1986/09/10 朝日新聞朝刊
分裂の危機はらむ日教組 委員長選めぐり複雑な対立(時々刻々)
委員長選などをめぐって左右対立が続く日教組(田中一郎委員長)は、11日の続開臨時中央委員会と13日からの定期大会を控え、“分裂”の様相を深めている。さきに右派抜きで延長となった臨時中央委の再開へ向けて執行部は9日も3役会議、中央執行委員会などを断続的に開いたが、調整のメドはついていない。田中委員長を擁護する主流派右派と、中小路清雄書記長の委員長昇格をめざす社会主義協会系の左派、そして「反田中」を強める共産党系の反主流派それぞれの動きは、総評、社会党を巻き込んで複雑さを増している。
(大森和夫編集委員、西岡三夫記者)
●主流派 「委員長」で左右譲らず
日教組の執行部を握り、組織の運営を牛耳ってきた社会党員党友協議会(党員協)は8月28日夜、委員長選をめぐる対立から“分裂状態”のまま。この日、全国の主流派道県教組などの代表者約120人が出席。協会系が“定年制”を理由に、61歳の田中委員長の退陣を要求、これに対し、右派は「定年制は明文化されていない」として田中委員長の「続投」を主張。平行線のまま、約半数の協会系が退席、話し合いは決裂した。
翌29日の臨時中央委で、協会系と共産党系が中央委員約220人の3分の2以上(一部中間派を含む)を占めた。右派は、協会系が社会党支持を掲げる党員協のワクをはみ出し、“協・共連合”を組んだ、として反発、危機感を深めている。
臨時中央委の採決に表れた各派の勢力は、右派約70人、協会系約80人(中間派を含む)、共産党系約70人とみられる。このため、協会系と共産党系が結束すれば、11日の臨時中央委(定足数3分の2)を再開できる。その場合、田中委員長が自民党の西岡武夫氏の「励ます会」に出席した「西岡問題」で出されている田中委員長問責決議案が可決されるのは確実とみられる。
そこで、兵庫、神奈川、三重、千葉など15県教組を中心とした右派は、さきの臨時中央委の延長が、右派抜きの強行採決によるもので無効だ、として、中央委の再開に抵抗する構え。
大会の代議員は約490人。各派の勢力比は中央委とほぼ同じとみられ、右派の劣勢は免れない。
右派は、「闘争を重視する協会系の委員長では組織の強化、拡大は望めない」として、委員長再選に固執、主流派結束の必要性を強調、3役(右派−委員長・副委員長1人・書記次長2人、協会系−書記長・副委員長2人)の構成について現状のままとする案を提示しているが、協会系は数の優位を背景に「フェアプレーで、投票によって主流派内の決着をつけるべきだ」との作戦。
だが、協会系は、現在右派が占めている書記次長のポストにも候補者を出すなど、主流派内の確執は一段と深刻になっている。かりに、協会系と共産党系だけで臨時中央委と大会を運営し、その結果「中小路委員長」が誕生した場合、右派内には、執行部からの引き揚げや組合費納入拒否などの手段に出るべきだ、との強硬意見も出はじめている。委員長選をにらんだ主流派内のせめぎ合いは“分裂”の危機をはらんで激しくなる一方だ。
●反主流派 労選統一からみ左派支援
「引き算をしていくと、中小路氏支持ということになる公算が大きい」(平野一郎東京都教組委員長)−−反主流派(共産党系)は、「西岡問題」も絡み田中委員長ら主流派右派への批判を強めており、都教組などから田中氏に対する辞任申し入れが相次いだ。「共産党を除く野党が自民党にすり寄る傾向が強い折、西岡問題はその象徴」(平野氏)との見方からだ。
反主流派が中小路氏支持に回る姿勢をとっている背景に、労働戦線統一問題がある。全民労協が来年秋に連合体へ移行し、また総評が先の大会で「1990年前後の労働界全体の統一」を掲げるといった情勢をにらみ、「労働界の右翼再編」「全民労協路線への追随」に警戒をつのらせているのだ。この点、日教組の86年度運動方針案は「全民労協の連合体移行反対」を打ち出しており、左派色の濃い内容になっている。「左派とは一緒にやれる部分がある」と判断しているわけだ。
●総評・社会党 収拾策見当らず
総評は、主流派左派と反主流派が手を組みかねない情勢について「“社共型”では、今後の組合活動になにかと支障が出るはず。主流派内部で決着をつけてほしい」(首脳)と憂慮を深めている。「ここまできたら、委員長が辞任してけじめをつけるべきだ」との声もあるが、個別の組合の人事に介入するのは困難。こうした中で9日、真柄事務局長が田中委員長、中小路書記長と接触するなど打開策を探った。
社会党の日教組関係議員でつくる日本民主教育政治連盟(会長・小野明参院議員)は5日、主流派の左右両派から個別に事情を聴き、9日には「主流派内部で問題を解決し、分裂は回避してほしい」と日教組執行部に要請した。しかし、「うかつに動くと、自分の選挙に響く」(党幹部)といった声もあって、これ以上の働きかけはできにくい状況だ。
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