2002/12/14 朝日新聞朝刊
結果を役立てるために 学力調査(社説)
文部科学省が今年はじめに全国で実施した学力調査の結果を公表した。
93年度から95年度にかけて実施した前回と同じ問題に解答を求めたところ、全体的に正答率が下がる結果となった。学力低下論議がますます活発になるだろう。
対象とした小学5年から中学3年までの延べ23教科のうち、前回より正答率が上がったのは3教科だけだ。横ばいと低下した教科がそれぞれ10あった。
国語が上昇した一方で、算数・数学、社会の低下が目立った。とくに算数・数学では、三角形や円の面積、分数の足し算などの基礎的な問題のできが悪かった。社会でも知識の不足が顕著だった。
この結果だけでいたずらに悲観する必要はないだろう。だが、まるで学力の低下がないかのように、調査結果全体を「おおむね良好」と評価した文部科学省官僚たちの感覚はいただけない。
設問は教科書に載っている問題がほとんどだが、それさえも解けなかった子どもが少なくない。
学力の大事な要素である独創力や応用力が優れていることを示すデータもない。成績分布図をみる限り、できる子とそうでない子の差が縮まったともいえない。
文科省が楽観的な評価の理由としているのは、あらかじめ自分たちが想定した正答率よりも、調査の正答率の方が高かったということである。
しかし、文科省が想定した正答率が妥当だったかどうかは議論のあるところだ。
また、義務教育が終わる中学3年では前回調査と比べて正答率が下がっていないことをことさら強調し、全体の学力に問題がないようにいうのも無理がある。
調査が行われた今年1月は高校受験の追い込みにかかっていたころだ。受験勉強で成績が上がったことも考えられる。
子どもたちの学力を「おおむね良好」というためには、もっと細かな分析や評価方法の改善が必要だろう。
学年が上がるごとに勉強嫌いが増えている。その背景に何があるのか。
せっかく始めた全国調査である。結果を正面から受け止め、生かしてほしい。
それには、個人の情報を保護しつつ、学級の規模、勉強時間、塾通いの有無、教師に関する情報などと調査結果を重ね合わせて分析できるように、データを公開する必要がある。学力の問題は、文科省だけでなく広く民間の知恵も集めるべき課題だ。
独自に学力調査をする自治体も広がっている。親や教師、研究者が一人ひとりの子どもの学力を高めたり、つまずきをなくしたりする方法を考えることが大切だ。
文科省は学力の低下を認めたくないのだろう。「ゆとり教育」への批判となってはね返ることを恐れるからだ。
役所の政策を守ろうとする余り、現実を見誤るのでは本末転倒である。
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