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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/02/17 朝日新聞朝刊
新顔・生活科(学校が変わる 新学習指導要領:5)
 
 道徳が濃い影落とす 芽生えた興味摘む危険
 「生活科って、道徳色が強いですね。これで、子どもたちが楽しく学べるでしょうか」。東京都心のビルの一室にある「人間の歴史の授業を創(つく)る会」の事務所で、スタッフの久津見(くつみ)宣子さん(57)の表情は厳しかった。
 いま母親や教師対象の歴史講座を開いている久津見さんは、4年前に退職するまで、小学校の教壇に30年間立ってきた。教員時代の後半は、小麦の粒から粉をひいてパンを作らせるなどのユニークな授業で知られた。
 
○体験を通して学ぶ
 パン作りを授業に採り入れたのは、子どもたちが、お米よりも食べる回数の多いパンがどうやって作られているか知らなかったことがきっかけだった。「手を動かし、楽しみながら学ばせよう。中、高学年で教える生産の勉強の基礎にもなる」という考えからだ。
 新学習指導要領案で小学校1、2年に初登場した生活科は、理科と社会科を廃止して設けられる。《具体的な活動や体験を通して、身近な社会や自然とのかかわりに関心を持つ》のが、学習目標だ。しかし、学習内容をみると《生き物への親しみを持ち大切にすることができる》《乗り物や駅などの公共物の働きやそこで働く人々の様子が分かり、安全に気をつけて正しく利用することができる》など、確かに道徳や生活マナーのような項目が目立つ。
 「体験させるのは良いことですけど、何をつかませるかが問題。道徳やマナーを教え込もうとすると、お説教になってしまう。子どもの側に立った発想ではない気がします」というのが、久津見さんの受け止め方だ。
 生活科が生まれた本来の理由は、「遊び中心の幼稚園から来たばかりの子どもたちには、授業を理科や社会科に分けて教えるより、遊びや体験を通して総合的に教える方がいい」(中野重人・文部省教科調査官)という考え方だった。「教科書を使って知識を教え込むのは難しい」という現場教師の批判への文部省なりの回答でもあった。
 しかし、新要領案には、道徳を学校教育全体を通して浸透させるという至上命令があったことから、新設教科の性格にも道徳的な面や社会生活のマナーなどが強調されたきらいがある。
 
○アリから交通規則
 生活科は、実はすでに全国各地の学校で実験授業が進められている。その1つである福岡県のある小学校の1年生の授業を見てみると――。
 まず、家から学校までの道の危険な場所や横断歩道などを調べさせる。最後に、1列になって歩いているアリのビデオを見せたり、実際に観察させたりして、「みんなは、どうかな」と問いかける。「よそ見をしたり、3、4人横に並んで歩いている。2列ぐらいで歩いた方がいい」というのが、答えだ。
 この学校の実践を編著書『生活科―単元づくりの工夫』にまとめた益地勝志・元北九州市教委主幹(58)はこう話す。「交通ルールを守っているわけではないアリを引き合いに出したのは、ムリがあったかもしれない」
 日教組側の教師たちは「ほかの学校でも、第2道徳的な内容になっている例がかなりある」と批判している。
 遊びを通して教えることの難しさは、生活科的な授業を10年ほど前から行っている筑波大学付属小学校(東京都文京区)の有田和正教諭(53)も指摘する。
 有田教諭は、1年生を「アリと遊ぼう」と校庭に連れ出したことがあった。アリを観察させ、生息場所の地図を作らせて社会科的な授業につなぐのが狙いだった。
 ところが、子どもたちがアリを競走させようとしても、てんでんばらばらの方向に歩く。砂糖を一直線にまいたコースを作ってみても、アリはスタートの部分だけ口に含むと、また好き勝手な方向に行ってしまう。「アリを飼って性質を調べないと、うまく遊べないよ」。最初の構想とは違ったが、授業は自然に飼育の方向に進んだ。
 
○問われる教師の力
 「たまたまうまく、学習に発展した。初めの狙いにこだわったり、モラルを教えようとしたりしたら、せっかく芽生えた自然への興味を摘み取ってしまったでしょう。教師の力量が問われます」と有田教諭はいう。
 小学校の教科新設としては、道徳以来30年ぶりという生活科だが、道徳が濃い影を落とす中で、子どもたちが楽しめる教科に育つだろうか。


 
 
 
 
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