日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/02/19 朝日新聞朝刊
社会科解体(学校が変わる 新学習指導要領:7)
 
 民主主義教育担いつつ、「批判力の核」姿消す
 高校社会科の学習指導要領案づくりの協力者会議のメンバーだった朝倉隆太郎・上越教育大教授(67)を、新潟県上越市の大学研究室に訪ねた。「くたびれた」といって1年余り前、協力者を辞任した人だ。
 「社会科の新要領案をつくるよういわれ、高校社会科グループの世話役を務めていたのに、教育課程審議会の方針で、突然、社会科が消えることになった。グループの全体会議を開き、社会科をなくすならば、その理念をはっきりと示してほしいと文部省に求めたが、それもかなわなかった」。朝倉教授はいまも無念さを隠しきれなかった。
 
○文部省は「再編成」
 今回の要領案は、同審議会の答申に沿って、高校の社会科を地歴科と公民科に分けた。文部省は「解体」と呼ばれるのを嫌がり、「再編成」という。要領案を報道関係者に説明した際も、担当官は「再編成は解体とは違う。社会科の理念を否定するわけではない」と強調した。
 しかし、なぜ、いま、地歴科と公民科に「再編成」しなければならないのか。この点については、文部省の理由づけは説得力を欠いた。担当官は「国際化の進展に対応して地理、歴史を重視する」ともっぱら「国際化」で乗り切ろうとしたが、「それは社会科の枠内でできるのではないか」との疑問には、的確な答えはなかった。
 翌々日、文部省が再整理した文書には、こんな言葉が並んでいた。国際的な資質の育成▽公民的資質の育成▽高校生の発達段階を考慮した教育▽教員の専門性の向上……。報道側からは再び疑問が相次いだが、担当官は「この文面ですべて言い尽くされている」と突っぱねた。
 「当時も、社会科を分ける場合の、それぞれの教科目標を問うたが、明快な答えはなかった」という朝倉教授は「初めに地歴科の独立ありき、だった」と言った。
 
○抜け落ちたことば
 現行の社会科は、教科目標として《民主的、平和的な国家・社会の有為な形成者として必要な公民的資質を養う》を掲げている。新しい公民科はほぼ同じ内容を引き継いでいるが、「いくらかでも違いを出したい」(文部省初等中等教育局)として《公民的資質》を《公民としての資質》に置き換えるなど、一部手直ししている。
 これが地歴科では《民主的、平和的な国家・社会の一員として必要な自覚と資質を養う》となり、《国家・社会の形成者》と《公民的資質》は落ちた。公民とは市民、国民の意味。小、中学校では、今回の改訂でも《国家・社会の形成者》《公民的資質》が維持されている。
 文部省は「地歴科でも、公民的資質などを無視するわけではない」という。しかし、学者や教師の間には、「地歴科では、社会科の理念は生かせない」との批判が強い。
 
○完全になくなる?
 「解体」の狙いを、歯切れの悪い文部省に代わって、はっきりという人がいる。西洋史専攻の木村尚三郎・東大教授(58)。教育課程審議会の委員として「歴史独立論」を強硬に唱え、朝倉教授らと論争したこともある。
 仕事場としている東京・赤坂のマンションで木村教授はこう語った。「歴史は人間諸学の基礎だ。あらゆる分野で歴史的なものの見方が必要とされており、従来の社会科の枠内ではおさまりきれない。社会科ではフランス革命を詳しく教えているが、その一方、文化や宗教、技術などはおろそかにされている」
 そして「社会科は民主主義を育成する役割を果たし終えた。日本ほど階級差がなく、民主主義の国はない。もう社会科の理念は時代遅れ」と言い切った。
 戦後の民主主義教育のシンボルとして生まれた社会科は、発足直後から「解体論」がくすぶり、今回、ついに高校で消え、小学校低学年では生活科に吸収された。いずれ完全につぶされてしまうのではないかとの恐れが、社会科を育て、なじんだ世代の人たちの間に広がっている。
 1947年、社会科の初めての学習指導要領づくりに携わった名大名誉教授・重松鷹康さん(80)=教育方法学=もそのひとり。「中国から復員して真っ先に考えたのは、二度とだまされない日本人を育てるにはどうすればよいのか、ということだった。その思いを、学習指導要領に込めた。国民ひとりひとりが自分で考える力を持つことこそ、社会科の狙いだった」
 戦後間もなく制定された学校教育法は高校教育の目標を《社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い……》とうたっている。「広く深い理解」はともかくとして、「健全な批判力」。その中核となるべき教科が社会科だった、はずである。


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。





サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
11位
(29,137成果物中)

成果物アクセス数
495,651

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年9月23日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【北朝鮮について】
2.私はこう考える【中国について】
3.私はこう考える【ダム建設について】
4.私はこう考える【死刑廃止について】
5.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
6.私はこう考える【天皇制について】
7.私はこう考える【国連について】
8.私はこう考える【自衛隊について】
9.私はこう考える【憲法改正について】
10.私はこう考える【イラク戦争について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から