日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999/05/01 朝日新聞朝刊
(憲法を考える)国家単位の発想を超えて
野田宣雄(南山大教授)
 
 ――憲法は国家の基本となる法律ですが、その国家のあり方が最近大きく変化しています。
 「いま私たちが目にしているのは、数世紀に一度の大転換期だと思う。二、三百年にわたって安泰だった国民国家という政治の枠組みが世界的規模で揺らぎつつある。インターネットなど情報技術の発達と経済のグローバル化が、一定の領域を一元的に支配する国家の存在を脅かしている。冷戦時代以来の『護憲』対『改憲』という構図も、そうした国家の枠組みに基づいた論争だった。しかし、もっと大きな変化が起こっているという認識が必要だ。現に、欧州連合(EU)への歩みの中で、ドイツは憲法に当たる基本法を改正して、国家の主権を国際機関に移譲できるという項目を入れたほどだ」
 
○経済・安保の枠変化
 ――具体的には、どういう問題に直面していますか。
 「これまでは、国民国家と経済活動は一体化していた。各国の主だった企業もナショナルな性格を失っていなかった。『フォードのために良いことは米国のために良いこと』『ホンダのために良いことは日本のために良いこと』だと素朴に信じることができた。しかし、いまや日産とルノーが資本提携して、企業の利益と国益が、かけ離れてくるようになった。また、大量の資金が瞬時に動くヘッジファンドが経済を左右するなど、一国単位の経済政策では、とらえられない問題を生んでいる。国家の力だけではもはやコントロールできない。こういう課題を、憲法問題としてどれだけ議論しているだろうか」
 「安全保障政策でも同じようなことがある。戦後日本では、個別的自衛権だけを認めるべきか、それとも同盟国への攻撃にも共同で対処する集団的自衛権の行使も認めるべきか、という議論をしてきた。これも、日本という主権国家の枠組みを不動の前提にすえての議論だ。欧州では、EUが共通の安全保障政策を持とうとしている。ドイツがフランスと合同軍を結成したり、ポーランドと合同演習をしたりしている。もちろん、東アジアと欧州は事情が違うだろうが、広域秩序のなかで主権国家の枠組みを超えて安全保障を考える必要が、将来は出てくるだろう。そうしたとき、これまでの自衛権論争で対応できるだろうか」
 
○組織内部の民主主義
 ――新しい視点が必要だということですか。
 「人権問題でもそうだ。国家の枠組みが緩んでくると、人々は自分のアイデンティティー、つまり心のよりどころを国家以外に求め始める。極端な例はオウム真理教に走った若者たちのケースだが、宗教組織など様々な団体に人々が帰属意識を強めるようになると、こうした組織内における個人の自由の問題が出てくる」
 ――従来の憲法論は、国家からの自由に軸足がありました。
 「戦後論壇のリーダーだった政治学者の丸山真男さんたちの世代は、国家が肥大して個人を抑圧した戦前・戦中の時代を経験した。だから、国家対個人という構図で考えた。日本国憲法もそうした国家肥大の反省から生まれた産物だ。しかし、今や危険の来る方向が違っていると思う。国家以外の様々な組織が個人の自由を制約する方向で活動する余地が広がる」
 「米国では、すでに議論が始まっているが、そうした組織内部の民主主義についても、憲法が最低限の保障を与えていないと、個人の自由が確保できない時代が来ている」
 
○「広域秩序」の認識を
 ――野田さんの言うような主権国家の衰退を踏まえた憲法論は、まだ広がりを持っていません。
 「護憲の陣営では『護憲』というシンボルと『良心的』という価値が不可分なものになり、憲法論が倫理的な問題になっている。改憲の側は、主権国家、国益に関する古いイメージを引きずっている。世界秩序がいくつかの広域秩序の形成に向かっていることを認識した上で、リアリズムに基づく議論が求められている。いま私たちが差しかかっている歴史の転換の意味をもっと議論するようになれば、『護憲』か『改憲』かという区別は、議論の座標軸として役立たなくなるのではないか」
 
◇野田 宣雄(のだ のぶお)
1933年生まれ。
京都大学大学院中退。文学博士。
現在、南山大教授、京大名誉教授。


 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。





サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
27位
(29,244成果物中)

成果物アクセス数
274,563

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年12月9日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【北朝鮮について】
2.私はこう考える【中国について】
3.私はこう考える【ダム建設について】
4.私はこう考える【死刑廃止について】
5.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
6.私はこう考える【天皇制について】
7.私はこう考える【国連について】
8.私はこう考える【自衛隊について】
9.私はこう考える【教育問題について】
10.私はこう考える【イラク戦争について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から