないようだ。とくに国語は、昔から読み書きを中心に教師たちが力を注いでおり、今回の成績にもそれが反映されている。
 心配なのは算数・数学と社会。両教科とも思考力の部分が十分に育っていない。算数・数学では、計算問題を解く以前に、数や式の意味を深く考えさせる学習がおろそかになっている。本来の、わかる授業を目指さずに、最近流行しているようなドリル学習を励行するだけでは回復は難しい。
 授業改善に向けた教師、学校の努力が求められるが、限界がある。きめ細かな指導のため教員数を増やすなど行政のバックアップが欠かせない。
 
●点数より本質議論を
 「『学力低下』批判」(共著)などの著書がある長尾彰夫・大阪教育大教授(教育課程論)
 算数などの正答率が低下したことで「学力が低下した」と言うのはおかしい。過去との比較を主眼にした調査ではなく、比較できる問題は3分の1程度と少なすぎる。一部だけを見て、全体のことは論じられない。
 同じ理由から、国語の正答率上昇を見て、学力が上がったとも言えない。文科省は「低下がない」と主張するが、それも言い切れない。「低下」論者は新しい学習指導要領批判をしてきたが、今回の結果からそれはできない。旧指導要領だった昨年度中の調査だからだ。もう、点数の上下だけにとらわれた議論はやめ、子どもにどんな学力が必要なのかといった本質的な議論に転換していくべきだ。


 
 
 
 
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