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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/12/08 朝日新聞朝刊
改正なぜ今、消えぬ不信(教育改革国民会議を考える:上)
 
 首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」の審議が二十二日の最終答申を前に大詰めを迎えた。「個性重視」を一つの基調にしながら、教育基本法見直しや奉仕活動の義務化の議論では、逆に戦後教育の中で「全体への感謝を忘れ、個人だけが独善的に突出した」といった発想や、政治的な思惑も垣間見える。いったん法律や制度ができると、実際の教育現場には想定外の影響を招くこともある。審議の流れを振り返り、問題点を考える。
 (山田裕紀、吉沢龍彦)
 
●一致してない
 教育改革国民会議は九月六日、教育基本法について集中的に議論した。
 「何回読み返しても、なぜ、どこを変えなければいけないのか理解できない」(浜田広委員)
 「法律を変えれば現場が変わるとは思わない」(河上亮一委員)
 オブザーバーの山下栄一参院議員(公明)も「教育の目的、理念は人間観にかかわる問題で法律で決めることになじまない。(やがて国会で)党派性のある国会議員が審議するのは警戒すべきこと」と述べた。
 こうした消極論、懐疑論に対し、積極派はとうとうと自説を述べたてた。
 「そろそろ敗戦ショックの呪縛(じゅばく)から逃れなければいけない」(梶田叡一委員)
 「この法では祖国観念は涵養(かんよう)できません」(勝田吉太郎委員)
 翌七日の一部新聞には一面に、「教育基本法改正で一致」という見出しの記事が載った。
 国民会議は非公開で行われている。毎回終了後に江崎玲於奈座長と中曽根弘文首相補佐官が記者会見し、議論の内容を説明する。
 六日の会見で、中曽根氏は「見直しで一致した」「反対される方は一人もいなかった」と説明。記事はこうした発言に基づいて書かれた。
 報道に驚いたのは、会議に参加した当の委員たちだった。「一致などしていない」と抗議を受け、十三日の会議では事務方が「議論が正確に報道されず、誠に残念に存じております」と陳謝した。
 それでも、委員の不満は納まらなかった。「ゴールが改正で決められている気がした」「小渕(故前首相)さんに頼まれたからやっている。森(喜朗)首相に利用されたくない」
 結局、九月二十二日に公表された中間報告では、原案にあった「個人や普遍的な人類が強調されすぎ、国家や郷土、伝統、文化の尊重が抜け落ちている」などの具体的意見をそっくり削除。「国民的議論が必要」という表現に抑えた。
 教育基本法については、憲法と同様に、「占領軍の干渉下で作られた」などと古くから自民党など保守政党には改正論があった。
 一九五一年に当時の天野貞祐文相が、教育勅語にかわる国民道徳の指針として「国民実践要領」大綱を発表し、批判を浴びて撤回。五六年には清瀬一郎文相が教育基本法について「日本国に対する忠誠、家族内の恩愛の感情が入っていない」と国会で答弁した。
 そして、今年四月の国民会議。森首相は「思いやり、奉仕の精神、文化伝統を尊重する気持ちなど日本人として持つべき豊かな心、倫理観、道徳観をはぐくむことが必要」と教育基本法の見直しも求めた。さらに五月、「教育勅語には時代を超えて普遍的な哲学がある」などと発言した。
 確かに社会情勢は半世紀で変わった。だが、今の見直し論も、制定直後からあった改正論と重なる。
 国民会議の中からは「一般には教育基本法で何かが変わるとは思われていない」という意見も出た。そんな議論で済ませていいのだろうか。
 
●削られた作文
 法律が自治体や学校におろされる中で、その趣旨が曲解されたり増幅されたりすることもある。
 長野市内の中学校。今年三月の卒業式前日、三年生の学年通信が配られた。その中の「私の夢」という自分の作文を見て、女子生徒(一五)は言葉を失った。行数が半分に減っていたのだ。
 《自分で、おかしいと思ったこと、こうあるべきだと思うことなどを自分の行動を持って訴えることのできる人間になりたいと思っています。(略)卒業式は、私が目指す自分への第一歩にしたいと思っています》
 その後、こんな文が続くはずだった。
 《君が代斉唱の時に着席しようと思っています。(略)日の丸、君が代は戦争の象徴として扱われたということを勉強しました。(略)国歌であっても実際に歌うか歌わないかは個人の自由のはず》
 二十一字詰めで十四行分がそっくり削除され、余白にイラストが載っていた。
 女子生徒は先生に理由をただす気にはなれなかった。ものを言わせぬ圧力を感じて怖かったという。
 作文を書くクラス代表に指名したのは担任の先生だった。印刷する前こう言われた。
 「スペースの都合で削るけど趣旨は変えないから」
 式では生徒五人ほどが座った。「座らなければ、その後ずっとものが言えなくなると思った」という。
 国旗・国歌法が制定されたのは昨年八月。尊重を求める項目はなく、「国旗は日の丸、国歌は君が代」とだけ定めた法律だ。国会審議の中で故小渕恵三前首相ら政府側は、「学校の指導に変化はない」とか「児童生徒の内心に立ち入って強制はしない」と繰り返し説明した。
 だが、制定から半年後の卒業式。学校現場は明らかに変わった。
 広島県安浦町の沖田範彦町長は、国旗・国歌法ができて日の丸掲揚、君が代斉唱を「皆さんも守る義務があります」などと、町立中学の卒業生や在校生計約四百三十人に手紙を郵送した。東京都国立市の小学校では、卒業式にリボンを着けて出席したというだけの理由で教員七人が処分された。
 教育改革国民会議の中で、教育基本法の改正に積極的な委員は「個人ばかり尊重され、民族の歴史、文化、伝統の継承、高揚の規定がない」などと繰り返す。
 作文の女子生徒は言う。「いじめも少年事件も法律とは関係ない。なぜ教育基本法を変えなければいけないんだろう」
 
◇教育基本法(抜粋、前文略)
 第1条(教育の目的) 教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充(み)ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
 第2条(教育の方針) 教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成するためには、学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。
 第3条(教育の機会均等) すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又(また)は門地によって、教育上差別されない。(略)
 第4条(義務教育) 国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。
 第5条(男女共学) (略)
 第6条(学校教育) 法律に定める学校は、公の性質をもつものであって、国又は地方公共団体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。(略)
 第7条(社会教育) 家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によって奨励されなければならない。(略)
 第8条(政治教育) (略)
 第9条(宗教教育) 宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。(略)
 第10条(教育行政) 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。(略)
 第11条(補則) (略)
 
 <教育基本法> 1947年、教育の基本的な理念を示す法として制定。天皇の名で「義勇奉公」「忠孝」など理念、道徳を示した教育勅語(1890年発布)が戦時体制を支える役割を果たした反省から生まれた。前文で日本国憲法の精神にのっとり、民主的で世界平和に貢献できる国家建設や個人の尊厳の尊重などをうたっている。


 
 
 
 
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