1987/07/28 朝日新聞朝刊
知・徳・体(臨教審の1000日・最終答申を前に:3)
岡野俊一郎氏=55 日本体育協会理事
均衡とれた人材を スポーツの軽視に抵抗
「皆さんに信じてもらえないくらい、自由な雰囲気で、フリーに討論したんですよ。でも、教育というと知、徳、体のうち、どうしても知にばかり集中する傾向があって……」。臨教審3年間、不完全燃焼の部分も残ったようだ。
「英国の首相は、施政方針演説の中で、必ずスポーツや健康について触れるんです。日本で考えられますか。21世紀には労働は週12時間になる、という説もある。その時、スポーツは今の何十倍も大事になるのに」。知の偏重に抵抗する形で、臨教審の中に「スポーツと教育に関する分科会」を作らせた。
○先入観なく参加
3年前、文部大臣から臨教審への参加要請の電話があったのは、ロサンゼルス五輪から帰国したばかりだった。当初、スポーツ界からは体操の小野清子さんが予定されていたが、参院選出馬の話があって、急きょ、お鉢が回ってきたらしい、と岡野さんはいう。
「だから何の準備も、先入観もなかった」
○後ろ盾を求める
審議が続いている間に、一部種目での中学3年生の国体参加が認められた。「我々の意見が具体化された」と評価する。「だって、ボクより大きい中学生を一律に子供扱いするのはおかしいでしょう。スポーツぐらい、飛び級を認めてもいいじゃないか。世界では、16歳のワールドカップ選手が登場する時代ですよ」
ソウル五輪が来年に迫っている。数ある肩書の1つが「日本オリンピック委員会総務主事」。超多忙な日々だ。
サッカー一筋で、東大チームの名フォワード。メキシコ五輪銅メダル獲得の日本チームのコーチだった。「あの釜本選手は小学校時代は野球選手だった。森選手は水泳、私も中学3年までは水泳やスキー。1つことに固まらず、バランスのとれた基本を作りあげること、これが人間づくりの基本じゃないでしょうか」
今の子供は体こそ大きいが、ひ弱で、まるで、大型車に小型エンジンを積んだようなもの、と指摘する。「汗を流し、持てる力をふりしぼったという体験が、体力、気力を作る。こういう体験を積ませないと、次の時代を背負う人材は育たない」
スポーツ行政は十余りの省庁がからみ、確固たるバックがない、と嘆く。「スポーツ省を創設すべきだ。それも防衛庁のように強力なものを」
●私はこう思う 行政の怠慢を黙認した審議
スポーツ評論家の川本信正さん(79) スポーツについての審議内容、答申には3つの問題点があると思う。まず、これらの提案は30年代のスポーツ振興法などでいわれてきたことの繰り返しで新味はない。その振興法で示した、施設整備基準の達成率が5割にも満たない、というのが現実なのに、そうした行政の怠慢には目をつぶった。第2はエリート選手の養成などにスポーツナショナリズムがちらつくこと。中学選手の国体出場許可も、過度の練習などで将来問題を招きそうだ。第3に、国体の弊害に触れてない。天皇杯にこだわる余り、地元の教育を破壊し、大きな財政負担、ジプシー選手などの問題も残している。沖縄国体で一巡するのを機に、再考をうながす提案をすべきだった。
<スポーツと教育>
第3次答申では、(1)生涯スポーツの推進(2)競技スポーツの向上(3)スポーツ医・科学の研究の推進(4)スポーツ振興推進懇談会の設置、が大きな柱。(2)の項には、6年制中学でのスポーツ強化、コーチ制度の確立、優秀選手の顕彰、児童・生徒の対外競技参加も基準緩和の方向で、などが盛り込まれている。
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