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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1989/02/11 朝日新聞朝刊
元帥復活(学校が変わる 新学習指導要領:1)
 
 「歴史」は人物重視へ 文部省、肝いりの顔ぶれ
 第1回竹下改造内閣が発足した翌日の昨年12月28日、東京・霞が関の文部省3階にある大臣室で、中島源太郎・前文相と西岡武夫・新文相との事務引き継ぎが行われた。シャンデリアの明かりのもと、和とじの書類に、それぞれ毛筆で署名する。新旧の両文相は終始にこやかで、儀式は、型通りにたんたんと進んだかに、はた目には見えた。
 しかし、中島氏はこの日、人払いをしたごく短い時間に、「1つだけ」といって、ある事柄を新大臣に引き継いでいた。
 引き継ぎ事項は、10日発表された新学習指導要領に深くかかわる。日本の歴史を扱う小学校6年の社会科の項目に挙げられた「取り上げる人物」リスト42人の後ろから3番目は、東郷平八郎。中島氏の、「1つだけ」の引き継ぎは、日露戦争の日本海海戦で名を挙げた、この元帥の件だった。
 
○答申を受け「人選」
 「東郷」が出てくるまでには、いくつかの伏線があった。
 1つは、昭和60年秋の「教科書問題を考える議員連盟」=会長、林健太郎参院議員(自民)=の旗揚げだ。「社会科や国語科の教科書は、わが国の歴史や伝統を否定的に記述し、国家の一員としての誇りを失わせ……」と結成趣意書には、あった。翌61年、森山欽司・同連盟幹事長(故人)が、教科書正常化国民会議の機関紙に「東郷平八郎を知らぬ中学生」と題して寄稿している。小学校社会科教科書を読み比べた結果、日露戦争の記述に偏りがみられる、という内容だった。
 中島氏が文相に就任したのは、翌62年の11月である。「東郷」に結びつく仕掛けは、その1カ月後に大臣が手にした教育課程審議会答申に、それとなく施されていた。答申は「明治維新以降について、わが国の近代化に尽くした人物のはたらきを中心に内容の精選を図る」と、うたっていた。
 教育課程審の答申を受けての指導要領作りは、63年に入って、急ピッチで進んだ。小学校の社会科は、文部省の教科調査官と、大学教授や地方教育委員会の指導主事ら約10人の協力者らが文案を練る。日本史については、時代を12に区分することがまず固まり、その1つ「日清・日露戦争と国力の充実」に即した人物としては、宰相・伊藤博文と、外相・小村寿太郎の2人が最初に上がった。
 
○「日露戦争観正す」
 「2月案」と呼ばれるこの案に代わって、文部省側は4月、練り直し案を協力者に示した。ここで、小村寿太郎が消え、代わりに東郷平八郎が入っていた。具体名は、伊藤、東郷、聖徳太子ら計10人を数えた。
 中島氏の抵抗は、4月案が公になってから始まった。局長ら省内幹部が集まった席で、大臣は「人物中心の歴史学習はいい。日本海海戦という局地戦の司令官である東郷元帥をもって、日露戦争全体は語れないのではないか」と、その理由を口にした。初等中等教育局の幹部は、様々なデータをそろえて、大臣を説得しようと試みた。
 《現在の7社の教科書のうち6社が、「君死にたもうことなかれ」の与謝野晶子を採り上げるなど、日露戦争を否定的に見ている》《東郷の名前は、むしろ外国の教科書が出している》
 幹部らは、こんな点を論拠として挙げた。
 しかし、大臣の姿勢は崩れなかった。「与謝野晶子がだめなら、それを外して、反戦の象徴の千人針のことを取り上げればいい」とも言った。
 中ぶらりんの状態が、半年も続いた。困り果てた幹部たちは、結局、「取り上げる人物」を大幅に増やすとともに、「例えば」の断りを入れるという修正案をつくり、「これでご納得を」と大臣室に持ち込んだ。大臣はいったん、「努力はわかった」と認めたものの、まもなく翻意した。「やはり、自分の在任中は承知できない」
 
○大臣交代待ち実施
 中島氏は、旧中島飛行機創業者の御曹司。「会社が造ったエンジンを載せた戦闘機で若い兵士が多数亡くなったのを痛恨のことと思っているようだ」と、その気持ちを推し量る声も聞かれた。だが、幹部たちは、当時の心境を「大臣交代を待つしかないと思った」と述懐する。
 その意が伝わったのか、西岡文相は今年1月下旬、「42人例示」の断を下した。文部省側からこれを伝えられた中島氏は「納得しないが、もう拘束しない」とだけ返答した。
 
   ×
 
 小、中、高校の学習指導要領が10年余ぶりに改訂されるのに伴い、教科書が変わり、教え方も変わる。伝統文化と国際化、道徳の重視、個性化……。指導要領にちりばめられた様々なキーワードが、学校を、教育をどう変えていくか。その断面を検証してみる。


 
 
 
 
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