日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998/05/05 朝日新聞朝刊
「普通の子」なんていない 「こどもの日に」(社説)
 
 上の雪
 さむかろな。
 つめたい月がさしていて。
 下の雪
 重かろな。
 何百人ものせていて。
 中の雪
 さみしかろな。
 空も地面(じべた)もみえないで。
 よく知られた金子みすゞの童謡だ。
 いまの子供たちの状況をそのまま映しているかのようだ。成績の良い子は受験競争の不安に。学力不足の子は置いていかれるつらさに。その間にいる子は目を向けてもらえないさびしさに。それぞれがストレスをためている、と。
 そして、子供が荒れ始めた。「学級崩壊」と呼ばれる事態が、あちらでも、こちらでも起きている。
 児童、生徒が授業中、大声を出して授業を妨害する。「ムカつく」「キレた」と教室を勝手に出ていってしまう。「てめえ、うるせえんだよ」と先生に殴りかかる。どんな子も荒れと隣り合わせにいる。
 今年一月には、栃木県で中学一年生が、注意をした教諭をナイフで刺し殺す事件が起きた。「普通の子が、突然キレた」といわれ、注目された。
 「普通の子というのはいない。一人ひとりの子がいるだけだ。事件の子は目立たない生徒だったともいわれるが、それは先生に見られていなかった子なんです」
 山形県の元教諭、鈴木実さん(六五)は「普通の子」という言葉に抵抗を感じる。
 生活つづり方運動を受け継ぎ、小中学校の教壇で三十二年間を過ごしてきた。子供をめぐる変化をこう語る。
 「以前は子供も生産に携わり、力を合わせることも学んでいた。今は違う。人をけちらしても自分が上に、という競争原理だけを背負い込まされている」
 少年院を歩き、「荒れた」子供たちに会った。はにかんだ顔に、あどけなさが残る。授業についていけなくなった結果、授業妨害や校内暴力をスタート台に、傷害・傷害致死、強姦(ごうかん)などに至ってしまった子が多い。「なぜ?」という問いに、自分自身でも十分には答えきれない。
 
○「自分の方をみてほしい」
 群馬県にある長期処遇の女子少年院「榛名女子学園」の体育館では、少女たちがエアロビクスに汗を流していた。ふてくされたように座り込んでいる子もいたが、教官はそのままにして、自発性を待つ。
 ベテラン園長は、こう話した。
 「本当は、自分の方を見てほしいんです。非行も、『皆がわかってくれない』という自己表現の一つ。だから、ここでは、個別面接に時間をかける。子供の気持ちを十分に大事にしながら、でも絶対にだめなことには、とことん引きません」
 両親の不和や離婚、父親の暴力など、複雑な家庭をもった子が少なくない。本人の我慢も足りない。そして、心にさみしさを抱えているようだ。
 ナイフ事件の直後から、社会の議論は少年法改正に集まった。
 法曹界で意見交換が続いてきた少年審判見直しの動きに加えて、最近は刑事処罰年齢の引き下げなど、少年に対する「厳罰化」を求める声が高まっている。
 だが、少年法が対象とするのは、あくまで非行をした子に対する事後的な措置にすぎない。そこを厳しくしたからといって、多くの子供たちに広がる「心の荒れ」の解決にはならない。
 
○大人がキレてはいけない
 「少年に厳罰を」という合唱の底には、大人自身の不安や憤まんを一部の子供に向けているような危うさを感じる。大人がキレてしまったら、どうしようもない。
 文部省は、一連の事件を機に、「心の教育」を打ち出した。だが、具体策は「心の教室相談員」によるカウンセリングの充実など。いわば対症療法だ。
 もっと根本からの解決策はないか。
 校内暴力の増加は、一九八〇年前後に続いて二度目である。福島県三春町では、前回のピークのあと、教育改革とは何かを多くの人が考えた。
 結論は「安心できて楽しい学校をつくる」という平凡なことだった。
 町に住む建築家らの協力を得て、自由な学習空間、広い窓や吹き抜け、廊下にベンチのある小中学校を建てた。
 授業内容も工夫している。
 町の中学校の一つを訪ねると、じゅうたん敷きの明るいオープンスペースに一年生の三クラス約九十人が座り、英語の授業中だった。先生は校長を含めて四人が一緒の「チームティーチング」だ。
 「連休はどうするの?」。簡単な英語の問答が皆の間を飛びかう。授業は途中から生徒が自由に選んで四つの小グループに分かれた。ビデオで会話練習をする組、アルファベットでビンゴゲームをする組……。「授業? 楽しいよ」と生徒は言う。
 自主性を重んじて、校則やチャイムはない。昼休みには、三々五々、外の芝生に「お弁当給食」を食べる輪ができた。先生もあちこちにまじっている。
 「一斉画一からの脱却」「縦の教育から横の教育へ」が目標だ。「個性に応じて自分で選び、責任もとる子を育てたい」と校長はいう。ここには荒れは見られない。
 楽しく、わかる授業。それを追求するには、日本の学級定員「四十人」を減らすことも真剣に考えるべき時だろう。
 少子化で余裕教室が生まれ、教員採用枠は狭まって若い先生が減っている。学級定員の縮小は、フレッシュな教員を教育の場に呼び込むことにもつながる。
 何よりも、「普通の子」とひとくくりにするのではなく、一人ひとりの子と、もっと触れ合い、それぞれにふさわしい指導を見きわめることができるはずだ。
 
○みんな自分たちの子
 いま、家庭では、親が子と正面から向き合い、「だめなことはだめ」と本気で叱(しか)ることを避けてはいないか。
 荒れや非行に対して、すぐ「厳罰化」を求める気持ちのなかには、「よその子」という意識がありはしまいか。
 被害にあった子はもちろん、非行に走ってしまった子も、結局は、みんな私たちの社会が生んだ「自分たちの子」と考えてみてはどうだろう。
 群馬県の赤城少年院の壁に、少年の作ったこんな短歌が張られていた。
 小学校の時
 先生泣かせた
 思い出残る
 先生に会いたい
 荒れる子供たちの、心の底にあるメッセージを受けとめたい。


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。





サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
11位
(28,943成果物中)

成果物アクセス数
494,772

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年7月8日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【北朝鮮について】
2.私はこう考える【中国について】
3.私はこう考える【ダム建設について】
4.私はこう考える【死刑廃止について】
5.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
6.私はこう考える【天皇制について】
7.私はこう考える【国連について】
8.私はこう考える【自衛隊について】
9.私はこう考える【憲法改正について】
10.私はこう考える【イラク戦争について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から