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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/12/09 朝日新聞朝刊
奉仕義務化に利用された体験学習(教育改革国民会議を考える:下)
 
 青いジャージー姿の男子中学生四人が、スコップやすきでシラカシの木を掘り起こす。腰が引け、いかにも慣れない手つきだ。
 「もっと木を大事に扱わんかい」。指導役の造園会社社長平井隆彦さん(七一)は何度も大声を上げた。「このおっちゃん、口うるさいわあ」とぼやきながら、生徒たちはなんとか移植して生け垣をつくった。
 大阪湾を望む神戸市垂水区。市立塩屋中学校の二年生約二百人は四日から五日間、「トライやるウイーク」に取り組んだ。職業体験などを通じて、社会に触れるのがねらい。スーパーや幼稚園など七十一カ所が協力した。生徒はその中から希望の職種を選び、五日間体験する。シラカシ移植もその一例だ。
 生徒たちに煙たがられた平井さんだが、二年前に受け入れた生徒の作文を大事に持っている。
 《一から教えてくださいました。でも十まではおっしゃいません。見よう見まねで必死に覚える。これが社会の常識なのでしょう》
 「かわいいこと書いてありますやろ」。平井さんは目じりを下げた。
 
●自主性と強制
 「奉仕活動の義務化もいい。兵庫県でトライやるウイークという取り組みをしていて、不登校の子どもが参加したら直った」
 六日、内閣改造で文部省の総括政務次官に就いた河村建夫代議士(自民)は、早速「奉仕活動の義務化」に前向きな姿勢を示した。
 故小渕恵三前首相がつくり、森喜朗首相が引き継いだ教育改革国民会議は、当初からこれを改革の目玉に掲げる。その審議で「トライやる」が話題になった。
 「正直言って迷惑」と兵庫県教委の担当者は言う。「なぜならトライやるウイークは奉仕活動ではない。義務でもないのだから」
 神戸市で連続児童殺傷事件が起きた一九九七年、兵庫県教委などは「心の教育緊急会議」を設け、同会議は長期体験学習の導入を提言。「トライやる」はその翌年に始まった。県内の全市町立中学校が取り組む。期間中は授業が休みになり、不登校の子も半数が参加している。「全員参加」は確かにほぼ実現した。
 だが、あくまで生徒の自主性を尊重する活動だ。職業体験を採り入れる例が大半で、「奉仕」といえる例はほとんどない。
 一方、国民会議の案は子どもたちに「共同生活」させながら、農作業などに嫌でもつかせるものだ。
 首相官邸のホームページで公開されている国民会議議事録によると、「トライやる」を引き合いに出して奉仕の義務化に賛同したのは梶田叡一委員。兵庫県の「心の教育緊急会議」の一員だった。同じく緊急会議座長だった河合隼雄委員が国民会議で「あれは奉仕ではなくて社会体験」と指摘すると、「(検討している奉仕活動は)単なる社会的活動ではなく、『人のために』ということが大切だ」と説明した。
 「うまく利用された」。兵庫県教委は国民会議に資料を提供した。担当者は今さらながら悔やんでいる。
 
●ボランティア
 「奉仕」はボランティアとは違うと国民会議は言う。それでもボランティア活動関係者の間では反対論が強い。
 バングラデシュで住民の生活支援をしている非政府組織「シャプラニール」の事務局長、下沢嶽さん(四二)は「私たちもかつては、ボランティアを奉仕と呼んでいたから」と話す。
 下沢さんは約十五年前、東京で、夏休みにボランティア活動をあっせんする活動に携わっていた。
 ある年、学校の先生がボランティア活動を夏休みの宿題に出した。福祉作業所などに受け入れてもらったとたん、事務所の電話が鳴りだした。
 「何人かの子が無断で休んだ」「お年寄りに心ない言葉を投げつけた」といった苦情ばかりだった。
 「同じことが起きる」と下沢さんは心配する。
 
●「思いつき」集
 教育改革国民会議の委員は二十六人いる。四回の全体会議のあと(1)人間性(2)学校教育(3)創造性の三分科会に分かれて各六−七回の会議を持ち、分科会報告を作った。それを持ち寄り形を整えたのが、九月に公表された中間報告「教育を変える十七の提案」だ。
 これをたたき台に、二十二日には最終報告を出す。
 だが、「各委員の思いつきを集めただけ。床屋談議のレベルだ」といった声が当の委員らから漏れる。
 議事録から浮かび上がるのは、「人間性」を論じた第一分科会に所属する委員の突出ぶりだ。
 例えば「人間は放っておくと野生化、野獣化する」「学校の機能は、飼いならす、たたき直すこと」(山折哲雄委員)といった子ども観、学校観が繰り返し表明された。そこから「満十八歳で国民を奉仕役に動員することです」(曽野綾子委員)となり、「奉仕」を「兵役」になぞらえる発言や、教育勅語を連想させる発言が笑いを誘った。
 子どもの問題行動に対しては、「なんで警察のOBを学校に入れないのか」(曽野委員)などと語られ、「集団生活になじめない子は、一年入学を待ってもらう」「生徒を排除する義務を校長に」(河上亮一委員)という提案に勢いがついた。
 戦後教育についても「全体とか協調、他人に対する感謝を忘れ、個人だけが、しかも独善的な形で突出するようなことを生んでしまった」(梶田委員)という見方が支配的になった。
 「第一分科会はどうしちゃったのかね」。別の分科会の委員たちは、そんな会話を交わしていた。全体会議では奉仕活動の義務化などについて異論が噴出したが、第一分科会の委員らがほぼ押し切った。
 この間、第二分科会は小中学校改革、第三分科会は大学・大学院の改革などをもっぱら話し合ってきた。「第二、第三分科会が、子どものために学校や社会を改善しようという発想だとすれば、第一分科会は学校に合わない子を無理やり押さえつけようという発想」と委員の一人は指摘する。
 学校評価や親子による学校選択、さらには「義務教育」をどうとらえるかといったテーマは、今後の教育を左右する問題だ。だが、第一分科会の論議を前にすっかりかすんでしまった。(吉沢龍彦、山田裕紀)


 
 
 
 
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