2002/08/02 朝日新聞朝刊
「質」論議百出、議員も悩む(ニッポンの学力 転機の教育:12)
自民党森派が全国各地で開催する「教育問題タウンミーティング」。6月初旬、宮崎市の県立芸術劇場を埋めた約1千人に「教育勅語」が配られた。教育基本法改正を訴えるための会合だが、森喜朗前首相は学力低下論への反論から始めた。
森氏が文相になったのは83年。「当時を思い出してください。受験地獄、入試難、浪人。『こんな厳しいことでいいのか』と質問された。そこで文部省の尻をたたいてやらせたのが、今回の学習指導要領の改訂です」
だが、異論は足元にもある。森派58議員が教育論を寄せた本が5月に出版された。
「着手すべきは、ゆとり教育の見直しだ」(世耕弘成参院議員)。「週5日制は日本の教育を今以上ダメにする」(御法川英文代議士)。文教族以外の議員は、批判を浴びせた。
自民党は、終戦直後に制定された憲法と教育基本法の改正を掲げる。その「旗印」で束ねられた議員たちも学力問題という教育の「質」を巡る論議ではばらつく。
民主党も悩む。中津川博郷代議士の議員会館事務所を4月、女性グループの12人が訪ねた。
「働く女性の支援策」が本題だったが、話は学力問題に。代表の小林裕子さんは今春まで都内の公立小学校のPTA副会長。「週5日制による、教育サービスの低下が考えられていない」
塾講師出身の中津川氏も「ゆとり教育は愚民政策になる」と応じた。
だが、同じ民主党の鈴木寛参院議員は「学力低下の証拠はない」。旧通産省出身。教育関係の著書もあり、慶応大湘南藤沢キャンパスの教壇に立ったこともある。「暗記力や知識ばかり身に着けても仕方ない。東大から一流銀行に入っても破綻(はたん)するかもしれない」と説く。
民主党は7月17日、学力問題に関する提言を発表した。中津川、鈴木両氏らも加わり、2カ月間かかった。「ゆとりで生じた時間はテレビの時間に置き換わっている」などとする一方で、「詰め込みに戻せばいい、という単純な話でもない」。
結びに答えはない。「教育問題に万能のセオリーはありません。真に望ましい教育とはという問いは実に難問です」
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