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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1985/01/23 朝日新聞朝刊
論議白熱「学校教育の自由化」 臨教審の焦点に浮上
 
 臨時教育審議会(首相の諮問機関、岡本道雄会長ら委員二十五人)が発足して五カ月。これまでの教育改革論議の中での大きな特徴は、「学校教育の自由化」が重要なテーマになっていることだ。学校制度だけでなく教育の内容や方法を自由にしようという自由化論の行方は、公教育(教育における国の責任)のあり方にかかわる重要な問題であり、教育改革の方向を左右することにもなる。急浮上した裏には自由化論者を臨教審の委員や専門委員に送り込んだ中曽根首相の意向が強く働いているが、自由化の目的、具体像などは必ずしも明確ではなく、疑問や抵抗も少なくない。「自由化」の背景や、内容、論点などをまとめた。
 (大森和夫記者)
 二十一世紀を展望した教育のあり方を検討している臨時教育審議会第一部会(天谷直弘部会長)が、三月ごろまでに「自由化」を基調とした中間報告をまとめようとしているのに対し、初等中等教育の改革を検討している第三部会(有田一寿部会長)は、義務教育段階の自由化反対を打ち出すなど、臨教審は内部の意見調整を迫られている。一方、政府(文部省)・自民党内には、文教行政が、学習指導要領や教科書検定などを通して教育の管理、統制を強めてきた一面をもつこともあって、「自由化」の真意を測りかねる向きも多い。
 月内には、松永文相や自民党の歴代文相経験者と岡本会長ら臨教審首脳との会談が予定されるなど、「教育の自由化」をめぐる動きが活発化しそうだ。
 
 ○背景 首相主導、予算緊縮とも連動
 学校教育の自由化論議の“仕掛け人”は、松下幸之助氏を座長とする政策研究グループ「世界を考える京都座会」。昨年三月、自由化を教育改革の理念とする学校教育活性化のための提言を発表した。「教育の分野でも公正な競争原理を導入するため」に(1)公的機関からの規制や指導を排除する(2)教育制度のさまざまな制限を撤廃、緩和する――と提唱した。
 教育の供給者である学校、教師の側に競争がないのが、学校教育が硬直化、画一化した原因、という理由からだれでも自由に学校を設立でき、自由に学校を選べるようにし、そのためには教育に対する文部省の関与を弱めるべきだ、というのが自由化の立場。教育行政における許認可、各種規制を見直して民間活力を導入しようというわけだ。
 つまり、「自由化」は“金のかからない教育改革”の狙いが込められている。国、地方の教育費は約十五兆円(五十七年度)、国民所得の7.4%。「教育改革には補助金(約二兆四千億円の義務教育国庫負担金など)の見直しが不可欠」「初等中等教育の予算が多すぎる」など、第二次臨調の答申が私学助成の削減を打ち出したように、行財政改革と「自由化」はともに受益者負担強化の立場に立っている。
 そして、首相が自らの強い意思で京都座会のメンバーである天谷直弘氏(国際経済交流財団会長)、石井威望氏(東大教授)を臨教審の委員に、同じく渡部昇一氏(上智大教授)、山本七平氏(評論家)を専門委員に選任。さらに、自由化論者である香山健一氏(学習院大教授)や公文俊平氏(東大教授)、行革推進審議会参与の屋山太郎氏(時事通信解説委員)らを文部省の反対を押し切って委員、専門委員に選んだ。また、行財政改革に積極的な経済界から五人の委員を起用した。
 こうして「自由化」論議が盛んになった背景には首相の文部省に対する不信感がある。首相は「文部省は現状に執着するきらいがある。文部省の言いなりになっていたらいい教育改革はできない」(昨年十二月二十六日、テレビ番組で)と述べ、また「いまの教育制度は硬直しており、規制、統制が多すぎる」「戦後教育を複線化、自由化する方向にしたい」とも語っている。そして、教育予算を切り詰めて行財政改革につながれば、首相にとって“一石二鳥”というわけだ。
 だが、首相は、かつて教科書採択の広域化を提唱するなど、明らかに国家や民族を重視して国の全体的統合をはかろうとする政府・自民党の文教政策をより強力に推進してきた。首相のそうした教育観と、教育の自由化がどう結びつくのか、きわめて不透明だ。
 
