2002/10/12 朝日新聞朝刊
カリキュラム 公立も中身で生き残り(競争加速 転機の教育:5)
東京の私立中高一貫校、麻布学園(東京都港区)は独特のカリキュラムで知られる。
現代国語は、中2の2学期末になると「蝿の王」(W・ゴールディング)、「枯木灘」(中上健次)などの長編小説リストが配られる。最低3作品を読み、班に分かれて長文の評論を「卒論」として仕上げる。原稿用紙200枚の大作もある。
数学は中1で紙の正多面体を作る。サッカーボール、いくつかを組み合わせた国会議事堂など豊かな発想が生まれる。
すべての教科で重視しているのは、自分の頭で考える力を養うことだ。
中高一貫の私立校のカリキュラムは自在だ。灘(神戸市)は各教科の教員6〜7人が、中学入学から高校まで持ち上がりで担当し、6年間を見通したカリキュラムを工夫する。開成(東京都荒川区)は基礎に十分時間をかけ、論理的に考える力を身につけさせる。
いずれも入試の難関校として知られ、毎年、東京大学などに多くの合格者を出す。
2年ほど前から、麻布には中高一貫教育を目指す各地の教育委員会や、公立校の先生が視察に来るようになった。
「どんなカリキュラムで教育しているのか」
「ノウハウを教えてほしい」
麻布の平秀明教務主任は「東大合格のマニュアルみたいなものがあると思われているようなんです」と話す。実際は「知的能力が高い生徒が集まるので教員がやりたいようにやれる」という。
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ここ数年、公立高でも、それぞれの生徒に合わせたカリキュラムを組む動きが活発だ。
奈良県有数の進学校、県立奈良高の3年生には160パターンの時間割りがある。7年前から、生徒が授業を選び自由に時間割りを組む「単位制」を導入した。
単位制は「マイペースで学べるように」と定時・通信制で採用された。93年度から全日制にも認められると、「必要な授業を効率よく選択できる」と、公立進学校の衣替えが相次いだ。
奈良高では、2年生で全体の約7割の24単位、3年生では約8割の29単位の授業を自由に選択できる。
「数学Cβ」は、少人数授業でプリント演習を通じて個別指導する。「探求物理」は実験中心。「英語ニューズ」は英字新聞を読む。
受験を意識した科目や、高度な内容の発展的科目が用意されている。「どんな授業を設けるか、生徒のニーズを読んで絶えず見直している」と松田茂男校長は話す。
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97年度に開校した県立博多青松高(福岡市)の定時制は多彩なメニューを用意した。基礎から応用まで400以上の授業を用意する。高校中退生から難関大志望者まで約500人が通う。入試倍率は常に5倍を超える。
受験事情に詳しい安田教育研究所の安田理代表は「最近、わが子に合った学校へという志向が出てきた。これからはカリキュラムの中身に注目が集まる」とみる。
単位制をとらない全日制普通科の学校でも、中身は変わる。
学校が荒れ、中退率が3割に迫った東京都立足立東高は来年度からのカリキュラムに「勝負」をかける。教室での授業は午前中。午後は企業などでの実習だ。数学の時間に小5レベルの算数をする授業も予定する。
見直しのきっかけは、「万年困難校」と呼ばれた近隣高の変身ぶりだった。体育でゴルフを採り入れ、資格を目指す福祉の授業や、専門学校と提携したパソコン研修を始め、推薦入試の倍率は5倍まで伸びた。
足立東の嶋英樹校長は改革にのぞむ思いを語る。「生徒のニーズに応じて教える努力をしない学校は簡単に転落する」
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