2002/02/04 朝日新聞朝刊
巻き返す公立 受験重視加速(攻防02年 学力はいま:中)
広島県呉市の県立呉三津田高校の「0時限」は午前7時半に始まる。
「センター試験に出たよね」「この句型のパターンは覚えといてね」
1月下旬、視聴覚教室で1年生約70人に漢文を教えていた小路口(しょうじぐち)真理美教諭(43)の口から受験を意識した言葉が次々に飛び出す。
「0時限」は、放課後の「7時限」とともに45分間の補習だ。学年ごとにほぼ毎日。教科書を超えた内容も教える。自由参加だが、生徒の半数が出席する科目もある。
補習は以前からあったが、2年前と比べて倍増した。大きく落ち込んだ大学への進学実績を少しでも回復させるためだ。
■
「学力を身につけることは県民の願い」
「悲惨な状況だ」
「他県以上に深刻に受け止める必要がある」
10年ほど前から広島県議会では、県立高校の「学力低下」を指摘、対策を求める質問が相次いだ。根拠は大学入試センター試験の都道府県別の成績が40位前後という受験産業のデータだ。
広島での県立校の「地盤沈下」は学校間格差などを防ぐための入学試験制度導入で、競争意識が薄れたことが大きな原因とされる。
議会で教育長は「教科学力を最大限に伸ばす取り組みが必ずしも十分ではなかった」と認めた。県教委は入試方式を変え、00年以降は呉三津田を含む21校を学力向上対策重点校に指定した。
呉三津田は、ここ数年10人台だった広島大の合格者が昨年25人に、旧帝大の合格者も一昨年の2人が9人になった。県教委は「県立校の学力アップをリードしている」と評価する。
4月から完全週休2日制になっても、授業時数を減らさないため、週3回は7時限授業にする。今度は補習時間の確保が悩みだ。
■
90年代後半、「学力低下」論は大学生から火がつき、小中学生までのみこもうとしている。各地の教委に、公立離れへの懸念が広がっている。
週休2日に、北海道立札幌北高校は「土曜補習」で対応する。
北海道は、私立高校長が「私立は公立の滑り止めに甘んじている」と認めざるを得ないほどの「公立王国」。札幌北は昨年、国公立大に浪人を含め316人が合格した。それでも週休2日で「学力が低下するのでは」との不安は強い。
昨年10月の保護者400人に対するアンケートでは、7割が週5日制への対策を求めた。土曜補習の指導は教員がボランティアでやることになった。「授業数が減るから仕方なくではなく、生徒のために前向きにやろう」
津市の三重県立津西高は3年生の担任教員の職員室を独立させ、生徒の質問にいつでも対応する。近隣の伝統校を意識しての動きだ。
■
公立高の学力面での対策は、東京都も力を入れる。昨年、都立高4校を進学指導重点校に指定した。都教委幹部は言う。
「かつての画一教育は個性を伸ばさず、学力低下も招いた」
その反省から、特色ある学校づくりを進めた。総合学科や単位制の昼間定時制高だ。進学指導も、そんな特色の一つと位置づける。
大阪では、九つある学区で府立のトップ校の進学実績は私立に引けを取らない。だが府教委は新年度、さらに学力と幅広い教養をめざして重点校指定に乗り出す。
「受験偏重」の独り歩きを警戒する声は根強いが、府教委幹部はこう割り切る。「目指す大学に行ける学力を府立高でつけられるようにするのは、ニーズの一つだ」
*
学力について、ご意見、体験談をお寄せ下さい。
〒104・8011
朝日新聞東京社会部教育班、
FAX03・3542・4855
電子メールは、syakai4@ed.asahi.com
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。
|