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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1991/04/21 朝日新聞朝刊
何が教育を窒息させているか(社説)
 
 2年にわたる中央教育審議会の終盤で、答申案を手に委員の1人が強く発言した。この高校改革案の中身はこれまでの答申とまるで同じではありませんか、と。
 教育を覆う病理は解剖されつくし、一応の処方せんも何度書かれてきたことか。だが、「受験地獄」は募るばかり。いったい文部省や教育各界は何をやってきたのか。この委員の叫びには、このようなやり切れなさがにじんでいた。それはそのまま、今回の中教審答申を読んだ多くの父母の気持ちであろう。私たちも同感である。
 しかし、教育の病弊と改革はくりかえし論議することに意味がある。歴史的にも諸外国の例でも、教育の改革に満点はない。歩みは遅いが、たとえばこの10年、大学の多様な入試改革にしても少しずつ進んでいる。絶え間のない批判が広がりのある合意を生み出した、1つの成果なのである。
 そのような目で答申を見ると、私たちに教育改革を考える大切なヒントを与えていると思う。ひとつは、子どもの立場からの視点を貫けということ。この当たり前のことがこれまでの多くの官製の改革案には欠けていた。今回の答申はこう書いている。「子どもたちは自ら発言できない。われわれは物言わぬ彼らの立場に立つ」
 偏差値偏重、学校間の格差と序列、大量中退、学歴優先。「子どもの心の抑圧を軽減して人間性の回復を図る」という中教審の問題意識はみんなのものだろう。
 もうひとつは、点数絶対主義による「公平さ」や画一的な「形式的平等」への疑問だ。幼いうちから受験技術の特訓に恵まれる子だけに門戸の広い現状が果たして「公平」か、という問いかけである。
 このような基本に立ち返った議論が改革のすそ野を広げる。答申は受験競争の緩和をめざして、入試や教育の仕組みについていくつかの改革案を改めて示した。基本は子どもの力を測るのに多様で多元的で柔軟な尺度をもつこと、に尽きる。当然だ。それぞれの実現にむけて努力してほしい。
 子どもの側からいえば、それによって選択の幅が広がるかどうか。輪切りがいっそう精密になるだけでは無意味だ。私立の中高一貫教育への人気には、受験指導だけではなく、6年間のゆとりへの期待がある。いまの学習指導要領など規制の緩和なしには、公立校が子どもの立場から息を吹き返すことはむずかしいのでないか。
 子どもを窒息させている内申書の公開にも十分触れえなかった中教審の限界は別にしても、中高の垣根をとりはらうような制度改革に踏み込む議論はもう文部省としても避けるべきではない。本格的な試行研究を望みたい。そこでは、ほぼ全員入学となった高校で、なお入試という選抜がなぜ必要なのかも問いなおされるだろう。
 18歳人口が来年度に頂点を迎え、そのあと減少にむかう。カネと人手をかけた質の教育へ、将来をにらんで構造転換する現実的な絶好機だ。この好条件を生かさなければならない。
 今日の教育のゆがみの責任が日本社会のいわば総ざんげ論にとどまっては無力感を増すだけだ。答申のいう「産業社会の効率主義の原理」にその源を発するとしたら、今後の改革の方向はあきらかだろう。
 国の手による優秀な企業人の効率的育成という明治以来の目標を捨て、一人ひとりの人間の自己実現をどのようにしてはかるか。それを手助けする教育へ軸を移すことこそがいま求められている。そのような意識が肝心の文部省に薄いところに、冒頭の委員の嘆きもあったにちがいない。


 
 
 
 
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