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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1985/04/26 朝日新聞朝刊
教育改革審議に望む(社説)
 
 臨時教育審議会が、2度目の「審議経過の概要」を公表した。1度目は昨年9月の発足から2カ月しかたっていなかったし、中身も個条書き程度のものだった。臨教審が何を議論しているかを、まとまった形で国民が知るのは、これが最初といってもよい。
 4つに分かれた部会ごとの議論の流れが、かなり丹念に書きこまれていて、それぞれがどういう方向で改革案を手さぐりしているかが、浮かびあがっている。密室審議にせず、できる限り国民の目に見えるように、という要請にこたえる姿勢のあらわれとして、この点は評価してよいだろう。
 4部会ごとのまとめを並べて読むと、各部会の取り組み方に相当の差があることが分かる。とりわけ初等中等教育を受け持つ第3部会のそれが、きわだって「ことを急いでいる」印象を与える。
 6月下旬に第1次答申を出す予定になっているため、この段階で具体案を出せるものは出しておきたい、一番やりやすいのは初中教育の分野だ――ということかもしれない。
 しかし第3部会は、いわゆる「自由化」をめぐって、改革の基本理念を検討している第1部会と対立している。それが十分に調整されないまま、6年制中等学校、単位制高校の創設といった、きわめて具体的な構想が持ち出されている。検討に値する提案には違いないが、やはりこんどの教育改革は何のためのものかを、きちんとさせてから具体的な話にはいる必要があろう。
 「自由化」の主張には、袋小路にはいりこんでいた教育改革論議に1つの突破口をあける新鮮さがあった。その方法としてあげられた学区制の撤廃、塾の公認といった例示が、長い間につちかわれた学校制度についての固定観念を一気にくつがえす性格のものだったために、頭から猛反発をあびている。
 しかし、教育改革全体の方向をきめる1つの考え方として、まず十分に議論してみてほしい。具体的な方法は、さまざまな案をていねいに検証し、それを実施したときの得失を冷静に見定めて、とるかとらぬかを判断すればよいのではないか。そうしたデータにもとづいた議論を展開してもらわないと、国民は一緒に考えることもできない。
 さらに、こんどの「概要」を読んで、あらためて感じるのは、いま日本の子ども、若者、そして親たちが「教育」をめぐって味わわされている苦痛が、どこまで臨教審の人たちになまなましく届いているだろうか、というもどかしさである。これまでの審議会では考えられなかったような熱心さで、真剣に取り組んでいることは、精力的な審議日程を見てもよく分かる。
 地方での公聴会とか、一般からの論文募集とか、各分野の声を広くとり入れる上でいろいろ工夫をしているのは事実だし、学校の抜き打ち視察といった努力も確かにしている。だが、これらにはいずれもどこか「形をつくっている」という感じがつきまとう。その程度のことで、本当の苦しさが分かるはずがない、と思えてしまうからである。
 これまでのところ、現状についての材料集めは、おもに学校教育関係者や諸団体の代表からの話を聴く方法でおこなわれてきた。その結果は、改革に対する慎重さを求める声が多かったように見える。
 だが、いま最も困っているのは「教育される側」であって、「教育する側」ではない。教師や学校経営者も困っていないとはいわないが、その切実さはまるで違う。その人たちからの情報や訴えにもとづいた分析では、「教育される側」にとってはどうしてもよそよそしいものにならざるを得ない。
 これからの作業では、もっと本当に苦しんでいる当事者の実態に迫ることを求めたい。具体的な提案としていえば、いまの学校教育の枠組みの外で、疎外された子どもや若者たちのために「非公認」の教育活動をしている人がたくさんいる。この人たちの声を聴いてみては、どうだろう。
 落ちこぼれの子を救うための塾を開いている人、登校拒否児を預かって世話している人といった、民間教育運動のにない手たちである。その多くは、苦しんでいる若い世代の姿に、見るに見かねて立ち上がったのであり、学校教育のどこがうまく機能していないかを、最もよく知っているといっていい。
 審議する主題の面でも、ぜひ注文したい点がある。高騰しつづける教育費の問題である。受験体制の支配のもとで、親は子どもがゆがんだ人間になってしまいはせぬかという不安にさいなまれながら、一方ではそのための費用を注ぎこむことを強いられている。
 「これ以上、カネがかかるのではどうにもならない」という気持ちは、子を持つ親の教育改革への関心のなかで大きな比重を占めている。こんどの「概要」では、この面への言及がほとんどないが、どんな改革案にせよ、この点を抜きにしたままでは、国民は賛否をきめかねるはずである。
 本当に子どものためになる方向に改められるのなら、親は負担の努力はするだろう。だが、それにも限界があり、最近の統計はその限界が近づきつつあることを示している。こんごの審議では、こうした切実な側面への目配りを忘れないよう、要望しておきたい。


 
 
 
 
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