1985/04/25 朝日新聞朝刊
臨教審、改革理念は「個性主義」 中等教育を多様化 審議経過の概要公表
臨時教育審議会(首相の諮問機関、岡本道雄会長)は24日の第16回総会で、昨年11月以来の教育改革論議を「審議経過の概要(その2)」としてまとめ、公表した。「概要」は6月末の臨教審第1次答申の原案となるもので、教育の画一性の打破をめざす「個性主義」を教育改革の新理念として提唱。論議のあった教育基本法の扱いでは、条文改正を否定し、同法の精神を時代に合わせて再評価する方向を打ち出した。改革の具体案では、戦後の6.3・3制の学校体系下で義務教育を含む初の制度改革となる中高一貫教育の「6年制中等学校」創設を最大の目玉に、「単位制高校」新設などの中等教育の多様化・弾力化策を盛り込んだ。大学入試改革では、現行の国公立大の共通一次試験に代わり、私大も利用できる「共通テスト」の新設を提唱。各大学の自主的な運用で入試の多様化に踏み出すことを求めている。
臨教審の「概要」公表は、昨年11月に出した「その1」に次ぐ。今後、総会の場で「概要」の各事項の検討に入り、各部会もそれぞれ他部会との合同部会で改革案相互の調整に入る。また、東京(5月22日)、大阪(同27日)で公聴会を開くなどして、国民各層の「概要」に対する意見を聞いたうえ、「概要」の内容を取捨、整理する形で第1次答申をまとめる段取りだ。
「概要」は4つの部会がまとめた部会報告に、総会審議の要約を加えたもので約10万字。教育改革の理念などについて、第1部会(天谷直弘部会長)は、教育荒廃の原因を「画一主義と硬直化」などに求め、改革の方向として「画一主義から個性主義への、大胆かつ細心な移行、改革」を提示した。焦点となっていたいわゆる「学校教育の自由化」については、部会内に激しい論争があって意見対立が残っていることを詳述するとともに、改革案の具体的論議を通じて今後とも「自由化」が検討テーマであることを明示した。
しかし、「概要」の中で、第3部会(有田一寿部会長)は、義務教育段階での「自由化」に反対する姿勢を明確にしている。また、改革理念「個性主義」と「自由化」の関係が不鮮明であることなどから、第1次答申に向けての総会論議では、「自由化」が臨教審のめざす改革のあり方と直接絡んで大きな争点になりそうだ。
学歴社会の是正に取り組んできた第2部会(石井威望部会長)は、国民意識の中になお、学歴志向が根強いことを指摘。学歴に偏らない人物評価の多様化などの必要性を強調しつつ、将来的には人生のあらゆる段階で教育の機会を保障する「生涯学習社会」の建設を提言した。
具体的な制度改革案の柱としては、第3部会が(1)「6年制中等学校」創設(2)単位の累積で卒業できる「単位制高校」の新設(3)3年制の高等専修学校の卒業生に大学入学資格(受験資格)を付与する――の3点を、第4部会(飯島宗一部会長)が大学入試の「共通テスト」新設を、それぞれ提案した。
「6年制中等学校」構想は、現行学校体系の下で、中等教育の複線化を狙うもの。新たな学習指導要領の策定、学校教育法改正などが前提となる。「概要」では、具体的に(1)芸術、体育、外国語などの技術・技能の伸長を図る(2)普通科と専門学科を併設する(3)理数科などの能力を伸ばす――などの類型を挙げた。新設校への入学者選抜をどう行うか、受験専門校化しないか、などをめぐっては、総会でさらに論議となろう。
「共通テスト」構想は、各大学が「個性的で多様な選抜」を行うことを前提に提案されたもので、大学生の約8割を占める私大への利用拡大や大学の判断で科目別利用もできる(アラカルト方式)ことが眼目。「共通テストの種類・内容は複数であってよい」として、適性テスト、難易度別の学科試験などで制度を多様化することを想定している。また、現行共通1次の実施機関「大学入試センター」を私大や高校側も利用できるような大幅改組を求めている。
このほか、大学関係では、国立大学受験機会の複数化を提言。また、「大学の9月入学」については、入試の多様化や高校教育の完結などの利点と修業年限延長や受験の過熱などの問題点を指摘するにとどめ、継続して審議することを明記した。
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