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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/06/19 朝日新聞朝刊
教育 少年事件に続き教育勅語(針路をえらぶ 2000年総選挙)
 
 五月に起きた西鉄高速バス乗っ取り事件の約一カ月前。被疑少年(一七)の母親は、精神科医に手紙で不安を訴えた。
 「いじめが原因で中学三年の夏ごろより荒れ始め、まるっきり違う人格のようになり……」
 少年は中学三年の夏、カッターナイフで制服を切られた。三学期には同級生らにからかわれ、階段の踊り場から飛び降りて大けがをした。高校には九日間通っただけで行かなくなり、自宅に引きこもった。
 〈だれか僕を止めてください〉〈もう死ぬのか、人を殺すのか〉。少年の部屋でこんなメモを見つけ、両親は息子を入院させた。
 いじめをきっかけに不登校になる。高校を中退する。今ではどの学校でも日常的に起こりうることだ。
 「いい高校、いい大学、いい会社に行くため、といわれて勉強しても、会社の部品になって死ぬだけ」。少年事件について東京都立高校で作文を書かせると、こんな感想がいくつもあった。多くの子どもが閉そく感を抱き、いじめや暴力で学校が荒れる。
 事件の衝撃も冷めやらぬころ、森喜朗首相が持ち出したのが戦前の教育勅語だった。教育改革を最重点課題に掲げる首相の発言に、教育関係者は耳を疑った。
 
○「21世紀の教育」描けず
 バス乗っ取り事件から約一週間後の首相官邸。首相の諮問機関「教育改革国民会議」の会合で、事件に対する緊急アピールが議題にのぼった。
 「スクールカウンセラーや相談スタッフを全校に配置する」
 「学校は規範意識を育てる教育に真剣に取り組む」
 「家庭では、いけないことは厳しくしかり、しっかりと指導する」
 事務方が用意した文案にはこんな具体策も並んだ。座長の江崎玲於奈・芝浦工大学長が意見を求めると、委員らから異論が出た。
 「『善悪をわきまえる』ことをどう教えるかが問われている。じゅ文のように唱えても意味はない」
 「規範意識を育てると言っても、生徒に教師を受け入れる素地がない」
 「こうすれば解決するというような簡単なものではない」
 発表されたアピールから具体策は消えていた。
 一九九七年に神戸市で起きた連続児童殺傷事件の後にも同じような議論が起きた。文部省は「心の教育」を唱え、カウンセラーを全国約千五百校に置いた。中央教育審議会は「一日一回は家族全員で食事をする」「二十四時間電話相談を受ける」などを提言した。
 その後も、少年による凶悪事件が続いた。手詰まりの状態に、多くの政党が厳罰化の方向で少年法改正を言い出した。しかし、事件の根は別の所にあるのではないかという指摘も多い。
 今の学校教育は、「個性重視」「自由化」を基調にしている。八七年の臨時教育審議会答申を受けて、「知識詰め込み」「平等主義」の反省から針路転換をはかった。
 だが、皮肉にも、それと歩調を合わせるように、不登校、高校中退が増加した。中学生の多くは、内申書を盾に学校生活すべてを教師に評価される息苦しさを訴える。
 森喜朗首相は、教育改革国民会議を故・小渕恵三前首相から引き継ぎ、教育基本法も含めた根本的な戦後教育の見直しを諮問。「日本人として持つべき豊かな心、倫理観、道徳心をはぐくむことが必要」と強調した。自由、保守党も「道徳教育の充実」に同調している。
 だが、その教育改革国民会議の中でさえ「豊かな社会で子どもが我慢を知らないと嘆いても仕方ない。貧しい時代に後戻りはできない」などの意見がある。
 一方で、文部省は五月、学級崩壊の対策などを目指して、「四十人学級」の原則を緩める方針を決めた。ただ、全国一律に学級人数の上限を三十人にすることには、教員十二万人、年間一兆円の予算が必要になると消極的だ。野党側は、人数を減らせば、子ども一人ひとりに目を配りやすいと主張している。
 各政党とも一様に教育改革の必要性を訴える。しかし、教育現場がいま強く求めているのは、選挙向けの理念的なスローガンではなく、社会の変化に合った具体的な政策だ。教育は二十一世紀の日本の基盤を形作るものであり、選挙はその針路を決める重要な機会でもある。
 (社会部・山田裕紀 村上宣雄)
 
○基本法改正「愛国心」目立つ違い
 教育基本法は、教育勅語に代わる日本の新しい教育理念として一九四七年に公布された。「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期する」などの前文を掲げる、教育の「憲法」とも言われる存在だ。同法をめぐっては、「日本に民主主義を根付かせた」という高い評価がある一方で、「個人主義を過度に進めた」などの批判も一部で繰り返されてきた。
 教育基本法の見直しについて、近年はタブー視する向きは少なくなっている。不登校やいじめといった問題のほか、少年による凶悪犯罪が目立っていることなどが背景にあるようだ。ただし、理念法である同法に手を加えても学校現場での実効性はない、という意見も根強い。
 アンケートでは、「愛国心」「道徳心」といった視点を盛り込む形での法改正に意見が分かれた。保守、自由の両党は積極的で、自民も前向きだが、公明は党内議論が定まっていないとしている。民主は愛国心などのテーマだけを議論することに反対している。共産、社民は明確に反対した。
 アンケートは、厳罰化の方向での少年法改正の是非などもたずねたが、自民、保守、自由の三党は刑事罰の適用年齢の引き下げに積極的な姿勢を示した。少年犯罪に対して、社会全体の教育機能を高めることで対応する、という点は各党が共通している。
 
◇教育改革 主要7政党アンケート
 教育基本法を改正し、「愛国心」や「道徳心」の養成を明文化すべきだという議論があります。これについての賛否と、その理由をお聞かせください。
◆自民
 教育全般について様々な問題が生じている今日、教育のあるべき姿について抜本的な議論を行う中で、教育基本法の見直しについても幅広く大いに議論し、検討していくことが必要だ
◆民主
 教育の諸問題を話し合い、改革案を提示する中で、教育基本法の改正が取り扱われるべきである。突出して「愛国心」や「道徳心」の養成のみを挙げて改正を議論することは危険である
◆公明
 改正すべきか守るべきかは党内で検討中。教育基本法が非常に優れた基本法であることは間違いないが、一方で現状にそぐわないところがあることも事実。極端な右傾化を想起させる議論もある。慎重に議論を重ねて結論を出す
◆共産
 改正論は、森首相の「教育勅語」復活発言にみられるように、憲法への逆行とむすびついており、反対。「個人の尊厳」「真理と平和を希求」「人格の完成」など、現行基本法の精神を生かすことこそ重要
◆保守
 賛成。今日の教育には、心を育てる人間教育が欠けている。教育基本法を見直し、家庭教育の充実や道徳教育の充実を図り、日本人としての自覚と責任を持ち、国際的にも尊敬される青少年を育てる教育を進める
◆自由
 教育基本法を見直し、日本人の伝統的な資質や文化をはぐくみ、「よき日本人」を育てる。現在市町村が行っている義務教育は国が責任をもって行うこととし、毎週土曜日は家族で道徳や集団生活のルールを学ぶ日とする
◆社民
 教育基本法は、戦前への深い反省から制定された法律であり、愛国心・道徳心養成を明文化する改正には反対。「学級規模の20人化」など、子どもたちにやさしい学校教育現場をつくることを、教育改革で最優先する


 
 
 
 
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