 ○青写真 「塾も学校と認めよ」
 京都座会の提言や香山委員、一月九日の第一部会に参考人として出席した加藤寛氏(慶大教授、京都座会のメンバー)の意見などをもとに「自由化」の具体像を描いてみると――。
 一、【だれでも自由に学校を設立でき、塾も学校として認められ、学校はさまざまな種類に多様化される】学校の設置者は国、地方公共団体、学校法人に限られており、設立にあたっては、学校教育法、同施行規則などで学級編成や教員の定数、学校の施設・設備、教材などについて必要な基準が定められ、学校で教える教育課程の基準も学習指導要領で決められている。大学の場合もさまざまな設置基準がある。各種の規制を緩めて、教育理念に燃えた人は、個性的で特色ある教育内容をもった学校を自由に設立できる。
 二、【通学区域制限を緩和し、子どもたちは行きたい学校で勉強できる】学校教育法施行令第五条で、市町村、東京都の特別区の教育委員会が地理的条件、学校の収容能力などを考慮して「就学すべき学校の指定」を行うことになっているため、公立小、中学校の場合、通学する学校が決められている。学ぶ側に学校選択の自由を確保すれば、各学校が競争意欲を起こして生き生きした教育が展開される、という。また、好きな学校に公費で通うバウチャー制導入の考え方が自民党内にある。
 三、【飛び級制度などを設け、学校は教育方法や教育内容を自由に決定できる】学校教育法で小学校六年、中学校、高校各三年、大学四年の修業年限が定められている。子どもの学力に応じた教育を行うため飛び級(修業年限の短縮)制度、特定科目だけの進級制度、義務教育の留年制を導入する。国が画一的な枠をはめるのは好ましくない、という主張。
 四、【六・四制、六・六制、五・四制などの学校制度が併存する】現行の六・三・三制の区切り方をすべて否定するのではなく、「唯一絶対の学校制度はあり得ない」として、学校設置者が学制についても自由に決定できる。
 五、【教員免許制度を緩和し、意欲のある人を先生にする】教師を競争させるのが狙い。適性、能力そして意欲のある人は、一般社会人でも教職に就けるようにし、研修を充実強化し、再選抜制、任期制などを設ける。
 自由化論は、同時に「共通の基本的知識と能力の程度については、年齢段階ごとに標準学力認定制度を設け、国民としての最低教育水準を維持する」(京都座会)としている。
 
 ○問題点 機会均等どう保障
 すでに数人の委員、専門委員から自由化に対し強い批判、疑問が表明され、文部省も自由化反対の姿勢を強めている。公教育、とくに「国民の基礎的な教育として、一定水準の教育の機会均等を保障する」という義務教育における国の責任を重視する考えに基づいている。また、日教組は「自由化は公教育に私企業の論理を持ち込み、教育の機会均等を保障した教育基本法(第三条)に反する」と反発を強めている。自由化反対の主な理由は――
 (1)学校設立が自由になれば、教育内容について全体的な水準を維持向上させることが困難になり、設置者の都合によって学校の存廃が決められ、教育基本法がめざす「人格の完成」が困難になる
 (2)自由に学校が選択できるようになれば、特定の学校に児童・生徒が集中する。その結果、入学競争が一段と激化し、経済的に恵まれた者が得をする“弱肉強食”の教育になり、教育の機会均等が損なわれる
 (3)国の規制がなくなれば、特定の政治的、社会的勢力によって教育が支配される――など。
 そして、文部省は「学校教育は子どもの、それぞれの発達段階においてかけがえのない一回性のものであるという性格をもつ」(高石初等中等教育局長)として、子どもを不安定な教育環境に置く自由化を行うのではなく、漸進的に制度、教育内容の弾力化、多様化を推進していくのが望ましい、と主張。
 「自由化」は、公教育のあり方はもとより、学校の「公の性質」、義務教育の年限(九年間)、学校体系(六・三・三・四)など、教育基本法、学校教育法に直接かかわってくる。学校教育の現状が画一的で管理主義が強すぎる、という認識では臨教審内部もほぼ一致しているものの、教育改革の方向については違いが目立ち、さらに「一口に自由化といっても、その程度、範囲は一から百まである」(天谷第一部会長)。「自由化」の概念、内容、範囲を具体的に詰め、「弾力化」「多様化」を含めて実行可能な改革案をめざして論議を深めていくことが臨教審の大きな課題といえそうだ。


 
 
 
 
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