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私はこう考える【憲法改正について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1987/05/03 朝日新聞朝刊
(わたしの言い分)憲法見直しの時期
大前研一(経済評論家)
 
 ――日本国憲法が施行されてから40年。内外の変化と産業界の栄枯盛衰には驚きます。
 「時代の変化とともに社是を変えない会社は滅ぶもので、社是はときどき見直す必要がある。憲法も同じです」
 ――憲法公布の時、朝日の社説は、憲法を生命のあるものとしておくためには社会の進歩と共に憲法が歩みを進めることが大切だとし、「例えば新憲法が経済問題に触れることの少ないことは、必ずや遠からぬ将来において、補強を要する問題である。慎重は要するが、憲法改正については、国民として不断の注意を怠らないよう心がけるべきである」と説きました。
 「そうでなくては思考停止です。戦争の永久放棄は変える必要はないが、吟味すべき点は幾つかある。一つは国際的責任や役割についての規定がない点。制定当時は敗戦で野望は持つなということだったから、この憲法がベスト。ところが今は、南アフリカの制裁やベトナム難民受け入れなどあらゆることで世界が注目する。国際関係の維持は軍備よりずっと重要だから、世界との関係を憲法で定めるべきで、人種差別の禁止規定を含め、1章を設けるに値する」
 
○立法府強くしたい
 ――三権のうち行政権が突出しているとか、地方自治が弱いとか、いろいろと『新・国富論』で指摘していましたが・・・
 「三権分立は運用次第だが、司法権を行政権に対して遠慮がちにする制度があるなら、補強すべきでしょう。行政と立法の一体化は、自民党だけが政権党であるという不幸からくる。対抗勢力が出やすい制度が必要かもしれない。会社では企画部門が社の方向を決めた後では、企画部門はあまり発言しない方がいい。そしてその方向に従って実施部門がある程度やると、また企画部門が見直す。国の仕掛けもこうありたいが、今は立法府を強くする仕掛けをどんどん実行すべき時です。変革は官僚にはやれない。地方自治では地方の事情はみな違うのに、一律に同じ法律でくくるのは問題です。しわよせで東京も発展できず、地方も遅れるだけ」
 ――GHQ案が、自治体の住民は「自らの基本法を奪われることはない」と広い自治権を認めていたのを、日本側が修正で中央集権を強めた結果です。
 「全国一律では漁業、製鉄を始めみな左前になった北海道は救えない。地方事情に応じて法を変えるなどの柔軟性がほしい。地価や水面の高率的利用の点で東京湾の漁業権は認めるべきなのか、といったことです」
 ――国鉄式に日本も幾つかに分国すべきだとか、連邦制をとったら、という話も聞きます。
 「一体性の上で連邦がいい。ここ数年の地方の落ち込みはひどく、産業誘致もできない。海外へは行くが地方は勘弁してくれという。連邦制は別としても、地方税は自由な選択をさせていい。売上税に似た税は米国では州税です。だいたい5900万の就業人口のうち、2000万は税金を納めていない。納税義務だけでなく、正しく課し正しく使う義務を設定する。日本ほど税の使い道が為政者の手加減で決められている国もない」
 ――選挙の際の1人1票については、憲法で細かく決めている国が幾つもあります。
 
