1987/01/24 朝日新聞朝刊
未来に向けての教育改革案を(社説)
臨時教育審議会が、第3次答申に向けての審議経過の概要を発表した。
過去2回の答申の際にも、同じ手続きがとられた。しかし、今回の内容は大きく様変わりしている印象である。4つの部会が、それぞれの担当分野について記述していたのが、今度は複数の部会が共通して論じている問題が、いくつかある。そして、お互いの意見の違いが、かなりはっきり出ている。
教科書問題が、その代表的な例である。教育行財政を見直す立場からとりあげた第1部会は、現在の検定制度は教育の画一化と教育界の不信・対立のもとになっているとして、もっと柔軟な教科書認定制度に改める案を検討している。これに対し、初中教育を担当する第3部会では、原則として現行制度を守る考え方で議論を進めている。
大学の設置形態の問題も、高等教育を扱っている第4部会と、第1部会の両方が論議している。大学が国立・公立・私立に分かれている意味と功罪を根本的にとらえ直そうという第1部会に対し、第4部会は現行制度を変える必要はなく、相互の関係をいかに弾力化するかが課題だとする立場をとっている。
これまでの学校教育制度を相当思い切って改革すべきだ、とする自由化の議論。現行制度を基盤にしながら、手直しを考えればよいとする議論。当初からあった2つの考え方の対立が、最終段階に近づくにつれ、おおっぴらに表面化してきたといえそうである。
だが、このような2派に分かれての水かけ論を、任期切れまで続けていいだろうか。21世紀に向かっての教育改革案づくりという、本来の役割を思い出すべきである。その意味で、部会とは別に設けられた委員会の論議の中に、新鮮な考え方がいくつも示唆されているように感じられる。
「情報化」の角度から教育を見直している委員会は、学校のインテリジェント化という構想を提出している。さまざまな情報機器が普及し、社会環境の情報化は急速に進んでいる。子どもはすでに、その中に組み込まれているのに、学校だけが取り残されている。最新の機器をそろえ、子どもたちが「学校はすごいところだ」と魅力を感じるものにすべきだ、というのである。
もっぱら活字文化に依存して運営されてきた学校に、限界を見る視点がそこにある。教科書をめぐる議論も、この角度に立てば、まるで変わったものになるのではないか。
生涯学習社会に移行する観点から、大学や研究所、公民館、図書館のほか、民間の情報関連施設まで1つにまとめるインテリジェント・ビル構想も出されている。これも、伝統的な大学のイメージ転換につながる。
「スポーツ」の委員会は、学校体育を見直し、社会体育との連携を図ることを示唆している。学校の運動施設も、地域社会の共同施設として整備・管理しよう、という。また「国際化」の委員会の論議では、外国人、帰国子女、日本人子女が3分の1ずついる新国際学校の開設や、高校生が外国に留学した場合の単位をそのまま日本でも認める仕組みが検討されている。
いまの子どもたちが生きる社会を前提にした委員会の審議は、すべて従来の学校制度の枠組みを超える改革の方向を示さざるをえなくなっている、といえよう。
ほかにも3次答申では、教育費と教育財政、通学区、秋季入学など、大事な問題が扱われる。こんどの審議経過を見ると、これらも、まだ議論が分かれたままのようである。あくまで過去にとらわれない、前向きの意欲を感じさせる
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。
|