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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1985/09/07 朝日新聞朝刊
学校をまだ道具に使うのか(社説)
 
 文部省が、「日の丸」の掲揚と「君が代」の斉唱をもっと徹底するように、との通知を出した。この春の卒業・入学式での実情を、全国の公立小・中・高校について一斉調査したところ、都道府県によってかなりのばらつきがあったため、と説明されている。
 なるほど調査結果を見ると、100%実施の県市が相当ある一方で、沖縄のように「日の丸」が6%台、「君が代」はゼロといった県もある。しかし、平均すると義務教育では「日の丸」が90%を超え、「君が代」も70%前後に達している。
 日教組が反対するために、学校では「国旗」の掲揚も、「国歌」の斉唱もできない、といわれてきた。だが、日教組の組織率が高いからといって、必ずしもそれらの実施率が低いという関係にはなっていない。むしろ、この問題での対立で、日教組はもう有効な力を持たなくなっている事実が読みとれる。
 長い間、教委や校長の権限でそうした異論を抑え、押し切って進めてきた効果があらわれ、あと一息となった。さあ、いよいよ最後の仕上げにかかろう、というのが、今回の文部省通知の意味合いかと思える。
 国民が、自分の国のシンボルとしての国旗や国歌に誇りをもち、愛着を感じるのは自然の感情である。日本人もまた、例えばオリンピックで「日の丸」が揚がるとき、それを味わっている。海外で「日の丸」をはためかせた船に出合うときなども、同じだろう。
 そうした内的必然性のない場面でまで、義務として「日の丸」への敬礼を要求し、「君が代」を歌わせようとする。両者を比べると、「君が代」への親近感は一段低いことが今度の調査結果にも表れている。
 そういうことにもお構いなしに、上から強制しようとする姿勢が、背景にある意図への疑いを生み、反発を呼び起こしてきたといってよいだろう。
 今回の文部省通知も、こうした疑念や反発をまぬがれることはできまい。「多数は従っているのだから、それにならえ」という以外に、何の説得力ある説明もなされていないからだ。しかも、対象はもっぱら子どもたちにしぼられている。
 国が「日の丸」「君が代」についての国民的な合意を形成したいと考えるなら、そのための努力は、まず大人に向けておこなわれるべきであろう。それをせず、まだ判断力も固まっておらず、反問するすべも持たない子どもたちに、理屈ぬきで強制する。
 それも、卒業・入学式という儀式の場にとり入れることに、異常にこだわる。戦前の軍国主義教育の時代の『練成心理学』という本に「儀式は非合理的なものであるが、厳粛な雰囲気を構成する。それは心情に刺激を与え、子どもに皇国民としての素地を養う重要な教育的意義をもつ」とあるのを、いやでも連想せずにはいられない。
 もともと、学校教育の制度は、どこの国でも近代国家の成立にともなって「国民意識」を植えつける装置として作られた面をもつ。いきおい統制主義、画一主義の性格を帯びていた。しかし、社会が成熟し、そうした歴史段階を抜け出しつつある現在、学校制度の限界や弊害が目につき出した。
 教育には、取り組まねばならない切実な課題が山積している。地方議会で「学校で国旗掲揚・国歌斉唱を盛んにせよ」という決議が相次いでいるのは事実だが、まじめな教育への思いとは縁遠い、政治的な動きの産物であることは周知のことである。
 いわば1つの党派的な要求を実現するために、学校をなお道具として使いつづけようとする。ただでさえ行き詰まっている教育制度の現場に無用の重荷を加え、混乱を増すやり方というほかない。
 教育の場で苦しみ、あえいでいる子どもたち、そして多くの教師に対し、あまりにも傲慢(ごうまん)に過ぎないか。


 
 
 
 
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