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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1992/11/20 朝日新聞朝刊
推薦入学に偏差値を使うな(社説)
 
 児童・生徒の能力評価に「偏差値」というものさしが持ち込まれたのは、1970年代末だ。それで測れるのは能力の一部分でしかないし、ましてや人間の多様な可能性とは何の関係もない。にもかかわらず、業者テストの結果に基づいてはじき出される「偏差値」という妖怪(ようかい)が、いまや各地の学校を支配している。
 埼玉に始まった今回の「偏差値騒動」は、事態の深刻さを見せつけた。
 私立高校への推薦入学に際して、今年から偏差値を提示しないように、と埼玉県教育長が中学校側に求めた。それに対し、偏差値を合否判定の重要な指標にしてきた私立高校が反発しているのだが、これを機会に「埼玉方式」が定着するよう各高校と中学の双方に協力を求めたい。
 偏差値重視に陥っている推薦入学の現状には、問題が多すぎる。
 その第1は、推薦入学制度の空洞化である。一発試験で合否を決める方法に対し、合否の判定に多様な能力評価を加味しようという発想で、推薦枠が拡大されてきた。それが現状では、単に入試と業者テストの2本立てになっているに過ぎない。ペーパーテスト以外の要素を考慮しない推薦入学制度なら、やめた方がいい。
 第2の問題は、「青田買い」の激化である。私立高が推薦枠を広げていくのは、入試選抜の前に少しでも偏差値の高い生徒を確保しようというエゴにほかならない。関東6都県では、私立高と中学校の推薦入学の事前相談の解禁日は12月10日だが、実際にはすでに内諾を出した高校も少なくないという。
 子供の数が減っていく時代だけに、放置すればその競争は際限なく早まり、中学教育が事実上「2年半」になりかねない。
 第3の問題は、業者テストの点数争いをあおっていることだ。業者の数が限られていることもあり、出題内容が生徒間や塾で売買され、事前準備の仕方で点数がかなり動くと言われる。そんな業者テストに力を注ぐ中学教育とは何なのか。
 こうした問題点は、昨年4月の中教審答申や今年8月に出された高校教育改革推進会議の報告などで指摘されており、早急な改善が必要とされた。
 今回の「埼玉方式」に、私立高が「急すぎる」などと反発し、受験生を持つ親があたふたするのもわからなくはない。だが、突然出てきた問題とはいえない。高校側の反応は、自らが何らの改善策も考えてこなかったことを明らかにしているに過ぎない。中学校と親の側も、冷静に本来あるべき姿を考える機会にしたい。
 私立高はそれぞれの建学の精神、独自の教育方針や校風に基づき、推薦入学者については業者テストはもちろん、試験の点数とは異なる評価基準を重視した合否判定に取り組むべきだ。そのためには、面接などの手間を惜しむべきではない。
 「少産時代」を迎え、私立高の生き残り競争は厳しい。だが、それを偏差値競争にしてしまうのは、教育者の姿勢として余りに安易である。また、多様化に向かう大学入試改革の方向を見すえた長期的な視野に立てば、私学経営として賢明かどうかも疑問だ。今回の騒動で問われているのは、私立高校のあり方そのものといえる。
 「偏差値教育」の根底には、むろん大学入試がある。水の流れは上流から変わる。現に近年、私大を中心に様々な多様化の工夫が広がっている。点数主義を克服する大学の入試改革こそ、日本の教育の最重要課題であることを強調しておきたい。


 
 
 
 
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