2002/07/24 朝日新聞朝刊
データで訴えた「低下論」(ニッポンの学力 転機の教育:4)
22日夜、慶応大教授の戸瀬信之さん(43)はテレビ朝日「たけしのTVタックル」に出演、学力低下がどんなに深刻か、熱っぽく話した。
3年前、京大教授の西村和雄さん(55)らと3人で「分数ができない大学生」を出版し、学力低下問題を訴えてきた。以来テレビで取り上げられたのは2人で約40回を数える。
スポーツ紙からニューヨーク・タイムズまで、時間が許す限りマスコミの取材に応じた。
〈講義が分からぬ大学生〉〈頭脳劣化の日本人〉。2人の言葉は、そんな見出しの記事として広がった。
各地の大学で、数学力の低下がささやかれるようになったのは20年も前だ。こうした実態は大学外ではほとんど顧みられなかった。
経済学部で入学試験に数学を課さない大学で著しくなった。経済学部で数学を教える戸瀬さんも、基礎的な計算ができない学生に手を焼くようになった。
1/6÷7/5=
〓3×〓27=
そんな問題を並べ、98年から大学生の学力調査をした。小中学生用の問題を大学生に解かせて、結果を世に問おうと思い立った。広く理解してもらいたかったからだ。
出版社の反応は鈍かったが、なんとか話がついた東洋経済新報社から、「できない大学生」シリーズ3冊を刊行した。
売れ行きは計5万5千部。それほど多くはないが、調査結果は「学力低下」を示す根拠として、教育界のみならず政財界でも繰り返し引用されるようになった。
静かな驚きと確かな手ごたえを感じた。西村さんは「あいまいな説明を繰り返す文部科学省に比べ、データに基づいて訴えたのが効いたと思う」と振り返る。
大学生がだめなのに、新学習指導要領で、学習内容を3割も減らしたらどうなるのか……。小中学生の「学力低下」へと不安は広がった。
今年1月17日。遠山敦子文科相は異例の「学びのすすめ」を発表した。教育現場は「ゆとり路線」の転換と受け止めた。
2人が成果を実感したのはそのときだ。「新指導要領に縛られまいとする動きは、もう止まらない」と西村さんはみる。
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