○財産権の制限明記
 「サラリーマンは多数者であるのに、軽視されているから選挙でも棄権が多く、数では人口の7割でも投票価値からいったら1割もないほど。民主主義が安易に行われています。民主主義を守るにはどうすべきかが憲法にない。自覚と良識に期待するわけですが、それが怪しいデカダンスとエゴの時代で、高速道路の建設でも何でもゴネ得で行政コストを押し上げる。公共の福祉をもっと強くうたい、最大多数の最大幸福のためには個人の財産権をどう制限すべきかを、憲法に細かく定めないとダメな国ではないか。明治憲法は戦争をもたらし、今の憲法は経済力で世界を破壊する無情な国民を生みだしたと思う」
 ――憲法は簡潔に、細かなことは法律でという考えがあります。しかし、お上崇拝の国では官僚の権限を大きくし、国民の自由な行動を押さえがちです。
 「小売店保護のために大規模店を規制するなどもその例ですね。法の下の平等という点から考えると、特定産業の保護は禁止すべきです。産業の構造変化などでつぶれるところが出たら福祉政策で救えばよい。産業は政府が守れば守るほど改善しない。つぶれるものはつぶさないと、産業の転換も世界との融和もできない。永久にノイジー・マイノリティーが得をして、サイレント・マジョリティーが損をする国であっていいだろうか。特定産業の保護が必要なら、国民の大議論で決め、あとは自由主義経済に任すことです」
 ――憲法の生命は、戦争放棄、国民主権、人権尊重の3原則です。改憲を唱えると、3原則を変えるのに利用される、と懸念する人がいます。
 「3原則は賛成ですが、現実に9条は破れて自衛隊は合憲となり、戦力を持ってしまっている。タガがはずれた。日本人は設備に任せてどんどん生産し、よその会社をつぶしても平気なところがある。だから・・・」
 
○歯止めないと危険
 ――現実を憲法で追認すると、自制心のない国民はエスカレートさせてしまいそうです。
 「突破された以上、憲法でしっかり歯止めをかけておかないと、むしろ危険です。今は憲法解釈で自衛権があるとなっているわけですが、自衛権を認めるのなら、解釈でなく自衛権に憲法で明確な定義を与え、攻撃を禁止するとともに何が攻撃に当たるかを定義する。交戦権の発動はどんな場合に許されるかも決める。攻撃を受けてもいないのに、やられましたなどと報告する蘆溝橋事件のようなこともあるから、強いタガをはめ、指揮系統も憲法で規定する。スイスは平和主義の国ですが、ミリタリーに関しては実にはっきりしています。絶対に攻撃してはいけないが、外国軍の侵入があった場合は徹底的にやれということが国民に徹底し、制度でもそうなっている。日本は米国憲法よりスイス憲法を手本にしたほうがよかったかもしれない。米国憲法といえば、表現の自由では、米国憲法の修正1条のような無条件でないといけない」
 (聞き手・工藤宜編集委員)
 
 <メモ>公布当時、憲法は必ずしも歓迎されていない。例えば「天声人語」は、「明治の民のやうに、無条件に熱狂する気持にはなれない」と書いている。
 以後の憲法は、改憲の動きを経ながら、一度も改正されず、現在は「国民の間に定着した」とされる。それがどんな方向かも問わずに、改憲というと怒る人もいるほどに定着した。「戦力」と「自衛権」の問題を解釈でねじまげながら定着した面にも注意していい。
 この「定着」に問題はないかというのが今度の問いである。「社会の進歩と共に憲法が歩みを進めることが大切」なのは、40年前も今も変わりはない。
 憲法は絶対唯一ではない。たとえば大前氏が言及したスイス連邦憲法の国防条項は、「いずれのスイス人も兵役の義務を有する」と規定する一方、常備軍の保持を禁止し、「いかなる軍隊供給協定も締結してはならない」とする。しかし、「ある州が外国によって突然の危険にさらされた場合」の他州の「救援の義務」や連邦による「総括的軍事教育並びに武装」の実施などを定め、連邦が「宣戦を布告し、講和を締結」する権利を持つと記してもいる。外国憲法は大いに研究、比較すべきだ。
 
◇大前 研一(おおまえ けんいち)
1943年生まれ。
東京工大大学院、米マサチューセッツ工科大大学院修了。工学博士。
(株)日立製作所原子力開発部入社、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インクを経て、現在、ビジネス・ブレークスルー代表、経営コンサルタント、カリフォルニア大ロサンゼルス校大学院教授。


 
 
 
 
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