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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/05/02 朝日新聞朝刊
(論壇 特集・憲法)改憲し実質的な安保論議を
田中明彦
 
 日本国憲法について私は憲法改正をするのがよいと思っている。そして私の改憲論はきわめて簡明なものである。つまり憲法第九条第二項削除のみ、である。
 いうまでもなく憲法第九条第二項とは、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」という条項である。この条項は、良くいってあいまいすぎるし、悪くいえば、自衛隊の現実と一致しない全くの偽善的文章である。
 この条項さえ取り去ってしまえば、私は日本の安全保障についての憲法問題はほぼ解消し、安全保障についてより実質的な議論を深めることもできるし、シビリアンコントロールもより効果的になるのではないかと思う。また、事実上無意味ともいえる条項を削除するだけだから、諸外国の不必要な懸念を呼ぶ可能性も少ないと思う。
 まず、憲法第九条第一項を変える必要がないのはほとんど自明だと思う。「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という条項は、戦前の不戦条約以来の戦争違法化の流れにかなっているし、国際連合憲章の条項と一致している。したがって、これを変える必要はないし、不適切に変更すれば国連憲章違反になるであろう。
 問題は、第二項なのである。国際的な常識からすれば、第二項の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」というのは、事実にあわない。しかし、現在国民の大多数は自衛隊は必要だとおもっている。事実の方を憲法にあわせて変えるべきだという議論は、戦後の歴史の中でおおむね否定されたといってよい。そうだとすれば、条項の方を変えるのが適切だと思う。そして、私の見方によれば、別の条項に変える必要ない。ただ削除してしまえばよい。
 第二項削除によって起きる最大の利点は、集団的自衛権行使の禁止をめぐる不毛な議論に終止符を打つことができるということである。政府解釈によれば、日本は主権国家として当然個別的自衛権も集団的自衛権も保持しているが、憲法によって、集団的自衛権の行使は禁じられているという。そもそも、保持しているが行使できないものが権利といえるのかどうか大変疑問である。
 それに加えて、政府がこの解釈を厳格に適用しようとしているために、安全保障政策が、著しく法律中心主義になってきたという弊害が生まれている。国連のPKOであれ、ガイドライン関連の日米協力であれ、つねに議論の焦点は、いかなる活動が集団的自衛権の行使にあたるのかに集約してしまった。その結果、そもそも、いかなる状況で国連のために日本が協力するのか、いかなる日米協力が必要なのかといった本質論には目が向けられず、きわめて神学的ともいえるような議論が繰り広げられることになった。
 安全保障政策の実質(国際環境の見積もり、自衛隊を含む実働体制の整備、危機管理の方法)についての議論が少ないという意味で、日本のシビリアンコントロールが弱いといってよいのではないか。国会が違憲・合憲を争っている間に、自衛隊の整備や戦略・戦術は防衛庁のみで行われている。そこにいかなる欠点があるかは国会であまり議論されないのである。
 そもそも、政府解釈が集団的自衛権の行使は禁止されているとしているため、日本ではあたかも集団的自衛権が悪いものであるかのような認識がある。実際のところ、戦後の国際社会の流れは、どちらかといえば、個別的自衛権による国際紛争対処より集団的措置をとるという方向で動いてきている。集団的自衛権を行使するという形で軍事力整備をする方が、各国が保持する軍事力は少なくすむ可能性が大きいからである。現実に、日米同盟があったおかげで、日本独自の軍事力はかなり小さいものですんできたのである。
 私は日本の安全保障政策の基本を変える必要はないと思っている。日米同盟と軽武装である。しかし、そのための体制を十分整備し、シビリアンコントロールを充実させるためには、不毛な法律論議には終止符をうつ必要がある。また、憲法改正が国際的に注目されるとすれば、それはできるだけ簡明な方がよい。その一つの方法は、憲法第九条第二項の削除である。この条項を削除しても、日本国憲法の精神は代わらない。平和憲法は依然として平和憲法である。
 
◇田中 明彦(たなか あきひこ)
1954年生まれ。
東京大学教養学部卒業。米マサチューセッツ工科大学大学院修了。
東京大学助教授を経て、東京大学教授。東京大学東洋文化研究所所長。


 
 
 
 
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