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2001/09/21 産経新聞東京朝刊
【日本は何をすべきか】米中枢同時テロ(3)
前原誠司(民主党幹事長代理)
 
◆集団自衛権解釈変えるべきだ
 −−小泉純一郎首相が自衛隊が米軍を後方支援するための新規立法など七項目の対米支援策を発表した
 「スピードが大事だ。米空母、キティホークが横須賀港を出港してアラビア海に向かうのだから、日本が何かやるとすれば、いま目の前で護衛や警備とかの仕事に就くことが求められている。テロが起きてから、一週間たっているのだから、議論をしっかりと積み重ねて具体策を出す準備がなぜできなかったのか。支援策は取り繕ったものを持ってきたという感じがする。方向性は賛成であっても雲をつかむような話で議論しにくい」
 −−政府・与党内には周辺事態法の適用を、という声もあったが
 「テロには地域的な概念はない。米国でテロを起こしたグループがいるということでアフガニスタンが攻撃の対象になっている。テロは国と国との戦いとは全く違う概念で、いつ日本にも危機があるかも分からない。今回のテロでも多くの日本人が犠牲となっている。日本がいつテロの対象になるかも分からないということを考えれば、私は十分周辺事態法の適用は考える余地はまだあると思う。周辺事態法の適用は排除すべきではない。むしろ新法を作ったときの方が、内閣法制局との間で集団的自衛権の解釈のすりあわせがもっと大変ではないか」
 −−集団的自衛権の行使に関する政府の解釈を変更すべきではないか
 「賛成だ。具体的な後方支援をやるには、法制局のまわりくどい、ゴムが伸び切ったような解釈でするのではなくて、集団的自衛権に関する政府解釈を変える中で、『やれる部分についてはやる』と言った方が分かりやすいし、スピード感も持てる。私は今の政府解釈には納得していない」
 −−どのように政府解釈を変更するのが望ましいか
 「米国とともに戦うということは憲法上できないが、後方支援や警護、対潜哨戒で情報伝達するとか、機雷除去とか、捜索・救難活動をするとかいまの憲法でも十分にできる集団的自衛権の行使だと思うので、その方がよほど説明もすっきりとする。いつまでも内閣法制局のわけのわからない集団的自衛権の解釈を繰り返すのかということになる」
 −−小泉首相が解釈の変更を明言すべきだということか
 「その方がもやもやしなくていい。それでも国民がもやもやするのであれば、必要な支援をするために憲法解釈を政治の判断で変えると説明すればいい。そして、時間をかけて憲法論議をする中で、ゆくゆくは憲法改正において自衛権を明記することなどでその部分を法的にもすっきりとさせるという約束をすればいい。これからの戦争は後方や前線の区別はない。後方支援はいいというのは国民をだます姑息なレトリックだ。その部分については、憲法解釈を変えて、堂々と行えるようにすることが必要だ」
 −−新規立法の問題が政界再編につながるようなことにならないか
 「どういう新規立法が出てくるかによると思う。それこそ憲法解釈を変えるということになれば相当な激震が起きると思う。私は歴史の節目に立つ総理として小泉首相に決断してほしい。日米同盟関係がだめになれば、構造改革どころではない。自分の国に何かが起きたときには日米安保条約に頼り、米国が追い込まれたときに何もしなかったのでは同盟関係はその時点でジ・エンドだ。日米同盟が崩壊したときにもっとひどいカタストロフィーが日本に起きるということを政治家としてもっと国民に伝えなければならない」
 −−インド洋に派遣した自衛隊がテロ攻撃を受けて、多数の死傷者が出た場合は
 「それこそ政治の責任で対応すべきだ。もし、自衛隊員の中で死者が出て『もうやめるべきだ』との声が上がった場合に、日本が引き下がって日米同盟を終わりにしたときに、どういう結果になるのか分かっているのか、ということを国民に考えさせなければならない」
(笠原健)
 
 ■集団的自衛権と憲法の関係(昭和56年政府答弁書) 「国際法上、国家は集団的自衛権、すなわち自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されてもいないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有しているものとされている。わが国が国際法上、このような集団的自衛権を有していることは主権国家である以上、当然であるが、憲法九条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するための必要最小限度の範囲にとどまるべきであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている」
 
◇前原 誠司(まえはら せいじ)
1962年生まれ。
京都大学卒業。
京都府議。現在、衆議院議員。


 
 
 
 
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