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私はこう考える【教育問題について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1985/01/15 朝日新聞朝刊
日教組・日高教の教研集会を顧みて 危機感・戸惑い交錯
 
 「草の根からの教育改革」を模索して、札幌市で開かれていた日教組・日高教合同の教育研究全国集会が十四日、幕を閉じた。臨時教育審議会発足後、初めて開かれたこの教研集会は、中曽根首相提唱の政府による戦後最大の教育改革を控えて、かつてない危機感に包まれ、同時に、先生自身に対する反省が、これまでになく強い調子で語られた。三月に草案をつくり、六月には第一次答申発表を、と異例の速さで審議を進める臨教審への対決色をいっそう鮮明にする一方で、教育現場が直面している問題の重さを示すかのように、討議では戸惑い、焦り、いら立ち、一部には無力感までが交錯した。雪の降りしきるなか、会場に早朝から通い続けた一万人の教師や父母は、四日間の集会を経て何を見いだしたのか。(佐田智子記者)
 高校入試を中心に選抜制度と進路指導の問題を討議した第十五分科会は、今回の教研集会の焦点の一つだった。教育の大きな流れが、いま変わろうとしている。そのことが、具体的には高校入試の場面で、とりわけくっきりと浮き彫りにされ、臨教審の登場によってかつてない危機感、緊迫感を持って意識されている。参加者たちは、それを様々な言葉で語った。
 「臨教審がめざす教育改革の先取りが、現場では、ずっと前に始まっている」「高校に進学したいという子供には、出来る限りその機会を保障するのが当たり前と思ってきた。その戦後教育の基本理念が、あっさり否定されようとしている」
 鹿児島の若い中学の先生は、県教委が一昨年から高校入試の「足切り基準点」を文書で通知し、全県一斉に「適格者主義」の入試を開始したと報告した。
 「教育臨調のめざす、安上がりな切り捨て教育が、先取りされている。県教委は、低学力の生徒は高校を中退するケースが多く、本人も不幸だし、社会的にも損失だというのです」「しかも、先生たちの間にも、低学力者すなわち非行生徒、退学予備軍だと頭から決めてかかる空気がある。大変さは、あえて引き受けようとしない」
 文部省が唱えている推薦制をめぐっても議論があった。昨年の同じ分科会では、推薦制に対して賛否は半々だった。が、今年は、推薦制に賛成する先生は一人もいなかった。
 四、五年前から職業科に推薦制を導入している石川、福島、佐賀などから、否定的な報告が相次ぎ、制度の形骸(けいがい)化、欠陥が指摘された。成績だけで判断せず、ほかに特色のある子供を救済するとのねらいは、現実には崩れ、成績がボーダーラインの生徒を高校に押し込む手段になっている、と。その結果、推薦入学した生徒の六割、とくに女子では八割以上が、友達から特別な目で見られるなどを理由に、「後輩には推薦入学はすすめない」という(石川の報告)。
 沖縄からきた教員歴二十年の中学の女の先生は、涙声だった。「沖縄では、今春初めて推薦制が実施される。非常に期待して、入試も少しはバラ色になるように思っていた。どう頑張っても2や1しかとれない子で、とても花が好き、動物が好きといった生徒がいる。推薦制はそういう個性のある子に適用しようと、先生の間で話し合って決めたのに……」
 入試の面接制についても、いろいろやりとりが行われた。「佐賀では、一昨年から職業高校の一部で面接が実施され、今春は全般に拡大される。しかし、多数の子と限られた時間に接しなければならない入試の面接で、前向きな何かをすくうのは不可能に近い。結局、面接は服装とか髪の乱れなど“腐ったリンゴ”を見つけるためのチェックに使われることになる」
 京都、広島などで進む総合選抜制の解体、類型別コースの導入などで普通科の中の格差の増大、千葉など人口急増地域で起きている公立高増設ストップと、それがもたらした結果。いま各地で進んでいる変革のほとんどが論議された。「教育現場では、すでに変化の大きな波が押し寄せ、行政とのツバぜり合いのさなかなのです」
 日教組や教研集会についてはこれまでにも様々な指摘や批判が向けられてきた。内部の政治的対立が、不毛な路線論議や怒鳴り合いまでになり、当の組合員の先生までをうんざりさせてきた面もある。今回の教研でも、路線対立の激論に終始した分科会がなかったわけではない。いじめや自虐的行為などの暗たんたる実態が報告された生活指導の分科会では、「実践例は小粒でロマンに乏しく、こんなにリポートがつまらない年はなかった」と助言者を嘆かせた。現実の重さにつぶされて、身動きできずにいる教師の姿があった。
 また自らの手で教育改革を、というが、改革への具体論がどれだけ深まったかにも疑問はある。「何でも批判の日教組」の傾向が、臨教審に対して見られたのも事実だ。
 しかし、その一方で、同僚への厳しい批判や、自分自身への反省、迷いなどが、これまで以上に率直に語られた。現にあちこちで「改革」に手がつけられ、さらに大きな「改革」が、手の届かぬところで進められようとしている。十五分科会で象徴的に見られたように、集会全体を通して、緊迫感の中でひたむきに論議をする姿が目立ったのも、この集会の特徴だった。
 期間中、東京では臨教審の部会が二度開かれた。教研集会に先立って、臨教審の首脳に「教研を視察する予定はないのか」と聞くと、「あれは政治的セレモニー。教育を語る場ではない」との答えだった。
 たとえば高校への希望者全入と適格者主義の問題ひとつをとっても、議論は大きく分かれるだろう。しかし、各地の教育現場では、すでに行政による様々な改革が進み、その「改革後」や、もたらしたものをめぐって、こんなにも様々な意見があり、多くの先生たちが悩み、様々に揺れているのだ。そうした声が、国の行方をも決める教育改革を審議する場に届かないとしたら、悲しいことであり、不幸なことではないだろうか。


 
 
 
 
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