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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/02/20 朝日新聞朝刊
創意と工夫(学校が変わる 新学習指導要領:8)
 
 教師が惑う「個」重視 今こそ問われる子供観
 名古屋市の南・知多半島の付け根にある愛知県東海市の市立上野中学校(榎本皓一校長、757人)で、長髪を解禁する動きが、静かに進んでいる。提唱したのは、隣町の知多郡東浦町立緒川小学校から、昨春転任してきた成田幸夫教諭(41)。この10年、前任校で、個性を生かす教育とはどういうものかを、考え続けてきた人である。
 
○校則見直しで激論
 小学校で、先生の教えすぎは困ると、教師が教えない時間をつくり、子どもの自発的な学習に任せた。昼休みの時間内なら、いつ、どこで、だれと給食を食べてもいい。そんなのびのびとしたランチタイムを設けた。日本の教育の常識を、随所で打ち破り、ごく普通の学校を、日本で最もすぐれたオープン・スクールに仕立て上げた。
 その人が、中学でまず手をつけようとしたのが、子どもの自律性を養うことだった。「個性を伸ばすには、規則で抑えこんではだめ。子どもを規則から解き放ち、自分で判断することの責任をわきまえさせることが大切」と主張する。そのための校則見直しが、生徒会、PTA、職員会議を巻き込んで大議論になった。
 「ともかく子どもを信じて任そうと主張すると、先生のような清い手の人には分からない、と言われた。清い手とは、数年前までのあの校内暴力の荒れ狂った時代を知らない人の理想論だ、というのです」
 生徒を自由に解き放つことへの不安感は、荒れた学校を経験した教師には、程度の差こそあれ、根強くある。にもかかわらず、100を超す細かい校則を整理し、生徒の自律に任せる思い切った方向転換が論議されている。
 校則見直しは例えば「頭髪は、自らの生活と学習の場にふさわしい機能的な髪形に心がける」といった具合だ。
 「議論がもめ抜いていたとき、ある若手教員が、これは日常の教科指導の姿勢が問われているのですね、と言った。うれしかったですねぇ」と、成田教諭は目を細めた。
 新学習指導要領案で強調されている《個に応じた指導》とは、実は、目先の指導技術ではなく、教師はもちろん、学校全体の子ども観が、厳しく問われているのである。
 
○お好みメニューも
 この14日午後、東京都世田谷区の区立弦巻中学校(鴨志田義英校長、853人)で「個に応じた選択履修方式」の公開授業が行われた。週1、2回、全校一斉の選択の時間である。
 全校生が30余りのコースに分かれて、好きなことを学ぶ。百人一首のリーグ戦、アメリカ民謡を訳して歌う、ゴルフのスイングをマスターする、点字の学習と盲学校との交流……。子どもたちの要望を生かした、さまざまなクラスがあった。
 文部省の研究開発学校として新要領を先取り実践したのだが、現場の教師には当初、抵抗感が強かったらしい。同校の研究について助言してきた加藤幸次・上智大教授(教育方法学)は、難しさと期待をこう語る。
 「いままでの学校は、真ん中より上のレベルの子どもに合わせて授業をし、できない子は努力が足りないといってきた。それが個に応じた指導などと言われると戸惑います。ここの学校でも最初は、かなりの先生が研究会に出てこなかったし、いろんなことがあったのでしょう」
 「でも、こういう学習は子どもたちが喜びます。日の丸・君が代など政治的な側面は別にして、今度の要領が強調する、個性を生かす教育の充実だけは、なんとか定着させたい。教師にやる気さえあれば、いろんなことが、できるはずです」
 
○注文で動きとれず
 東京都世田谷区にある私立駒場東邦中高校の久保田宏明校長も、「要は教師と教委のやる気」と、同感の意を表す。
 北海道釧路市の女子高校で十数年前、公立中学校と連携して、中学生の英語の勉強を高校生に教えさせようとした経験がある。後に北海道教育庁の幹部になって、学習指導要領を実施する際、「北海道の基準は、国(文部省)の基準に依る」とした。道教委としての注文は何も付けず、現場に要領の解釈をすべて任せようとした人である。
 「せめて教育事務所段階で基準を作るのをやめてくれれば」と、成田教諭もいう。文部省が現場の創意工夫をいくら強調しても、要領が県教委や教育事務所を通って現場にたどりついたときは、例示や、解釈で、がんじがらめになり、要領改訂の精神は死んでいる。これが従来、少なからず見られた例だった。
 今度も、同じことが繰り返されないという保証は、ない。(おわり)


 
 
 
 
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