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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2001/05/03 朝日新聞朝刊
「改憲へ弾み」狙いか 教育基本法改定論の源流
 
 憲法の理念に基づいて作られた教育基本法が、揺さぶられている。小泉純一郎首相が「首相公選論」を掲げて登場し、7日の所信表明演説で基本法改定を打ち出す。国政の場で改憲論が勢いづく中、憲法改定の前哨戦の様相を呈している。基本法改定論の背景は何か――。きょう3日は、施行54周年の憲法記念日。(豊秀一、本田雅和)
 
●国民会議発足、「伝統尊重」の声 委員人選は政治主導で
 「連合国軍総司令部(GHQ)の手で教育基本法の草案にあった『伝統の尊重』などが削られたため、伝統軽視の風潮が助長された」
 昨年9月18日午前、首相官邸。
 「新しい教育基本法を求める会」会長の西沢潤一・岩手県立大学長らが要望書を手に、森喜朗前首相を訪ね、「伝統の尊重と愛国心の育成」「道徳教育の強化」「国家と地域への奉仕」などを新たな教育基本法に盛り込んでほしいと訴えた。
 「教育改革国民会議での議論を待たねばならないが、基本法は私が責任をもって変えるので民間から応援してほしい」
 森前首相はそう応じたという。
 同席したのは、日本の戦争責任を問う立場を「自虐史観」と批判する「新しい歴史教科書をつくる会」の西尾幹二・電気通信大教授や高橋史朗・明星大教授、石井公一郎・元ブリヂストンサイクル社長、長谷川三千子・埼玉大教授ら。
 「求める会」事務局長でもある高橋氏は「基本法改正を目指す人たちが大同団結しようということになり、8月末に立ち上げた」と説明する。
 賛同者に漫画家の小林よしのり氏や歌手の故三波春夫氏をはじめ、財界や教育関係者など計200人以上が名を連ねる。
 申し入れの4日後。国民会議は中間報告を発表して「基本法見直しに国民的議論を」と呼びかけた。
 戦後、断続的に繰り返されてきた基本法改定の試みが、大きく本格的に動き出そうとしていた。
 
 ■
 
 国民会議の構想が立ち上がる前の98年夏。「求める会」の代表役員の1人で、外交・文教政策に関して歴代首相の「ご意見番」ともいわれる末次一郎氏が、就任間もない小渕恵三元首相を訪ねた。
 「教育基本法に手をつけられなかった臨時教育審議会を反面教師にすべきだ。人事が大切だ」
 基本法改定を強く訴えた末次氏に、小渕氏は理解を示したという。
 末次氏は今、「基本法も憲法も伝統を重んじることを忘れている。まず改正しやすい教育基本法から国民的議論を起こすべきだ」と語る。
 末次氏が「失敗」とみる臨教審は84年、「戦後政治の総決算」を掲げて登場した中曽根康弘元首相が発足させた。「憲法と同じで、日本解体の政策の所産だ」と基本法改定を狙ったが、果たせなかった。
 中曽根氏は近著の中で悔やんでいる。
 「人事の失敗が臨教審が中途半端に終わった大きな原因だ。教育改革国民会議はその轍(てつ)を踏むな」
 
 ■
 
 昨年3月、国民会議は首相の私的諮問機関となり、基本法改定は臨教審以来、本格的な政治日程に上ることになる。
 その1カ月前。憲法とともに基本法改定を唱えてきた勝田吉太郎・鈴鹿国際大学長の元に小渕元首相から電話が入った。
 「教育改革を断行するために、ぜひ協力していただけませんか」
 学長業務の多忙を理由にいったん断ると、数日後には町村信孝・首相補佐官(当時)から「先生、何とかお願いします」と依頼があった。
 国民会議の委員26人の人選は、強力な政治主導で行われていった。
 文部科学省幹部は「100人以上の候補者の中からリストアップして、官邸が選んでいった。我々はバランス的に必要だと思う委員を推薦した程度だ」と振り返る。
 
●森前首相になり「強引さ」増す 「国家主義」に懸念も
 昨年3月27日の国民会議第1回会合。森派の町村氏が「基本法のご議論もいただけるのでは」と発言し、基本法改定を審議テーマに乗せた。
 小渕氏が4月に倒れ、森氏に首相が交代した。
 5月11日の第4回会合で森前首相は「基本法を見直すことが必要。我が国の文化や伝統を尊重する気持ちを養う観点などから、根本的議論をお願いしたい」と求めた。
 委員の1人は「森首相になり、政治力で基本法改正に引っ張っていこうとする空気を強く感じた」とうち明ける。
 9月の中間報告を経て、昨年12月には基本法見直しを盛り込んだ最終報告がまとめられた。
 基本法改定に反対した東大教育学部長の藤田英典氏は「基本法は21世紀を展望しても十分に通用する高まいな理念を掲げているが、各委員が持論や感想を述べ合うだけでしかなかった」と振り返った。
 もっとも、最終報告のとりまとめにあたっては、改定賛成派の委員の中からも、国家主義的な動きを危ぐする声があがり、「基本法改正議論が国家至上主義的考え方や全体主義的なものになってはならない」との歯止めが加わった。
 
 ■
 
 静かな流れだった基本法改定論議は、国民会議を契機に急流へと勢いを増しつつある。
 国会では「押しつけ憲法論」を主張する声はほぼ影を潜めた。が、基本法論議では「GHQの強い指導のもとにつくられた」(求める会の要望書)など、その「生い立ち」への「こだわり」が強く残る。
 しかし、制定過程に詳しい佐藤秀夫・日大教授はこう反論する。「法文の細部まで内閣に作られた教育刷新委員会に全面的にゆだねられ、戦後初めて日本人が主体的に作った教育法だ」
 基本法改定の動きは、国旗・国歌法制定や憲法調査会の設置などの動きとも連なる。
 藤田氏は「基本法は憲法の理念に基づき、その『理想の実現』を前文でうたっているが、改憲論議とは違って、現実との矛盾などが問題化しているわけではない。国家主義的なムードの高まりの中で、まず基本法の理念をゆがめ、改憲に弾みをつけようという狙いがあるのでは」と懸念する。
 文科省は基本法の見直しを中央教育審議会に諮問する方針を決めている。


 
 
 
 
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