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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1994/02/03 朝日新聞朝刊
学校は物を教うる所にあらず(社説)
 
 教育という言葉について「はなはだ穏当ならず」と評したのは福沢諭吉だ。よろしく「発育」と称すべきなり、と。
 学校は人に物を教うるところにあらず、ともこの先達はいった。子どもの「天質」の発達を妨げることなく、発育させるのが学校の務めだという主張である。
 この明治期の警句は、いまの教育改革のめざすべき方向をそのまま示していると考える。このことは決して偶然ではない。百余年前も、戦後も、ともに西欧諸国に追い付け追い越せと、手早く知識を注入する学校の仕掛けのもとで教育は画一的な効率主義に陥った。
 このような近代日本の伝統的な教育のありかたが、ひとつの転換期を迎えている。一人ひとりの子どもの個性を大切にしようと、いま官民あげての合唱である。
 先生たちの二つの組合が神戸と長野で教育研究の全国集会を開いた。日教組と全教の一万数千人が参加し、教室のようすを報告した。日教組の神戸集会ではしかし、改革のゆくえに悲観論が少なくなかった。
 たとえば、子どもたちにゆとりをもたらすはずの学校五日制。土曜休みをひねり出すために、遠足や運動会などの楽しみを奪い、ほかの曜日に授業を上乗せしている。週六日を前提とした学習指導要領のもとでは、どうしてもしわ寄せが出てくる。
 また、脱偏差値・業者テスト廃止。たしかに業者テストは学校から消えた。だが、それに代わる校内テストなどで実態は変わらない。意欲や態度と学習以外の活動をみる内申書の重視で、内申点ねらいのボランティアがふえた。「個性」の客観的な評価は難しい。さらに不登校があぶりだした「楽しくない学校」の現状。
 ――このように報告の断片を紹介していくと、いっそう悲観的になってしまいそうだ。しかし、ちょうど十年前、この同じ神戸で同じ集会があり、そのときの課題が臨教審に対決する「下からの改革」だったことを思い起こすと、この間に教育改革の歯車が「下からも上からも」回り始めたことを実感する。
 焦点の五日制も業者テスト廃止も、日教組など教師の側が文部省にむかって初めに声をあげたものだ。受験学力に偏らない、一人ひとりの人間としての「生きる力」をはぐくむという目標も、いま文部省がいい始めた「新しい学力観」なる改革目標とかなりの部分で重なっていると思う。
 そういう見方には、厳しい対立を続けてきた両者はなかなか同意しにくいだろう。だが、父母らにはそれぞれの主張の違いがすぐには分からなくなってきている。
 長い間、官民の教育論議を隔ててきた政治の壁は、すでに政治そのものの変革で崩れた。これまで自民党政権の教育政策に応じてきた文部省、お仕着せの組合方針の枠にとどまった教師。日教組は「対決」の看板を下ろしたが、ともに政治のしがらみから抜け出し、改革の議論を重ね合う好機到来と受け止めるべきではないか。
 学校が教育のすべてを担いうる時代ではない。この情報化・国際化の社会で、子どもたちは、どこででも学ぶことができる。地域社会と父母と教師が子どもの教育を分かち合うことが望ましい。そのとき、改めて学校と教師の役割は何か。そして、子どもがこれからの社会で必要とする「学力」とはどのようなものだろうか。共通の議論はここから始めよう。
 改革の歯車が回り始めたというのは、集会の席で、先生たちのそのような自問自答があちこちで聞かれたからである。


 
 
 
 
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