2002/04/06 朝日新聞朝刊
脱「日本型」 答えは一つじゃない(転機の教育:1)
通信制を母体に7年前に発足した大阪府立桃谷高校(大阪市)の定時制昼間部の先生たちは驚いている。
もともとは不登校気味や、全日制では合格が難しい生徒が入学していた。ところが、府立の進学校や、校則が厳格な私立校から転編入する生徒が増え、志願者倍率は3年連続で2倍を超えた。今や全日制の中堅校より難関だ。
単位制を取り、カリキュラムの自由度が高い。修学旅行や始業式などの特別活動も一定以上出ればいい。秋の入学、卒業もできる。生徒の意欲は高い。定時制は通常4年だが、9割以上が3年で卒業していく。
麻生敬士さん(18)は高1の半ばで編入して来て2年半。
「ほかの学校は、勉強かスポーツかで身分が決まる階級社会。ここはそんなこと気にせず、やりたいことをやれる」
車いすで通う大西達也さん(16)は「いろんな人がいてるって、本当に面白い」と言う。
先月末の終業式。講堂の座席は3分の1しか埋まらなかった。深野康久校長は「よく集まったほうです」と言った。
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同じことを、同じように、同じだけ学ぶ日本の教育システムから抜け出す現象は別のところでも見える。
全国に20校以上あり、外国企業の駐日社員や外交官らの子どもたちを受け入れるインターナショナルスクールが注目されている。
東京都港区にある「西町インターナショナルスクール」では、幼稚園児から中3にあたる9年生まで10学年、約420人が学ぶ。授業はすべて英語だ。
義務教育の学校としては認められておらず、学習指導要領からは外れている。各種学校という位置づけだが、日本人も含め、年500件以上の問い合わせがある。日本国籍の子たちも2割いる。親は義務教育よりこちらを選び、子の多くは海外の高校や大学に飛び出していく。
小3の「言語」の授業では、男の子が自分で作った物語を発表していた。評価をするのは子どもたち自身だ。「表現力はどうか」「相手の目を見て話しているか」など6項目について意見を書き込んでいく。
マサチューセッツ州のフィリップス・アカデミーに在籍する日米二重国籍のアン・トーマスさん(18)は西町の卒業生だ。「学ぶって考える力を養うことだと思う。西町は、学ぶ力をつけてくれた」
「法的な資格をきちんと与えるべきだ」。国際性に目をつけた財界からこんな声が出ている。経団連人材育成委員会は2月、関係者のヒアリングを始めた。
「日本型」でない教育への注目は、裏を返せば日本がいま必要としている教育のように映る。
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神奈川県立外語短大付属高校(横浜市)からは毎年、約150人の卒業生のうち10人弱が海外の大学に進学する。海外体験がなかった生徒も少なくない。5年ほど前からの現象だ。
トロント大学で経済学を学ぶ高橋由加梨さん(19)は高2で1年間、カナダに留学したとき、驚いた。授業のやり方はまるで違った。質問が飛び交い、ロシアのチェチェン紛争の調べ学習だけで1カ月を費やした。
「問題の答えは一つじゃない」ことに気づいたことが動機になった。
毎年、東京大学に50人前後が合格する中高一貫の男子私立校、栄光学園(神奈川県鎌倉市)。ここからも、ここ数年は毎年1、2人が米英の大学に進む。
どれだけの高校生が直接海外の大学を目指すのか、はっきりした統計はない。しかし、両校とも同じ見方をする。「急増するとは思えないが、定着した流れだ」
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新学期から始まった「ゆとり教育」が議論を呼ぶ。そこに子ども、学校、社会の変容がのぞく。動きは急だ。自己責任、第三者による学校評価。「学力低下」論の台頭。教育行政の揺れ、規制緩和。学校での民間活用。意欲がない若者。国際競争力を意識する大学……。転機に来ている日本の学校教育を考える。
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